フォーレの最後の言葉

faure_tortelier_hubeau.jpgガブリエル・フォーレが死の2日前に2人の息子たちに残した次のような言葉。
「私がこの世を去ったら、私の作品が言わんとすることに耳を傾けて欲しい。結局、それがすべてだったのだ・・・。恐らく時間が解決してくれるだろう・・・。心を悩ましたり、深く悲しんだりしてはいけない。それは、サン=サーンスや他の人々にも訪れた運命なのだから・・・。忘れられる時は必ず来る・・・。そのようなことは取るに足りないことなのだ。私はできる限りのことをした・・・後は神の思し召しに従うまで・・・。」(~「ガブリエル・フォーレ―1845‐1924」ジャン・ミシェル・ネクトゥー著

人生において「何をやり遂げたか」、あるいは「何をやってきたのか」がすべてなのだと老巨匠は言う。すでに耳も機能せず、80歳を目前にしていた作曲家が、まさに最期に悟った意味深い言葉。裏を返せば人間その人に他人が魅力を感じるのではないということ。その人が生涯を通じて何に向かい、何に命を懸け、何を成し遂げてきたかに魅力が宿るということなのだろう。「できること」をできる限りることが大切なのである。

毎月開催している「早わかりクラシック音楽講座」のお陰で、僕も採り上げる作曲家について都度勉強する。今回のテーマがモーリス・ラヴェルだったので、彼に関する文献を読み漁り(今までの人生でラヴェルのことを真面目に興味を持って調べ、考えたことなどなかった)、持参の音盤を片っ端から聴いた。知れば知るほど天才であることを確信した。そして、おそらくだが、ラヴェルのその才能をより一層引き上げた師の一人がガブリエル・フォーレその人なのだろうと思った(誰の人生でもそうだが、どういう師、メンターに出逢えるかが鍵である)。

ところで、フォーレが残した作品群は、そのひとつひとつに渋みがあり、ブラームスとはまた違った意味で「侘び寂」の世界に通じるものがある。それに、決してゲルマン的な堅牢さではなく、どう表現すれば言い当てられるのかわからないが、フランスらしい輪郭が何ともぼんやりとして曖昧な雰囲気を持つところが洒落ている。

フォーレ:チェロ・ソナタ第1番ニ短調作品109&第2番ト短調作品117、エレジー作品24
ドビュッシー:チェロ・ソナタ
ポール・トルトゥリエ(チェロ)
ジャン・ユボー(ピアノ)

19世紀末から20世紀前半にかけてのパリ周辺の歴史は後を引く。興味を持てば持つほど、底なし沼であり、ずるずるとはまりこんでしまう。とにかく面白いのだ。「ワーグナーの毒」という表現があるが、ことに音楽などはひとたび魅了されると、ワーグナー以上に身も心ももっていかれてしまいそうになる。特に、フォーレが最晩年に創出したいくつかの室内楽は、ベートーヴェンのそれ同様心の耳で音を拾い、自らの心象風景をただただ無心に綴ったようで、極めて私小説的でありながら、神懸かった普遍性をもあわせもつまさに宇宙や自然と一体になった音楽である。大地から湧き出ずるチェロの切ない音色と、空からかすかに響き渡るようなピアノの「声」がひとつになって我々現代人の荒んだ心を癒してくれる。
前にも採り上げたハイドシェックとの再録盤も素晴らしいが、1962年に録音されたこのユボーとの音盤も甲乙つけがたい名盤だ。


2 COMMENTS

雅之

こんばんは。
トルトゥリエは大好きなチェリストで、このユボーによる演奏も全幅の信頼を置いているのですが、この2曲のチェロ・ソナタを含め、フォーレの後期は確かに渋い曲が多いですよね。私もそう好んでしょっちゅう聴いているわけではありません。
ところで、こういうちょっと取っ付きにくい曲を聴きたくなる動機のひとつに、私にはCDのジャケ買いがあります。ジャケ買いをきっかけに覚えた曲も数多くあります。
最近では枝並千花(Vn) 長尾洋史(P)の、ヴァイオリン・ソナタ第2 番Op.108他のCDもそのひとつで、買って何度も愛聴しています。美しい演奏です。
http://www.hmv.co.jp/product/detail/3573872
じつは枝並千花さんに、彼女のコンサートで一目惚れしてしまったのです、私。
平林直哉氏もCDの解説で絶賛していましたが、(参考)↓
http://www.hmv.co.jp/news/article/905110074/
氏も、いい歳して同じく一目惚れなんでしょうか?(笑)
しかし、こういう聴き方についても、私を何人(なんぴと)も責められないはずです。
クラオタがいくら偉そうに論争しても、所詮音楽の価値観とは、その人にとって「好き」か「嫌い」か、ただそれだけだからです。

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。
ジャケ買いですか!僕も「気持ち」はわかりますが、雅之さんほどは多くないような気がします(笑)。
枝並千花さんというヴァイオリニストは初耳ですが、美人ですねぇ。コンサートで一目惚れですか?!音楽ではなくてその容姿に?!(笑)
>所詮音楽の価値観とは、その人にとって「好き」か「嫌い」か、ただそれだけだからです。
うん、名言です!

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