正統派ブレンデル

variations_brendel.jpgブレンデルの演奏に惹かれたことはほとんどないが、この音盤に関しては「選曲の妙」という理由により、ごくたまにだが耳にして悦に浸る。

主題と変奏Ⅰ
・モーツァルト:デュポールのメヌエットによる9つの変奏曲ニ長調K.573
・メンデルスゾーン:厳格な変奏曲ニ短調作品54
・リスト:カンタータ「泣き、嘆き、憂い、おののき」による変奏曲
・ブラームス:主題と変奏(弦楽六重奏曲第1番作品18~第2楽章-ブラームス自身のピアノ版)
アルフレート・ブレンデル(ピアノ)

アシュケナージと並び、真面目で優等生ピアニストの代表格であるブレンデルの演奏は踏みはずしがない分とても安心だ。しかし、「面白み」にかける分何度も繰り返して聴くには不向きである。「中庸」という表現で片づけられる場合も多いが、解釈のしようによっては可もなく不可もなく、ただし、時折爆発的な名演奏(というより名録音)を残すのだから、それはそれで大した力量であると僕は思う。彼が数多残した音盤でその最右翼がこの録音(とはいえ、ブレンデルの全ての録音を聴き尽くしたわけでは決してないので、あくまで僕が聴いた僅かな音盤の中から選んでいるに過ぎない。よって当てにはならないが)。
1曲目は喜びを表現したかと思えば、突如悲しみに暮れるモーツァルトの心の機微をあくまで「中庸」に表現した正当な演奏。好き嫌いはともかく、極めて安心、これで良いのである。2曲目はメンデルゾーン。メンデルスゾーンにシリアスは似合わない。しかしながら、ブレンデルはそのタイトル通り、「厳格な」という言葉を信じて真っ直ぐに突き進む。横道に決して逸れず、「正しい」と信じる解釈を貫く四角張った「頑固一徹」の音楽。そして、リストがバッハのカンタータ及びミサ曲をモチーフに創作した3曲目。残念ながらBGMにぴったりの音楽作り。

ちなみに、ラストのブラームス。クララへの想いをより露わにし、一層色気のある演奏こそが望ましいのだろうが、アカデミック派のブレンデルの演奏は成就し得ない恋を最初から諦めるかの如く極めて冷静で左脳的である。しかし、「頭で考えながらも」憧憬と恋慕に満ちたこの創造物は少なくともこの音盤の「白眉」であり、求道者ブレンデルの面目躍如たる側面を大いに表す傑作だと僕は思う。

自分を改善向上しようとしているとどんな人でも進化していくものである。
ただし、その際重要なポイントがいくつか。
「素直に自分を振り返り、掘り下げること」
「決して恥ずかしがらず、包み隠さず掘り下げた全てを語れる友を持つこと」など。
要は「受け容れる」ということだ。


6 COMMENTS

雅之

おはようございます。
「霊感」より「思考の産物」の芸術という意味において、ブラームスとブレンデルには、似たところがあると思っています。
ただし、ブレンデルについてはピアノの音色等も含めて、私は好きなピアニストの中のひとりです。だいぶ前に入れた、アバド&ベルリン・フィルとのブラームスのピアノ協奏曲第1番&第2番なども、愛聴していた時代がありました。
ご紹介の盤は残念ながら未聴ですが、聴いたら気に入りそうです。いかにもブレンデルに合いそうな選曲ですね!
ブレンデルの変奏曲演奏で私のお薦めとしては、やはりシューマンの交響的練習曲の新旧録音盤を挙げておきましょう。
(旧盤)↓
http://www.hmv.co.jp/product/detail/3535009
ブレンデルのシューマンも、意外にいい演奏が多いんですよ!「幻想曲」「幻想小曲集」「クライスレリアーナ」などの録音も昔から好きで、その日の気分によっては時々聴くことがあります。
ところで、今の私は、ブラームスよりエルガーのほうを遥かに愛しています(音楽も、その人生も・・・)。
この秋、私がとくに集中的に聴こうと思っているのは、ブラームスではなくエルガーです(笑)。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
>「霊感」より「思考の産物」の芸術という意味において、ブラームスとブレンデルには、似たところがあると思っています。
確かにおっしゃるとおりですね。
>アバド&ベルリン・フィルとのブラームスのピアノ協奏曲第1番&第2番なども、愛聴していた時代がありました。
残念ながら僕は未聴です。
>私のお薦めとしては、やはりシューマンの交響的練習曲の新旧録音盤
こちらも聴いておりません。雅之さんがおススメだという音盤も聴かないでブレンデルを云々するのは資格なしですね(笑)。失礼しました。ただし、シューマンの「幻想小曲集」が入っていた音盤(何とカップリングされてたか忘れました)は昔よく聴きました(ただし、売却してしまいましたが)。よかったですね、あれは。
>この秋、私がとくに集中的に聴こうと思っているのは、ブラームスではなくエルガーです
僕も見習います(笑)。

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ザンパ

ブレンデルは僕はすごいピアニストだと思います。
でも、聴きどころを間違えると、難しいピアニストにもなります。
ブレンデルのことを、岡本さんは中庸、伝統的とおっしゃいますが、
僕は違う意見です。
彼の魅力は、
「見た目はお米なんだけど、実は小麦粉で作ってある」
ような音楽作り、という感じでしょうか?
「だったらコメを食うさ」と言う人には面白さは伝わらない。
「おお、まるで米だね」と思う人には面白すぎるピアニストと言えると言えるでしょう。
たぶん、ブレンデルは、クラシック音楽というものを信じていないのでしょう。
吉田某も同じ指摘をしていて驚いたことがあるのですが。
その孤独な試みから、一人で頂点を気築き上げただけで、
僕は尊敬しているピアニストであり芸術家です。

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岡本 浩和

>ザンパ様
こんにちは。
>彼の魅力は、
「見た目はお米なんだけど、実は小麦粉で作ってある」
ような音楽作り、という感じでしょうか?
「だったらコメを食うさ」と言う人には面白さは伝わらない。
「おお、まるで米だね」と思う人には面白すぎるピアニストと言えると言えるでしょう。
なるほど、うまいことおっしゃいますね。
僕もどちらかというとブレンデルは先入観を持って聴いていたかもしれません。何より聴き込みがまったく足りませんし。
ちょっと真面目にいろいろと聴いてみたくなりました。
ありがとうございます。

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畑山千恵子

ブレンデルが日本でさよならコンサートを行わずに引退したことは残念でした。2001年の来日が最後になりましたね。そうした形でも最後の来日公演を行ってほしかったとつくづく思います。
ベートーヴェンのピアノソナタ、シューベルトのピアノ作品、シューマンの幻想小曲集、子供の情景、クライスレリアーナ、幻想曲、モーツァルトのピアノソナタ、全て名演ばかりです。
ブラームスのピアノ協奏曲第1番など、じっくり聴いてみたいものですね。ベートーヴェンのピアノ協奏曲も聴いてみたいものです。
いずれにせよ、さよならコンサートもなく引退したことは寂しい限りです。
9月26日、スペインの名ピアニスト、アリシア・デ・ラローチャも亡くなりました。20世紀を代表する名ピアニストたちの引退、訃報を聞くと、また寂しい限りです。

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岡本 浩和

>畑山千恵子様
こんにちは。
本文にも書きましたが、ブレンデルについては先入観を持っていたお蔭で結局実演は一度も聴かず仕舞いでした。
皆様からのご意見をいただくたびに後悔の念でいっぱいになります。
ラローチャも亡くなってしまいましたね・・・。

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