フィルムアート社発刊の『キューブリック全書』を読むと、映画「2001年宇宙の旅」の制作秘話、それにまつわる話が念入りに書かれており、様々な疑問が氷解して面白い。
例えば、一番衝撃的なのがサントラに収録され、この映画のテーマ音楽として採用された録音だと思い込んでいたカール・ベーム&ベルリン・フィルの演奏が実は当該演奏ではなく、何とカラヤンがウィーン・フィルと録音したデッカ盤だったという事実!
この録音のプロデューサーであったジョン・カルショウの証言が残っているゆえ間違いないのだが、サウンドトラックに収録するにあたり演奏者名やレコード会社のクレジットを一切伏せることが条件だったことが、より一層の混乱を招いたようである。確かに映画を観るとエンド・クレジットには、他の楽曲にはすべて演奏者が記されているにもかかわらず、「ツァラトゥストラはかく語りき」のみ演奏者の明記がない。不思議に思ったものだが、その理由まで追求しなかったので、何の疑問も持たずにベームのものだと信じ込んでいた。
それに、先日雅之さんからコメントでご指摘があったように、ベームはカラヤン同様、どうやら御大シュトラウスの実演に倣って、冒頭のトランペットのフレーズ「ターターター」のあとの「パッパーン」を「パパーン」と演奏させているという事実が、また誤解、混乱に輪をかけたのだろう。
ところで、この映画の第3部である「木星、そして無限の彼方」のシークェンスに完全一致させ、長さも正確に同じにし、映画で起こる出来事を辿るようにアレンジした音楽がPink FloydのEchoesだと初めて知り、驚愕した。「2001年」の影響を受けたアーティストで最も有名なのはDavid Bowieだが(彼は1969年に「Space Oddity」というアルバムをリリースした)、フロイドも何とインスパイアされていたのである!
Personnel
Roger Waters(Bass & Vocals)
Richard Wright(Keyboard & Vocals)
Nick Mason(Drums & Percussion)
David Gilmour(Guitars & Vocals)
1971年にピンク・フロイドが発表した意欲作。中でも、イギリス人の持つ知的でかつ繊細なセンスが爆発したマスターピース、23分を超えるラストナンバーの「Echoes」の出来が素晴らしい。昨晩実際に「木星、そして無限の彼方」の映像と合わせて音を流してみた。何と寸分違わず見事に一致。物理的な長さはもちろんのこと、雰囲気までこのサイケデリックな映像にぴったりゆえ、おそらくこの説も間違いはないであろう。久しぶりにフロイドを何度も聴いたが、やっぱり最高!昨年Rickが亡くなってしまった以上、オリジナル・ピンク・フロイドの音を実際に耳にする機会は完全に葬られたが、せめてRogerが一時的で良いから再加入(再集結?)し3人で繰り広げるパフォーマンスを生で聴いてみたいと強く思った。
「ツァラトゥストラはかく語りき」に発するここのところの話題でキューブリック監督の「2001年宇宙の旅」を何度か観てみた。観るたびに新しい気づきをくれる傑作映画だと思う。
おはようございます。
映画「2001年宇宙の旅」について、岡本さんのブログのおかげで連立方程式や詰将棋を解くように長年の疑問が氷解し、感謝しております。
この映画で使われた「ツァラトゥストラはかく語りき」の冒頭は、私の大学時代、学オケの友人達の間などでもベーム&ベルリン・フィルが常識で、「哲学的な部分は、ベーム指揮の『ツァラ』、曲線美の宇宙船ステーションが回転するシーンではカラヤン指揮の『美しく青きドナウ』を使うなんて、キューブリックの音楽センスはさすがだよね!」などと雑談していたのをはっきり憶えています。それが『ツァラ』もカラヤン指揮だったなんて!
>「Echoes」の出来が素晴らしい。昨晩実際に「木星、そして無限の彼方」の映像と合わせて音を流してみた。何と寸分違わず見事に一致。
これは凄い! ピンク・フロイドのこのアルバムも予てより傑作だと思っていましたので、映画「ブレードランナー」DVDについての、先日の私のコメントではないですけど、『ニューヨーク試写版』と称して、「Echoes」を使用した版も別にDVD化して欲しいですね。ついでにと言ったらなんですが、これも没になった、アレックス・ノースの音楽を使用したバージョンも観たいです。
※天文ファンには周知の事実なのですが、今年7月、また木星に巨大な何かが激突したようです。
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=2009072104&expand
http://www.sorae.jp/031008/3157.html
大変です、岡本隊長!!!「モノリス」と何か関係があるかもしれませんよ!!!(笑)
>雅之様
おはようございます。
そうですよね、みんな信じてましたよね。
おそらく音盤でしっかり聴き比べると明らかに「違い」はありそうですからね。いずれカラヤン盤を買って聴き比べようとは思いますが、人間の「思い込み」というのは相当なものですね。
>「Echoes」を使用した版
それは面白い試みです!
>アレックス・ノースの音楽を使用したバージョン
これは観てみたい!
>今年7月、また木星に巨大な何かが激突したようです。
これは知りませんでした。
いろいろと貴重な情報をありがとうございます。
確かに「モノリス」と関係があるのかも!(笑)
[…] リック・ライト作”See-Saw”の牧歌的な調べが意外に好き。 ラストのシド・バレット作”Jugband Blues”は名曲だけれど、僕の感覚でもアルバム中異質。これを聴くとシド・バレットが抜けたお蔭で以降のフロイドの方向性が決定づけられ、「原子心母」も「おせっかい」も、そして「狂気」も世に出ることになったということが理解できる。何とも何がどうなってどうなるのか、歴史というのはわからないもの。 とはいえ、こういう人生の分岐点で主人公が別の道を選んでいたら(フロイドの場合はシドが病気にならず辞めずに残っていたら)どうなっていたのかというのはナンセンスな問い。どっちを選んでもフロイドはフロイドだったろうから。その証拠に、シドがグループを去った後初めてのヨーロッパ公演で、初期のフロイド・ファンたちは、完全にグループに背を向けたそう(シド・バレットというのは相当なカリスマ性のある人間だったよう)。 […]
[…] タイトル曲はもちろんのこと(コーラスに起用されたジョン・オールディス合唱団が素晴らしい。ちょうど同時期に、彼らはオットー・クレンペラー指揮の「フィガロ」での合唱にも起用されている)、ウォーターズの”If”も、ライトの”Summer ‘68”も、そしてギルモアの”Fat Old Sun”も、すべてがのちのフロイドの特性を先取りする個性全開の楽曲で、とても爽快。「原子心母」は個性的であり、また革新的であり、素晴らしいアルバムだと僕は思う。 なるほど、このアルバムに対するアンチテーゼとして次作”Meddle”(邦題:おせっかい)が生み出されたのではなかろうか。ラスト・ナンバー”Echoes”こそ、彼らの最初の「夜の音楽」になった。 […]