僕の運命を変えたあの日の、一夜の記録。
全盛期の朝比奈隆の、熱を帯びた、揺れの激しいブラームスの名演奏。
御大のいくつかの録音を含め、これ以上劇的かつ激情にあふれる音楽はないのかも。
旋律がうねり、リズムは武骨ながら弾ける様に心動く。
第3番ヘ長調の堂々たる風貌。これほどまでに安定した、余裕の表情の終楽章アレグロはない。終演後の聴衆の信じられないほどの熱狂(ちなみに、この壮大な拍手の中に僕がいる)!!いまだバブル冷めやらぬあの時代の、意味深い実況録音。
久しぶりに耳にして、あらためて朝比奈隆のブラームスの素晴らしさを思い知った。
ブラームス:
・交響曲第3番ヘ長調作品90(1990.5.1Live)
・ハイドンの主題による変奏曲作品56a(1992.5.15)
朝比奈隆指揮新日本フィルハーモニー交響楽団
あるいは、ブルックナーの「ロマンティック」と共に披露された、その2年後の「ハイドン変奏曲」の、相変わらずの重心の低さに心動く。今となっては懐かしい、いかにも明治生まれの大指揮者ののりしろのある大演奏。
雑音がはいっても、小さなミスがあっても、その気迫は圧倒的であるのは、オーケストラのただ一度の生命の燃焼によるものであろう。しかし、それには強い自信と権威とが必要である。私もこれからの残された時を、やり直しのない、一回限りの仕事を精いっぱい積み重ねることで埋めたいものである。
「ただ一度の生命」
~朝比奈隆回想録「楽は堂に満ちて」(音楽之友社)P152-153
その場その場の「いまここ」を重視した朝比奈御大の、何とも霊感豊かな音楽は、(指揮の技術が未熟だと言われようと)唯一無二。あの頃、幾度も御大の実演を聴けたことに今さらながら感謝の念が絶えない。
一際激しい最後の喝采に畏怖の思い。
朝比奈隆のブラームスの永久保存版と言っても過言でない。
最初聴いた時の明快な印象は、2回、3回そして10回と聴くことで、ますます豊かさを増し、音楽的喜びを深き泉から汲み取ることができるだろう。フィルハーモニーでの演奏会の大成功のニュースは外部にも、輝かしく漏れ聞こえてきた。私は「いまシューマンが生きていたら」という思いを頭から追いやることができないのである。
「1883年12月2日、ハンス・リヒター指揮ウィーン・フィルハーモニーのコンサートでの世界初演評」
~日本ブラームス協会編「ブラームスの『実像』―回想録、交遊録、探訪記にみる作曲家の素顔」(音楽之友社)P20
いぶし銀のブラームスに乾杯。朝比奈御大は偉大だ。
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