モントゥー&ウィーン・フィルのブラームス交響曲第2番を聴いて思ふ

brahms_2_monteux_vpo_1957ブラームスと同時代の作曲家であり、音楽評論家であるリヒャルト・ホイベルガーが語るブラームス像が実にリアルで、この大作曲家の人間性を見事に表出していて面白い。
彼は、1878年2月16日の午前中に、ブラームス所有の興味深い自筆譜や手書き原稿をいくつも見せてもらったのだと。

モーツァルトの「交響曲ト短調」自筆スコア。作曲家自身が、音符を鉛筆で付け加えているウェーバーの歌曲。ワーグナーでは、「タンホイザー」の自筆スコア。それに手紙数通と「ラインの黄金」自筆スコアの1ページ、さらに「ブラームスに献呈」と書かれた「ラインの黄金」フルスコアの印刷譜などである。
天崎浩二編・訳、関根裕子共訳「ブラームス回想録集②ブラームスは語る」P17

数多の貴重な資料を所持していたこともさることながら、ブラームスは、何と「ラインの黄金」のフルスコアをワーグナーから献呈されているわけだ。

コージマたちがどんなに頼んでも返却しようとしないので、結局ワーグナー本人が、「息子に残したいから」という手紙を書いてきた。するとブラームスは代わりを所望する。ワーグナーはしょうがなく「ラインの黄金」のスコアを自筆の献辞つきで送ってきた。ブラームスはお礼の返事を書く。
「『ワルキューレ』の方が良かったのですが、まぁ『ラインの黄金』もあなたの作品には違いないですからね」
ブラームスはワーグナーと交流があったのを、ハンスリックには内緒にしていた。
~同上書P104

何という厚かましさ。しかし、こういう言から推測するに、世に言われる「ワーグナー派対ブラームス派」というのは取り巻き連中の図式であって、本人たちは知る由のない、全く関係のないことだったのだろう。少なくともブラームスはワーグナーの天才を認めていたどころでなく、尊敬すらしていたように思われる。しかも、あのワーグナーが彼の要望を素直に受け容れ、実際にスコアを献呈するのだから、この人もブラームスの才能を大いに認めていたということだ。

すべてがいかにも「真実」のように語られるが、本人のあずかり知らぬところで物事は勝手に動く。世界は得てしてそんなもの。

ブラームス:交響曲第2番ニ長調作品73(1957.11.25-27録音)
メンデルスゾーン:劇音楽「真夏の夜の夢」作品61から(1959.4.13&15録音)
・序曲作品21
・スケルツォ
・夜想曲
・結婚行進曲
ピエール・モントゥー指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

モントゥーのブラームスはドイツ的堅牢さを保ちながら、非常に「歌」に富む。その意味では、彼が第2交響曲にこだわり4種もの録音を残したのに、ほかの3つの交響曲には正規録音を残さなかった理由がわかる気がする。あの慎重で気難しいブラームスがわずかひと夏で書き上げたこの傑作は、緑あふれるペルチャッハの大自然の描写であるとともに、自身の社会的精神的安定の所産である。ゆえにどの部分においても明朗で前向きな旋律に溢れ、聴いていて愉しくなる。モントゥーはおそらくこの内に溢れる「歌」に惹かれた。「歌」とはすなわち「愛」ともいう。

なるほど、ワーグナーにも同じくそういう「歌」がある。1870年8月25日のようやく成ったコジマとの結婚式前後の「コジマの日記」をひもとく。創作の上でもいかにワーグナーにとってコジマという女性が重要であったか・・・。

彼はまた私を抱擁して、愛しき女よ、気の毒なベートーヴェンがついに勝ち得ることのできなかった女よ、と言った。よりによってこの哀れな年寄りがその幸せに恵まれた、だからこそこんなに途方もない自信にあふれているわけだよ、と。
1870年8月12日金曜日
三光長治・池上純一・池上弘子訳「コジマの日記2」(東海大学出版会)P103

自身を楽聖に比較して云々しているところがいかにも顕示欲の現れ。しかし、それは許される。不世出の大天才だから。そしてまた、大天才とはいえあまりに人間臭い人間。ブラームス然り。
日記や書簡類を手繰るのは本当に興味深い。

この作品(交響曲第2番)は、ただただ青い空、泉のざわめき、太陽の輝き、そして涼しい緑の木陰だ。ヴェルター湖はきっと美しいところに違いあるまい。
(友人で外科医のテオドール・ビルロートが「第2交響曲」を評した言葉)
三宅幸夫著「カラー版作曲家の生涯 ブラームス」P126

今年はピエール・モントゥー没後50年。

 

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