サントリーホール国際作曲委嘱シリーズNo.41〈イェルク・ヴィトマン〉《管弦楽》

何より新しい響きを創造することがイェルク・ヴィトマンの志のようだ。
彼は一つ一つのフレーズと楽想をとても大事にする。

高度な技巧を要求し、斬新な響きを創出した最初の音楽家は、カール・マリア・フォン・ウェーバーだとヴィトマンは言う。確かにウェーバーのクラリネット協奏曲は、19世紀初頭にしては(ベートーヴェンやシューベルト同様)革新的な挑戦があり、音調は早ロマン派の先取りのような色合いを持つ。
今宵聴いたヴィトマン吹き振りによるクラリネット協奏曲は、まるで楽器が身体の一部であるかのように縦横無尽の動きを見せ、第1楽章アレグロから実に弾力のある、愉悦的かつ魅力的な音楽が放たれていた。特に、第2楽章アダージョ・マ・ノン・トロッポでの、合いの手が3本のホルンであるカデンツァの夢見るような美しさはどれほどのものであったか。息の長い旋律は僕たちを魅了し、200年前のドイツの緑深き森を髣髴とさせる森羅万象の幻想世界に誘ってくれた。そして、終楽章ロンドにおける技巧は、ヴィトマンのクラリネット奏者としての天才を示していた。

続く、クールの「アゲイン」の、時空を飛び交い、静動入り乱れる音塊の魔法。冒頭、コンサートマスターの独奏から、まるでミニマル音楽のように点々と弦楽器に引き継がれ、明滅し、それが徐々に広がりを見せるや、ミュート付金管群が炸裂し、打楽器群が爆発する様に、宇宙の起源の有様を僕は想像した。引いては打ち寄せ、打ち寄せては引く波際の絶妙な葛藤を見事に音で表現したミクロ・コスモス。絶品だ。

そして、ヴィトマン作の「コン・ブリオ」は、まさに「舞踏の聖化」たるベートーヴェンの影の強調であり、イ長調交響曲の骨格だけを浮き上がらせる方法に度肝を抜かれた。ここにあるのは楽聖の、いわば「裏側」。おそらく誰にも見せなかったであろう、インド哲学にはまった晩年のベートーヴェンの、内なる深層の確実なる音化。素晴らしかった。

サントリーホール国際作曲委嘱シリーズNo.41(監修:細川俊夫)
テーマ作曲家〈イェルク・ヴィトマン〉
《管弦楽》
2018年8月31日(金)19時開演
サントリーホール
・カール・マリア・フォン・ウェーバー:クラリネット協奏曲第1番ヘ短調作品73(1811)
・ヤン・エスラ・クール:オーケストラのための「アゲイン」(2018)(世界初演)
・イェルク・ヴィトマン:オーケストラのための演奏会用序曲「コン・ブリオ」(2008)
休憩
・イェルク・ヴィトマン:クラリネット独奏のための幻想曲(1993/2011)
・イェルク・ヴィトマン:ヴァイオリン協奏曲第2番(2018)(世界初演 サントリーホール、パリ管弦楽団、フランクフルト放送交響楽団による共同委嘱)
イェルク・ヴィトマン(指揮・クラリネット)
カロリン・ヴィトマン(ヴァイオリン)
東京都交響楽団

20分の休憩を挟んでの後半。
「幻想曲」は、信じがたい、相変わらずの七変化の音色。音楽は文字通り幻の如く、時間の経過とともに現れ消え、また消え現れる。

今夜の白眉はもちろん、世界初演の委嘱作ヴァイオリン協奏曲!!
妹カロリンに献呈されたこの音楽は、ヴァイオリンの特殊奏法含め、(時折の爆発はあるものの)一貫して静謐さを追求する傑作(だと僕は思った)。第1楽章ウナ・リチェルカは、終結に向かって阿鼻叫喚をあげ行くものの、カロリンのヴァイオリンはほとんど音になるかならないかギリギリの線で見事な歌を披露し(時折弾きながらのヴォカリーズあり)、恐るべき集中力で音楽を再生した。これは、もはやこれは録音には絶対入り切らない音楽だ。
そして、「ロマンス」と題された第2楽章は、ほとんど熱波の如く、僕たちを、そして会場のすべてを恋の炎で焼き尽くすような色香を発していた。作曲者はこの楽章を、爆発と隣り合わせにある感性の、「心の内部へと向かう旅」だとする。納得だ。
あるいは、終楽章モビーレの虹色のような色彩。ヴィトマンの想像力は計り知れない。

 

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