カーゾン ブリテン指揮イギリス室内管 モーツァルト ピアノ協奏曲第27番変ロ長調K.595ほか(1970.9録音)

高校生の頃、欲しくてもそう簡単には高価な(?)レコードを手に入れることはできなかった。廉価盤とはいえ1,000円した時代(イエロー・レーベル通常盤だと2,600円はしたと記憶する)。
そんな頃、僕は「レコード芸術」誌を片手に夢想した。
1980年の(あるいは81年だったか)何月号だったか、モーツァルトの交響曲特集があったと記憶する。評論家のどなただったか今や定かでないが、いくつかでベンジャミン・ブリテンの指揮する録音を推薦されていたこともあり、それからしばらくして1枚のアルバムを購入(当時、僕はブルーノ・ワルターに首っ丈だったので、交響曲ではなく、あえて協奏曲を入手)した。

ワルター指揮コロンビア響 モーツァルト 交響曲第41番K.551「ジュピター」(1960.2録音)ほか 

イギリスの誇る名ピアニスト、サー・クリフォード・カーゾンは、1982年9月10日、心臓発作のためロンドンで急逝した。75歳。
『ザ・タイムズ』紙はそのオビチュアリ(死亡記事欄)にカーゾンの顔写真を掲げて3段に及ぶ追悼記事をのせた。12.5×14cmというかなり大きなスペースを与えているのは、生前のカーゾンのステイタスを物語るものであろう。カーゾンの録音をほとんど独占的に扱ってきた英デッカでは、11月新譜として追悼盤を1枚発売した。それが、このレコードである。しかも、その追悼盤が1970年9月に録音したものの初リリースであるとは、どういうことなのだろう。

~L20C-2042ライナーノーツ

その事情は次のようだ。

40年間という英デッカとの長い専属契約にもかかわらず、カーゾンのレコードは寥々たるものである。主な理由はまずカーゾンの録音嫌いであろう。英デッカの録音プロデューサーとして鳴らした故ピーター・グッドチャイルドが遺して行った有名なエピソードがある。グッドチャイルドは、かつある協奏曲の演奏直後、カーゾンを褒めちぎって、すぐ録音したいものだとカーゾンに持ちかけた。ピアニストの答えは名プロデューサーを絶望させるに充分だった。
「君たちとのトラブルは、君たちが飛んでいる鳥をとらえようとするよりも、むしろ蝶々の剝製をほしがってるということなんだよ」。
カーゾンは、レコーディングには特別な難問がいくつかある、と思っていた。
「とりわけ、ある種の死んだような状態の危険性がある。けれども、ときには二度と再び起こりそうもないようなことの起こる、しんからの満足が与えられることのあるのは事実である。何の抑制もなく自由に弾きだしたりするときによくあることだが、たいていテープが回っていなかったりしてネ。しかし私は、すべてのデッカのエンジニアには、彼らの倦むことを知らない熱心さと忍耐力に対して、最高の讃美を抱いているといわなくてはならない。そして、スネープにおける想像力豊かな新しいコンサート・ホール〔ザ・モールティングス〕は、この種の仕事に完璧な会場を提供しているように思われる」。
カーゾンは発売日まで決まっていたレコーディングに、ストップをかけたことも再三ではなかったらしい。1970年7月28日発売予定だった英デッカの新譜もその一例であった。モーツァルトのピアノ協奏曲:《戴冠式》K.537とK.595の組み合わせで、付けはイシュトヴァン・ケルテス指揮LSOである。これは永久におくらになったが、その後ブリテン/ECOとスネープのモールティングスでとり直すという噂があった。それが今回の追悼盤だったわけである(K.537がK.466に変更されているが)。それもベンジャミン・ブリテンの在世中には出なかった(ブリテンは1976年12月4日、63歳でオールドバラの自邸において亡くなった)。

~同上ライナーノーツ

「永久におくら」と書かれたケルテス盤も後にリリースされたけれど。

モーツァルト:
・ピアノ協奏曲第20番ニ短調K.466
・ピアノ協奏曲第27番変ロ長調K.595
サー・クリフォード・カーゾン(ピアノ)
ベンジャミン・ブリテン指揮イギリス室内管弦楽団(1970.9録音)

モーツァルトの光と翳。
K.595にある陰影は、その年に命を終えることになるモーツァルトの遺言のよう。
カーゾンのピアノ独奏は、その心境を見事にとらえていて、第1楽章アレグロ冒頭から心に迫る(外連味のない、透明なカデンツァがまた絶品!)。

同様に、静けさに満ちる第2楽章ラルゲットのあまりの美しさ。

そして、終楽章アレグロの、もはやここで終わりと思えない喜びに感謝の念を覚える。
(ブリテンの伴奏は、独奏部を引き立てるものであり、「俺、俺」と主張するものでないところがまた素敵)

リヒテル ブリテン指揮イギリス室内管 モーツァルト ピアノ協奏曲第27番K.595(1965.6.16Live)ほか

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