デュトワ&N響のショスタコ8番

NHK_so_101216.jpg言葉にならない、そんな感覚。今宵、サントリーホールでデュトワ指揮するN響のラヴェルとショスタコーヴィチを聴いたが、壮絶な音の洪水に放心状態・・・。席がちょうど2階のLAということで、オーケストラの真横で包まれながら音を浴びるという感じ。普段なら聴こえないであろうトライアングルや木管楽器のソロ、あるいは太鼓の地響きのようなうねりが直接に体感でき、ショスタコーヴィチという20世紀ソビエトの生んだ大作曲家の想像不可能な脳みその内を垣間見させてもらえたようで、おそらくこれまでの人生で初めてとも言っていいほどの衝撃的な体験(ブルックナーやマーラーの大交響曲が一気に霞んでしまった、そんな感じ)。もう、ショスタコーヴィチの「天才」を目の当たりにし、腰が抜けたかのよう。第1楽章の冒頭から心を捕らえて離さない。緊張と弛緩が交互に訪れ、人間の体内リズムを知り尽くしたかのような完璧な構造。おそらくショスタコーヴィチは「収集心」に富んでいたのではないか。これほど「集中力」を要しながら、それが一切途切れずに、むしろ「安心」と「満足」の1時間強という時間を我々聴衆に与えてくれる作曲家は他には思い当たらない。特に第8交響曲はまるでコンチェルトのよう。それぞれの楽器がソロを披露する場面の緊張感と興味深さ。それにしても今日のN響、特に主席オーボエ奏者の池田昭子さんは完璧だった・・・(感涙)。

NHK交響楽団第1690回定期公演Bプログラム
・ラヴェル:ピアノ協奏曲ト長調
アンコール~
・メシアン:前奏曲集~静かな嘆き
ピエール・ロラン・エマール(ピアノ)
・ショスタコーヴィチ:交響曲第8番ハ短調作品65
堀正文(コンサートマスター)
シャルル・デュトワ指揮NHK交響楽団

これまでアルゲリッチやルガンスキー、ハイドシェックなど、何度かラヴェルのコンチェルトには接しているが、今日のエマールの演奏は、実に洒脱で高貴、終始抑えた音量で、首筋を羽毛で愛撫されるようなゾクゾク感(何という喩え!・・・笑)が堪らなかった。しかし、後半のショスタコの刺激があまりに壮絶だったせいか、この傑作が何だかムード音楽のように記憶されてしまっていることが笑えるのだが(あくまで僕の主観)。それより初めて聴いたメシアンの作品が、どうにもこうにも気に入った。ラヴェルのあまりに人間的で俗世間的な音楽の後に聖なるメシアンとは、何とも粋。

15分間の休憩を挟んだ後の、ショスタコーヴィチについては感無量としか言いようがない。シャルル・デュトワの音楽性と見事にマッチした今日の舞台は、間違いなく2010年度のコンサート体験の白眉(いや、愛知とし子のリサイタルでしょと隣で誰かが騒いでいるので(笑)、オーケストラ・コンサートに限ってはということで)。

ところで、ショスタコについて「収集心」に富んでいるのではと前述したが、コレクターというのはともかく「集中力」に長けている人だと僕は考える。少なくとも自身が興味を持った分野に関して彼らは尋常ならざる「集中力」と「収集癖」を露呈する。「人生は楽し」。「不安」を想起させながらも、実に人生山あり谷ありで、どんな出来事も実は「必要な経験」であり、一切悲観することないことをあらためてこの音楽から教えていただけた。感謝。


6 COMMENTS

雅之

おはようございます。
ショスタコ第8交響曲の実演を堪能され羨ましいです。やはりデュトワのショスタコは最高だったですか!
それに2階のLA席で聴かれたとは!じつに私好みの聴き方をされましたね(爆)。ちなみにサントリーホールで私が最もお気に入りな席は、RB2列目の9~10、3列目の8~10あたりで、
http://www.suntory.co.jp/suntoryhall/hallguide/seat_main.html
ここは舞台をほぼ死角なく俯瞰でき、楽器聴きには、まさに特等席だったです(笑)。サントリーでオケを聴く時は、まずそのあたりの席を狙います。
主席オーボエ奏者の池田昭子さんが吹かれたのは、おそらくオーボエではなくイングリッシュ・ホルンのソロのほうですよね? 私もN響の演奏会では、いつも彼女に愛の視線を送っていました(笑)。でも、本当に彼女のオーボエやイングリッシュ・ホルン演奏には、いつも聴き惚れてしまいます。私が聴いた中では、シベリウス「トゥオネラの白鳥」でのイングリッシュ・ホルンのソロなど、宇野さん流に言えば、まさに「美しさの限り」でした。
今回は、ただただブログ本文に心から共感するだけです。
何だか私も、来年2月20日のオーケストラ・ダスビダーニャの定期演奏会に行きたくなりました。
>「不安」を想起させながらも、実に人生山あり谷ありで、どんな出来事も実は「必要な経験」であり、一切悲観することないことをあらためてこの音楽から教えていただけた。感謝。
同感の極みです。
※エマールも素晴らしいピアニストですよね。バッハにしてもシューマンにしても
http://www.amazon.co.jp/%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%83%B3-%E8%AC%9D%E8%82%89%E7%A5%AD-%E3%82%A8%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%83%AB-%E3%83%94%E3%82%A8%E3%83%BC%E3%83%AB-%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%83%B3/dp/B000KJTIJ0/ref=sr_1_1?s=music&ie=UTF8&qid=1292537024&sr=1-1
ラヴェルにせよメシアンにせよ、ソロでもアンサンブルでも、レパートリーが広いけれど、そのどれもがいいですよね。

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岡本 浩和

>雅之様
こんにちは。
ただただ感動のひとときでした。
雅之さんがお気に入りの席、これは陛下の特等席ですね(笑)。何度か天覧コンサートに同席したことがありますが、両陛下はRB2列目の9&10に座られていたように記憶します(RCだったかもしれませんが・・・)。
>池田昭子さんが吹かれたのは、おそらくオーボエではなくイングリッシュ・ホルンのソロのほうですよね?
あ、その通りです。失礼しました。
>私が聴いた中では、シベリウス「トゥオネラの白鳥」でのイングリッシュ・ホルンのソロなど、宇野さん流に言えば、まさに「美しさの限り」でした。
それは貴重なご体験!彼女の演奏をいろいろと聴いてみたくなりました。
来年2月のダスビのコンサート、残念ながら僕は予定の関係で行けなくなったのですが、ぜひ雅之さんには行っていただいて、感想を聴かせていただきたいです。雅之さんが日頃からおっしゃるようにショスタコは生で聴かないと話にならないことを昨日は本当に痛感しました。
エマールのピアノ、素晴らしいです。ただし、昨日はショスタコのお陰ですっかり霞んでしましましたが(苦笑)。

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アレグロ・コン・ブリオ~第4章 » Blog Archive » インバル&都響のショスタコーヴィチ!

[…] 奇しくもこの3月にサントリーホールで聴いた札響の東京公演と同内容のコンテンツ。震災前のあのときのコンサートも相当感動したショスタコだったが、完全に色褪せてしまった。ちょうど1年前にデュトワ&N響で聴いた第8交響曲ですらぶっ飛ばすほどの重量級、重戦車並みの都響の威力!!そしてそれをいとも容易くドライブするインバルの力量。いや、素晴らしかった。 […]

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