自己批判~シモン・ボッカネグラ

verdi_simon_boccanegra_abbado.jpg相手が何を求めているのか瞬時に判断して、適確に提供するにはある程度の熟練と緊張感がいる。マンネリ的な、あるいはルーティンの思考ではそのあたりはついつい見逃してしまう。過度の自己否定はよくないが、前向きな意味での自己批判はとても大事。自分に厳しくあることはどの世界でも大切なことだと僕は思う。いくつになっても1度の失敗は許される。ただし、同じことは2度繰り返してはいけない。

午前、先日の「ワークショップZERO」のフォロー研修として“Strength Finder”を採り上げた。事前にウェブ・テストを受けてもらってからの参加。面白いことに似た者同士の集まり。2時間少々、振り返りとアドバイスを綿密に実施したが、各々にドンピシャはまったようで大変ご満足いただけたよう。これまで大勢の方に薦めて、それぞれに相応の納得感をいただいているが、この”Strength Finder”は本当に素晴らしいと思う。占いではなく、あくまで統計データを重視しての「強み」発見機。ひとりひとりがよりやる気になり、自信をもつようになるのは嬉しい。

午後、横浜の大学での講義。エントリーシートのブラッシュアップがテーマの授業だが、やはり1コマという短い時間では限界あり。こういうものはなるべく個別に指導していくのが理想だが、なかなかそれも厳しい。いまどきの大学生の立場になると、果たして自分が本当に内定がとれるのか不安いっぱいのようで、誰もが真剣な眼差しで話を聴いていたのが印象的。本当はワークを充実させれば良かったのだが、ついつい話が長くなった。反省・・・。

帰宅後、昨日の前川清に触発されてしまったのか、イタ・オペに身を委ねたくなりジュゼッペ・ヴェルディを聴く。僕は、オペラを映像なしの音だけで聴く行為が不思議に好き。もちろん台詞の意味、言葉の意味を直接的に理解する語学能力は持ち合わせていないから、内容については事前に勉強して頭に入れておくしかないのだが、どうもその音楽にいつも魅かれるようで、ある意味「音だけ」で十分なのである。

ヴェルディ:歌劇「シモン・ボッカネグラ」
ピエロ・カプッチッリ(バリトン)
ミレッラ・フレーニ(ソプラノ)
ニコライ・ギャウロフ(バス)
ホセ・カレーラス(テノール)
ジョセ・ヴァン・ダム(バス)
ジョヴァンニ・フォイアーニ(バス)
クラウディオ・アバド指揮ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団

ヴェルディ20番目のオペラである「シモン・ボッカネグラ」は地味な存在である。43歳の頃の初演の際は失敗に終わったという。このオリジナル稿の音楽は未聴ゆえ意見することはまったくできないが、24年後の改訂稿を聴いてみると、老練の巨匠がこの作品に込めた想いが、ビンビン伝わってくると同時に、ともかく音楽が(渋いが)開放的で洗練されており、繰り返し聴くにつけ、ヴェルディという作曲家の虜になってしまうほどのエネルギーを秘めている。そういう意味では「隠れた秘曲」である。特に、数々の重唱のシーンが感動的。第1幕の最後の場面、スカラ座合唱団とフレーニ、ギャウロフ、カレーラス、ヴァン・ダムなどの劇的な絡み・・・(感涙)。

「シモン・ボッカネグラ」、1度の失敗は許されても2度はない、とわかっていたヴェルディ渾身の傑作。
そう、ヴェルディという作曲家の素晴らしいところは自分に厳しかった点。作曲者にしてみれば、積年の後悔が、ようやく時を経て自身が納得のゆく形に昇華された記念すべき作品とでもいえるのだろうか。


4 COMMENTS

雅之

おはようございます。
1981年のミラノ・スカラ座来日引越公演は、あらゆる意味で史上最強だったのです。アバド指揮で『シモン・ボッカネグラ』(ストレーレル演出)、『セヴィリアの理髪師』(ポネル演出)、カルロス・クライバー指揮で『オテロ』(ゼッフィレルリ演出)、『ラ・ボエーム』(ゼッフィレルリ演出)・・・、それぞれのキャストは長くなるので書きませんが、ちょっと信じられないくらいの豪華メンバー。私はFMの中継に釘付けになってしまいました(当然カセット及びオープンデッキにエアチェックしました、特にクライバー指揮の『オテロ』『ラ・ボエーム』にはは身も心も捧げたくなるほど録音だけでも感動し、その後、カラヤン指揮の同曲LPを聴くのが厭になりました)。
実演は、アバド指揮によるヴェルディ『レクイエム』の二階の特別公演の内の一回を東京文化会館で聴いただけでしたが、その時のソプラノ・ソロがフレーニでした(もう一回はアンナ・トモワ・シントウ)。この時の感動体験は、ちょっと筆舌に尽くし難いですね。とてもコメント欄ごときで(失礼!)語り尽くせるものではありません。
しかし、当時から『シモン・ボッカネグラ』のストーリーはとっつきにくかったですね。どの作品でも大なり小なりヴェルディの興味はプッチーニと違い、男女の恋愛よりもどちらかというと男同士の権力闘争にありますよね。だから個人的には、ある意味サッカーの試合と同質の興奮を味わえるのが醍醐味だとも思っています。
それにしてもご紹介の録音のキャストは、まざまざとあの引越公演のことを思い出します、物凄いメンバーだと思います。
>昨日の前川清に触発されてしまったのか、
昨日の話題の続きですが、「下町の玉三郎」と呼ばれた梅沢富美男さんが歌って大ヒットした「夢芝居」のことを、昔放送業界にいらっしゃりながらご存じないとは意外でした(NHK紅白でも歌った)。一般常識の範疇でしたから・・・。彼は前川清さんと公私共に仲がいいのでも有名ですよ。
昨日朝、You Tubeで小椋佳さんの映像を観たついでに、森昌子さんと石川さゆりさんの歌唱も聴いたのですが、それぞれ絶品でした(特に森昌子さんの「夢芝居」は名唱といってよいと思いました)。
歌手が替われば、同じ歌なのにまったく違う世界が拡がります。これは、ピアノでもヴァイオリンでもチェロでもトランペットでもサックスでも、どんな楽器でもそうなのですが、楽器の演奏について、録音だけで「ブラインドフォールド・テスト」をやらされたら、「独唱」と比べたら演奏者を言い当てることは遥かに困難でしょう。やはり「人の声」こそが本来音楽における最上位なんだと改めて思い知らされました。
森昌子 「夢芝居」
http://www.youtube.com/watch?v=VVE50It61p8&feature=related
石川さゆり 「夢芝居」
http://www.youtube.com/watch?v=82LgMY8CbIU&feature=related
ああ、二人ともかっこいいなあ!! 改めて惚れました(笑)。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
これまで何度もコメントをいただいている81年のスカラ座の実演体験、実に羨ましいです。文章だけでもその素晴らしさが直に伝わってきますが、ここはいずれまたお会いした時にでもじっくりとお話を伺いたいところです。
ヴェルディのオペラについては、僕はだいぶ大人になってから聴くようになりました。おっしゃるように「シモン・ボッカネグラ」はとっつきにくいストーリーですが、その音楽は最高だと思います。何年か前に知り合った方がイタ・オペ狂で、特に「ナブッコ」と「シモン」を絶賛されていました。その方に「シモン」の素晴らしさを教えていただいたようなものです。
演歌についても、当時は若気の至りでいやいや仕事してましたから・・・(笑)。しかし、今度はこうやって雅之さんのいろいろとご教示を受け、その素晴らしさに開眼させられる手前まで来ていると思いますのでお許しを(笑)。
>歌手が替われば、同じ歌なのにまったく違う世界が拡がります。
>。やはり「人の声」こそが本来音楽における最上位なんだと改めて思い知らされました。
同感です。
※ところで、当時のスカラ座のエアチェックテープは残ってないですか??

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