大友直人指揮東京フィル 天皇陛下御即位三十年奉祝公演 交声曲「海道東征」

参った。感動した。
エルガーの「威風堂々」は、今宵のメインとなる「海道東征」のためのいわば狼煙。
浄化された場が、喜びを爆発させる。何と高貴で優雅な、そして文字通り威勢の良い音楽なのだろう。会場の空気は一気に引き締まった。
続く、ブラームスのハンガリー舞曲も実にエネルギッシュ。第3番のしなやかな、そして和やか歌に対し、第5番における大友らしいニュアンス豊かな、少々ひねった解釈が浪漫に満ち、素晴らしかった。タメといい、間といい、弦の絶妙なポルタメントといい、このあまりにポピュラーな佳作が、遊びの精神溢れた見事な大曲として再生されるのだから堪らない。
しかし、それ以上に度肝を抜かれたのは、外山雄三のラプソディ。英国の第2国歌といわれるほどの崇高な作品を、また、ロマの音楽を源泉とする西欧後期浪漫の人気作品を打ち消すように響く種々の日本民謡。この和洋折衷の名曲は、まさに今夜のメインのための伏線だ。淀んだ空気がみるみる解消されていく。

天皇陛下御即位三十年奉祝公演
交声曲「海道東征」
平成31年4月12日(金)
東京芸術劇場コンサートホール
幸田浩子(ソプラノ)
鈴木愛美(ソプラノ)
小泉詠子(アルト)
小原啓楼(テノール)
与那城敬(バリトン)
栗友会合唱団
杉並児童合唱団
大友直人指揮東京フィルハーモニー交響楽団
・エルガー:行進曲「威風堂々」第1番ニ長調作品39-1
・ブラームス:ハンガリー舞曲集より
—第1番ト短調(ブラームス編曲)
—第3番ヘ長調(ブラームス編曲)
—第5番ト短調(シュメリング編曲)
・外山雄三:管弦楽のためのラプソディ
休憩
・信時潔:交声曲「海道東征」(作詩:北原白秋)
~アンコール
・信時潔「海ゆかば」

20分の休憩後、後半は、大曲信時潔作曲の皇紀二千六百年奉祝藝能祭制定・交聲曲「海道東征」。平成最後、そして新たな令和が始まるこの時期に、戦後70年間封印されていたこの作品が再演される奇蹟に立ち会えたことにまずは感謝したい。

何より素晴らしかったのは、バリトンの与那城敬!!!声の張りというか、波動がそもそも他を冠絶する。おそらく山場である第4章「御船謡」の凄み、崇高さ。まずは、冒頭ピアノ伴奏に乗って歌われる与那城の圧倒的な歌唱に僕は思わず惹き込まれた。そして、合唱による最後の(白秋による)フレーズの意味深さ!

善(え)しや、善(え)しや、彌榮(いやさか)。
とどろ、とどろ、彌榮(いやさか)。

曲の進行とともに、音楽は会場を一つにする力を一層獲得していくのだが、やはり(第1章「高千穂」の旋律が回帰する)最終章第8章「天業恢弘」が一等感動的。特にコーダ!

神と坐(ま)す大御陵威(おほみいつ)高領(たかし)らせば、
八紘一(あめのしたひと)つ宇(いえ)とぞ。
  邈(はる)かなりその肇國(はつくに)、
  涯(はて)もなし天(あま)つみ業(わざ)、
  いざ領(し)らせ大和(やまと)ここに、
  雄(を)たけびぞ、彌榮(いやさか)を我等。

そして、何とアンコールは「海ゆかば」!!!
僕の前に座っていた(おそらく戦前戦中少女時代を過ごしたのであろう)老女がハンカチ片手に涙を拭っていたのが印象的。一種異様な雰囲気の中で行われた今宵のコンサートは、いよいよ日本人が中心となって世界の一体を実現すべき時が訪れているのだということの象徴だろう。大友の指揮も東フィルの演奏も実に気合いが入っていた。

海行かば 水漬(みづ)く屍(かばね)
山行かば 草生(くさむ)す屍(かばね)
大君(おほきみ)の 辺(へ)にこそ死なめ
かへりみはせじ

嗚呼。

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