
エサ=ペッカ・サロネンは、常に未来を見つめる人なのだと思う。
四半世紀を経過しても、その音は新しい。
聴けば聴くほど心に迫る珠玉のポップス・アルバム、エヴァ・ダールグレンによるアンデシュ・ヒルボリの作品集の透き通った暗黒(これぞ”Starless and Bible Black”とでも表現できよう)。
時間と空間から成る世界が極限まで拡がる。
空想のもたらす安堵の念。
サロネンの伴奏はもちろん素晴らしいのだが、やはりそれ以上に強力であるのは(曲調によって自ずと変化する)エヴァ・ダールグレンのヴォーカル。
大地に溢るる水のよう。
歴史の証明によれば、いかなる文明も土壌の生産力を条件として発生し、いかなる文明もそれを失ったとき滅亡する。
~富山和子著「水と緑と土—伝統を捨てた社会の行方」(中公新書)P161
音楽の源泉にも、その地域、土地に連関する土臭さが重要な要素になるように僕は思う。
スウェーデンの作曲家らしい知性と官能、ヒルボリのセンスは満点。
あらゆる音楽イディオムの宝庫。
ミニマルの手法を駆使した終曲”Vild i min mun”の、気の遠くなるような音世界。見事にサロネンのマジックが効いているように僕には思われる。
過去と未来を縦横に往来する感性とでもいおうか。なるほど、イングマール・ベルイマンの世界に通じるのかも。
私はイプセンの「人形の家」とも一生ずっと一緒に生きて来たようなものですが、それでもやっと最近西ドイツで、生まれて初めて理想的なキャストを組むことができました。この公演が私の最初の「人形の家」と言っていいでしょう。もちろん、これは若い頃からずっと考えて来た夢でした。
これに対し、映画は私個人の表現です。私個人の感情の表現です。他の人間と接触を保つ―結びつきを作るための、私個人の方法なのです。
~G・ウィリアム・ジョーンズ編/三木宮彦訳「ベルイマンは語る」(青土社)P110
エヴァ・ダールグレンにとって、あるいはエサ=ペッカ・サロネンにとって音楽は他の人間と結びつきを作るための表現なのだと思う。時空を超えた永遠のアルバム。