バリのガムラン

balinese_gamelan.jpgCDの永続性ってどんなものなのだろう?
20年前に購入した音盤を久しぶりに取り出して聴いてみようとしたら、音が鳴らない。「ん?」と思い、一旦トレーから取り出してみると、盤面に黴状のものが付着しており、曇ったガラスのような状態になっている。こいつが犯人か!と考え、早速CDクリーニング・フォームで磨いたところ一応音は出るようになった。音質的にも問題はなさそうなのでとりあえずこのまま放置するつもりだが、それにしても不安が過ぎる。まぁ、余程気に入った音盤なら買い直せば良い話なのだが、それほどでもない音盤に関して言うならちょっと痛い。じゃあ、あらためて買わなきゃ良いのではといわれるが、時折聴きたくなるのでそうもいかない。
件のCDは確か1989年ごろに購入した「ロンドンベスト-モア50-」からの1枚。滅多に聴かないが、楽しいCD。

デュカス:魔法使いの弟子~フレンチ・コンサート
シャルル・デュトワ指揮モントリオール交響楽団(F00L-23101)

fete_a_la_francaise.jpg週末の「早わかりクラシック音楽講座」の下調べなどでここのところ集中的にモーリス・ラヴェルの音楽を聴いてきたせいか、フランスの近現代音楽をもっと深く知りたくなっている。特に、19世紀末から20世紀初頭にかけてのパリの絢爛豪華な佇まいについては文献を読み漁るだけで、ワクワクするような刺激に満ち溢れており、音楽的にも多大なる成果を得た時代である。例えば、1889年にフランス革命100周年を記念して開催された所謂パリ万国博覧会。そこにはドビュッシーがいて、東洋の音楽(バリのガムラン音楽)を初めて聴き、後の作風に影響を及ぼすほどの刺激を受けた。また、ラヴェルも同じくガムランやロシアの民俗音楽に触れ、これほど心を奪われた豊かな音楽体験はなかったという。天才といわれる音楽家が今でいう「ワールド・ミュージック」-世界各国の民俗音楽に大いなる影響を受け、そのお陰で現代に生きる我々が、東西の融合する多彩な音楽を聴けるという恩恵に浴していることを思うと、どこの地域でも長い年月にわたり築いてきた「文化」があり、「習慣」があり、そこに根付いているものを大切に保管・保存していく必要があるのだろうと考えさせられる。そういう意味では、昨年一挙に発売されたノンサッチ・エクスプローラー・シリーズやワールド・ルーツ・ミュージック・シリーズは人類の至宝であり、多くの人にひとつひとつ丁寧に聴いていただきたいと思える音盤集である(もちろん僕も全盤制覇しているわけではないので、生涯かけてゆっくり聴いていきたいと思っているのだが)。

バリのガムランⅠ-世界の夜明けの音楽
採録:デイヴィッド・ルイストン(録音1966年、バリ島)

いわゆるガムランやケチャ・ダンスが収められている1枚。こういう音楽を聴いていると、現地での「平和」な生活、喜びに溢れた生き方をずっとしてきたバリ島民が羨ましくさえなる。何と人間的か!

1906年、バリ島民のいわれのない海賊行為を口実にしてオランダ軍がバリ南部のデンパサールに上陸し、侵略、植民地化した。ヨーロッパの列強がこぞって東南アジア諸国を食い物にした時代のことである。そういう歴史を振り返るにつれ、人間の残酷さが悲しいくらいに胸に響く。

「これほどの華麗な響きと激しいリズムを持った音楽は世界にもあまり例がない。・・・わずか5,500平方キロメートルほどのバリ島は、その10倍以上もある国に匹敵するほどの芸術の宝庫なのである。」~解説書より


2 COMMENTS

雅之

こんばんは。
CDの寿命は、30年とも80年とも言われていますが、微妙ですね。まあ、寿命が来たら仕方がないですね。我々には、日頃から大切に扱うくらいしか、寿命を長くする方法は無いと思います。
先月、「はじめての世界音楽―諸民族の伝統音楽からポップスまで」(柘植 元一 , 塚田 健一 編 音楽之友社)という本を読みました。
とても勉強になりましたので、バリのガムランについて書かれた部分から、ぜひご紹介したいので引用してみます。
・・・・・・中部ジャワのガムランについでよく知られているのは、バリのガムランである。楽器や音楽構造は基本的にはジャワのガムランと共通点もあるが、バリ独特の面もあり、注目にあたいする。まず、調律のしかたに特徴がある。すなわち、バリ・ガムランでは同一の楽器(ガンサやメタロフォン)を二つずつ、常に一対にして用いる。しかし、その調律は特殊で一方は高めに、もう一方は低く目に音高をわずかにずらしてある。そのため音高を同時に鳴らした時にうなり(ビート)が生じるのである。音高が微妙にずれているために生じる音の波は「オンバク」と呼ばれるが、バリ・ガムラン独特の五十キロヘルツという高周波を含む音響の秘密はここにある。バリでは、なぜこのような音響が好まれるのだろうか。バリ人は諸事象を二元的にとらえ、二極間の対比の間に生じる波長こそ、調和と共存の源であると考える。しかもバリのガムランの踊りは本来神々への奉納芸能であり、人間界と霊界という二つの世界の交感の場なのである。それはオンバクの作りだすただならぬ空間において可能となるのだろう。ガムランにオンバクがなければものたりないどころか、意味をなさないと考えられているのはそのためではないか。
バリのガムランのもう一つの特徴は、「コテカン」と呼ばれるインターロック奏法である。これはあるフレーズを一人でひかずに、二人で分担し掛け合いで演奏するものである。コテカンは「入れ子」になった一対の音型で、おもにゴングチャイムやメタロフォンの演奏に用いられる。このコテカンと似た演奏技法はヨーロッパ中世のホケットやアフリカの角笛や木琴、オセアニアのパンパイプスの演奏にも見られる。譜例1(残念、引用不可能!)のように、二つのパートが入れ子式に組みあわさって一つの旋律として聞こえるのである。とくに速いテンポでは掛け合いの緊張感、迫力が生まれる。ガンサでは二人一組、レヨン(こぶつき平置きゴング)の場合は普通二人ずつ二組、計四人でコテカンを演奏する。ワドン(雌太鼓)、ラナン(雄太鼓)という一対の太鼓もコテカンのリズムを打つ。
このような演奏技法や音楽の様式は、バリ人の世界観やバリの社会組織のありかたと相関関係にあると言える。楽器の調律法でも見たように、バリの世界観には二元的な考え方が顕著である。山と海、北と南、天と地、内と外、浄と不浄、善霊と悪霊など、対立観念が日常生活や儀礼のあらゆる場面にあらわれている。しかし、これらが決してあい矛盾するもの、一方が他方を排除するものとは考えられていない。むしろ互いに補いあって調和ある一つの全体を作っているとされる。有名なバロン・ダンスは善獣バロンと魔女ランダの対立・闘争をあらわすが、片方がもう一方を屈伏することはない。対立する二者はあくまで一つのセットとして共存しているのである。・・・・・・
まるで先端物理学の世界観のようで改めて驚きました。
また、
風 火 地 水 
天秤上の世界
風 火 地 水
変転の釣り合い
天秤上の世界
釣り合いの上にある世界
という、先日話題のKing Crimson「In the Wake of Poseidon」の歌詞のようでもあります。
http://classic.opus-3.net/blog/cat49/zero1/#comments
余談ですが、ガムランについて書かれた次のようなサイトもあります。
http://www.brh.co.jp/seimeishi/1993-2002/06/mu.html
・・・・・・ガムランには、人間に音としては聴こえない20kHzを上回る高周波が、他の音楽と比べてきわめて豊富に含まれています(図1)。ガムランの音を録音し、高周波を含んだままと、それをカットした状態とで人間に聴かせてその脳波の変化を調べると、高周波がある場合に快感の指標といわれるα波パワーが増大し、ない場合には減少します(図2)。・・・・・・
20kHz以上の高域をカットしているCDのフォーマットって、やっぱり問題が有りそうですね。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
とても貴重な情報をありがとうございます。
バリ島に限らずその地域の古来よりの「伝統芸能」といわれているものには「人間の叡智」のすべてが含まれているようですね。
僕は「人間力」について考える時、本来人間は「目に見えないもの」も感じとり、「ひとつ」につながっていただろうと考えるのですが、ガムランについての解説を読むにつけ、「人間の直感」の正しさというか深さというか、途轍もない力をもたされているんだということを痛感します。それが文明の発達と同時に人間の内から失われていくわけですが、各地の土俗的な芸能は今後しっかり見直されて保存されていくべきだとも思います。
それにしても、我々が普段聴いている「平均律」というものが、あくまで人間が人工的に創造した代物で、ガムランのような「神懸り的」音楽、すなわち自然と密接に結びついた音楽とは対照的なんだということがとてもよくわかりました。
西洋音楽は大好きなのでもちろん否定はしませんが、ラヴェルやドビュッシーが東洋の音楽やロシアの土俗音楽に魅了され、影響を受けたというのも頷けます。
>バリ人は諸事象を二元的にとらえ、二極間の対比の間に生じる波長こそ、調和と共存の源であると考える。
これこそまさに「受容」であり、「包括」ですね。すべては「一」に通じるのだと思います。
>20kHz以上の高域をカットしているCDのフォーマットって、やっぱり問題が有りそう
これは説得力ありますね。α波パワーが減少しているとは!
そう考えると赤ちゃんの能力は凄いですね。生音は静かに聴くのですが、CDの音だと駄々をこねる子が多いのです・・・。
大変勉強になりました。いつもありがとうございます。

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