ロストロポーヴィチ リヒテル ベートーヴェン チェロ・ソナタ第2番(1962.6録音)ほかを聴いて思ふ

音楽は心を揺らす。音楽は同時に心の安定をも喚起する。
破壊があって創造がある。いずれにせよ調和に向かうということだ。

チェロ・ソナタ第2番ト短調作品5-2。1796年、26歳のベートーヴェンが作曲した、まるで正反対の性格を持つ2つの楽章で成る、とても青年が書いたとは思えない堂々たる風趣の佳作。
ロストロポーヴィチの奏するチェロの音は、何だかとても悲しい。
20分近くに及ぶ第1楽章。序奏アダージョ・ソステヌート・エド・エスプレシーヴォの暗く重い慟哭、また、主部アレグロ・モルト・ピウ・トスト・プレストの、優雅だけれど、寂寥感満ちる主題はベートーヴェンの傑作の一つではなかろうか。
それにしても、リヒテルのピアノの、あくまで伴奏者としての謙虚で内省的な音色。それによってロストロポーヴィチのチェロとのバランスが見事に和していることがわかる。そして、第2楽章アレグロの軽快なスピード感!チェロが舞い、ピアノが歌う。

ベートーヴェン:
・チェロ・ソナタ第2番ト短調作品5-2(1962.6.4-8録音)
・チェロ・ソナタ第3番イ長調作品69(1961.7録音)
ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(チェロ)
スヴャトスラフ・リヒテル(ピアノ)

チェロ・ソナタ第3番イ長調作品69。1808年初頭に完成。すなわち、同時期に傑作交響曲第5番ハ短調が生み出され、そのまま第6番ヘ長調の作曲に集中していた、ベートーヴェンが最も(?)脂の乗っていた時代に書かれたマスターピース。

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(1808年7月8日付ブライトコップ&ヘルテル社宛)
大崎滋生著「ベートーヴェン 完全詳細年譜」(春秋社)P201

何という自信に満ちた言であることか!少なくとも当時のベートーヴェンは、自身の才能にまったくの疑いを持っていなかった。どころか、このソナタを聴いてみても、楽想と巨大な構成のあまりの充実ぶりに舌を巻かざるを得ない。

第1楽章アレグロ・マ・ノン・タントは、耳疾患を抱えているとは思えない、揺るぎない堅牢な外見の内に天衣無縫の自由さを獲得した傑作。また、第2楽章スケルツォは、まるでブラームスの描く舞曲のような弾力が美しい。そして、終楽章アダージョ・カンタービレ―アレグロ・ヴィヴァーチェは、清澄かつ憂いある序奏と快活な主部が見事に融け合い、聴く者を歓喜に導く名演奏。

このレコードに関して最重要な一事は、芸術やスポーツの世界にも政治が介入する不幸な現代にあって、ロストロポーヴィチとリヒテルの協演に接する機会はいまや既往の録音のほか、ほとんど完全に絶たれていることである。これはまさに記念碑的な名演、そして歴史的にもこのうえなく貴重な記録とされる名盤である。
(藁科雅美)
~CD-10024-5ライナーノーツ

これは、1985年リリースの音盤(2枚組で特価6,000円!!)に付されたライナーノーツからの抜粋だが、おそらくアナログ盤リリース時のものの流用だろうと思われる。録音からは、確かにあの時代の空気感までが立ち込める。

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