ジャン=ベルナール・ポミエ ベートーヴェン ソナタ第4番変ホ長調作品7(1991.4録音)ほか

青年ベートーヴェンの気概溢れるソナタたち。
正統派ポミエの、熟慮を重ねた、情感豊かでニュアンスに溢れる演奏が美しい。

ベートーヴェンは音楽で哲学的思考とも言うべきことをしているが、彼は音楽の内容と形態を人間の高い精神活動を担う芸術に、それまで一曲を作曲するごとに進めて来ていた。
小松雄一郎編訳「新編ベートーヴェンの手紙(上)」(岩波文庫)P54

ベートーヴェンが目指したものは、本人が意識してか無意識か、作曲を通じて(マズローのいう第6段階)自己超越をすることだったのだろうと思う。自ら大ソナタと呼んだソナタ変ホ長調作品7の、4つの楽章の雄渾さと革新。ポミエのピアノは大らかに、そして饒舌に、音楽をもってベートーヴェンの精神を語るようだ。

ベートーヴェン:
・ピアノ・ソナタ第4番変ホ長調作品7(1991.4録音)
・ピアノ・ソナタ第5番ハ短調作品10-1(1991.6録音)
・ピアノ・ソナタ第6番ヘ長調作品10-2(1991.6録音)
ジャン=ベルナール・ポミエ(ピアノ)

ソナタハ短調作品10-1の、劇的ながら柔和な明るさと希望を秘める繊細さ(「悲愴」ソナタ作品13の先取りか)。何だかモーツァルトを聴くようだ。

実は、このピアノではわたしの音を自由に創造する余地がなくなってしまうのです。もちろん、わたしの言うことをあなたがそのまま総てのピアノを作る参考になさってはいけません。言うまでもなく、わたしがやるような気まぐれをやって楽しむ人は少ないのですから。
(1796年12月19日付、ウィーンのヨーハン・アンドレアス・シュトライハー宛)
~同上書P57

ベートーヴェンは確信犯だ。彼の革新はすべて意図、強い意志があった。
そして、緩徐楽章を持たないソナタヘ長調作品10-2の喜び。第2楽章アレグレットの、じっくりと歌う意味深い表現に心打たれる。そこにはポミエのベートーヴェンへの愛が刻印されるよう。終楽章プレストは、ハイドンのような軽快さと典雅な響きを持つ佳曲。ここでもポミエの弾くピアノはとても温かい。

ところで、大崎滋生氏の「ベートーヴェン像再構築」(春秋社)を手に入れた。
ざっと開いてみたが、すべてが実に興味深い。丁寧に読み進めよう。

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4 COMMENTS

桜成 裕子

おじゃまします。このCDを聴いてみました。今までこのように若々しい、屈託のない4番、5番、6番は聴いたことがないように思いました。若く希望に満ちたベートーヴェン、優しく愛らしい楽章は、4番がピアノの生徒だった貴族の令嬢に献呈されていることと関係があるのでしょうか。
 場違いですが、内田光子さんの30番、31番、32番を聴いてみました。今までモーツァルトの人だと思っていたので、ベートーヴェンを聴くのは初めてでしたが、ピアニッシモの意味深さ、間の絶妙、響きの一体感、等、「ディアベリ」のところで書かれていた哲学的深みに通じるものを感じました。ベートーヴェンが聴いたなら、現代ピアノの表現力、自分の作った曲がこんなにも進化、深化していることに感動したのでは?と思った演奏でした。毎晩聴いて心を浄化して寝入るこのごろです。
 ポミエと内田光子の演奏を知る機会をありがとうございました。
また、私も大崎滋生氏の「ベートーヴェン像再構築」を取り寄せました。ベートーヴェンの、曲を誰かに献呈するということの真の意味、ヨーロッパ中に名声が鳴り響いていたのになぜ借金まみれだったのか?等目次を見ただけですが、解明されそうでワクワクします。このような労作を日本人が著したなんて、すごいですね。教えてくださりありがとうございました。

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岡本 浩和

>桜成 裕子 様

ポミエのベートーヴェンは「等身大」なのだと思います。無理がない。その意味ですべてが素晴らしい演奏です。一方、内田光子の後期ベートーヴェンは本当に素晴らしいと僕も思います。おっしゃるように心の浄化を喚起します。

ところで、「ベートーヴェン像再構築」を読み進めておりますが、すごい研究成果で、目から鱗のことばかりです。大枚叩いて買った甲斐があります。(笑)

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桜成 裕子

岡本 浩和 様

 ありがとうございます。 
「ベートーヴェン像再築」、価格を見たときは唖然としましたが、こんなことにひるんでなるものかと思い切りました。前書きを読んだところですが、ベートーヴェンの死後、シントラ―の愚挙を越えて、使命感を持って様々な資料を命がけで守り、ミッションを次世代に受け継いできた人たちがいて、それがこのハイテクの現代に花開いたのだな、と驚嘆の思いです。今まで持っていたベートーヴェン像が更新されるとのことで少し怖い気もしますが、勇気をもって読み進められたらと思います。出版社とのやりとりから、完璧な作品を世に出すことにベートーヴェンは細心の注意を払っていたとのこと。気づかない視点でした。不可能かと思われたことを解明する人間の探求心は素晴らしいですね。

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岡本 浩和

>桜成 裕子 様

はい、僕も出版直後に店頭で見かけたときはその金額に吃驚してスルーしてしまいました。(笑)
しかし、いずれ絶版になったときに間違いなく後悔するだろうと思い至り、1年以上経過してようやく手に取った次第です。実際、書店の店頭ではあまり見かけなくなっていますね。
しばらく楽しみが増えました。早いところ完読したいと焦っております。(笑)

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