シュヴァルツコップ ワルター指揮ウィーン・フィル ウィーン告別演奏会(1960.5.29Live)

11月に当地のフィルハーモニー演奏会を、ブルックナーの『第九』で開幕します。4月のニューヨークでは、マーラー100年祭の枠内で『大地の歌』を指揮し、5月末のウィーン記念週間も、やはりマーラーの作品で開幕します。それ以上の滞欧演奏会は考慮に値しません―かような緊張と興奮を避けているのです(来年は84歳になります)。しかし、これらの演奏会のかたわら、レコードを作るつもりで、そのためにコロンビアが技師のスタッフをよこしています。さてウィーンのあとではルガーノを訪ねたく、もちろんチューリヒにも参ります。
(1959年10月12日付、エーリカ・マン宛)
ロッテ・ワルター・リント編/土田修代訳「ブルーノ・ワルターの手紙」(白水社)P357

この時期、高齢を理由にしたエクスキューズは多いものの、レコーディングに演奏会にと、老巨匠ブルーノ・ワルターの活躍には目を瞠るものがある。一方、その流れでロンドンに招聘しようとしたボールトには次のような返信を送っている。

残念ながら1960年にロンドンへは参れません。ウィーンにおけるマーラー100年祭の開幕演奏会を、指揮する約束がついたからですが、私の年では―来年84になります―その上に演奏旅行することなどもうできません。
(1959年11月13日付、サー・エードリアン・ボールト宛)
~同上書P358

ボールトの要請が、「大地の歌」を舞台上のショーと結びつけて上演してはどうかというものだったようで、その点はワルターらしく神への冒涜も同然として作曲者の意図にそむくものであり、是とはできないという半ば怒りの調子が手紙から窺われることも興味深い。高齢を理由にロンドンへの演奏旅行が無理だというが、エーリカ宛の先の手紙ではルガーノやチューリヒを訪問する意向を示しているのだから尚更だ。
ボールトとの間に個人的な何かがあったのかどうか、こういうところも人間ワルターの本懐。

そして、極めつけは、自身の表彰については騒いでほしくなく、あくまでマーラー生誕記念のためにウィーンを訪問するのだということを強調している点だ。

いくら強調しても足りないのですが、自分でもはなはだ気づかっておりますのは、私のウィーン来訪をば、あるがままに見えるようにすること、すなわちグスタフ・マーラーをたたえることであります。近々にご答弁を賜わりますよう願います。
(1960年3月17日付、エーゴン・ヒルベルト宛)
~同上書P359

世間は本当にしがらみが多い。

・シューベルト:交響曲第7(8)番ロ短調D759「未完成」
・マーラー:歌曲集「子どもの魔法の角笛」~第9番「美しいトランペットの鳴り響くところ」
・マーラー:「リュッケルト歌曲集」~第4番「僕はほのかな香りを吸い込んだ(菩提樹の香る部屋にて)」
・マーラー:交響曲第4番ト長調
エリーザベト・シュヴァルツコップ(ソプラノ)
ブルーノ・ワルター指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1960.5.29Live)

ウィーン楽友協会大ホールにおける「ウィーン告別演奏会」の記録。

毅然とした音調で雅に進行する「未完成」交響曲はワルターの十八番であり、とても84歳の老人が指揮しているとは思えない溌溂さ。そして、シュヴァルツコップを独唱に据えたマーラーの2つの歌曲も、情に溢れるシュヴァルツコップの歌が俗人マーラーの本質をとらえており素晴らしい。ワルターの指揮は何と嫋やかなのだろう。特に「リュッケルト歌曲集」からの短い1曲に一層歌に思いがこもり、聴く者の心を刺激する(聴衆の温かな拍手がものを言う)。

そして、「告別演奏会」に相応しいマーラーの交響曲第4番の、ゆったりとしたテンポで表現される様は、鈍いといえば鈍いが、しかし、その内奥から醸される師への愛(慈しみ)をとらえたとき、僕たちには自ずと感動が喚起される。続く第2楽章は、コンサートマスター、ヴィリー・ボスコフスキーの挑戦的な(?)ヴァイオリン独奏が演奏に花を添える。そして何より24分近くを要する第3楽章アダージョの、それこそ此岸への別れを惜しむような音調に、ワルターのウィーンへの赤裸々な感情が投影され、心地良い(クライマックスの崩壊するのではないかと思わせるほどの衝撃よ!)。ただし、終楽章はシュヴァルツコップの歌唱がやや疲れ気味なのか荒れており、正直いまひとつ。

ブルーノ・ワルター146回目の生誕日に。

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シュヴァルツコップ ワルター指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管 マーラー 交響曲第4番(1952.6.6Live)ほか | アレグロ・コン・ブリオ へ返信するコメントをキャンセル

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