グルダ アバド指揮ウィーン・フィル モーツァルト ピアノ協奏曲第20番ニ短調K.466(1974.9録音)

フリードリヒ・グルダの残した録音の中で、僕が最も聴き込んだ音盤がこれ。
少なくとも1980年頃、推薦盤としてどの雑誌においても評論家がこぞって◎マークを付けていたように記憶する。今聴いても鮮烈だ。

何が凄いかというと、モーツァルトきってのデモーニッシュな、ともすれば暗澹たる作品が明朗に、そして跳ねるように奏されるのである。ただ一方で、管弦楽提示部からピアノ独奏が主題を弾き始めるその瞬間は、モーツァルトの愁いの極致であり、管弦楽との対比が実に心地良く、そこがまた一層素晴らしい(録音から半世紀!)。

初夏とはいえ、金沢の夜はほんの少し寒い。
グルダの誕生日に聴くモーツァルトの美しさに感無量(何て美しいピアノなのだろう)。

モーツァルト:
・ピアノ協奏曲第20番ニ短調K.466(1785)
フリードリヒ・グルダ(ピアノ)
クラウディオ・アバド指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1974.9録音)

この録音の価値の一つは、第1楽章アレグロにベートーヴェン渾身のカデンツァを使用しているところで(ベートーヴェンはこの作品を愛奏したそうだ)、グルダ独奏の低音の鳴らしぶりはいかにもベートーヴェンのソナタであり、期せずしてモーツァルトとベートーヴェンの共演(?)が実現しているところだろう。ともかく全編生き生きと、生きる喜びに満ちている。

そして、第2楽章ロマンスも、グルダのピアノが前面に出され(録音の関係もあろうが)、どの瞬間も慈しみに溢れている。音楽の作り、解釈が優れており、モーツァルトの慟哭が第1楽章以上に伝わるところがまた素敵。

終楽章ロンド(アレグロ・アッサイ)の希望と憧れ。ウィーン時代のモーツァルトの絶頂期を示す、彼の自信と歓喜が表出する傑作。こちらのベートーヴェン作カデンツァも絶品!

録音嫌いだったグルダが、少なくともこのモーツァルトを残してくれただけで十分だとは言い過ぎかもしれないが、それくらい価値のある録音だ。

過去記事(2016年2月22日)


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