なんとも慈愛に満ちた響き・・・

私は同胞達に伝えたい。今日の、そして明日の困難に直面してはいても、私にはなお夢がある。それはアメリカン・ドリームに深く根ざした夢なのだ。つまり将来、この国が立ち上がり、「すべての人間は平等である」というこの国の信条を真実にする日が来るという夢なのだ。私には夢がある。ジョージアの赤色の丘の上で、かつての奴隷の子孫とかつての奴隷を所有した者の子孫が同胞として同じテーブルにつく日が来るという夢が。

上は、アメリカ公民権運動の指導者マーティン・ルーサー・キング牧師が1963年8月28日に行った”I have a dream”という有名な演説の一節。人間は有史以来様々な属性をもとに区別や差別を行ってきたけれど、人が抱える不安や恐怖心というものがそういう幻想を作り出してきたのだと思う。人は皆つながっていてひとつだとは言うけれど、誰しもエゴには勝てない。いや、エゴ(我)を否定することはない。過去も今も自分が我欲によって成り立っており、未来もそうやって生きていくんだということがわかっていれば。

唐突で、大上段に構えた少々大袈裟な書き出しだけれど(笑)、やっぱり今の自分を肯定して受け容れるために、過去のことを洗いざらい受け容れることって重要だとあらためて思う。他人のことは想っていても、聖人君子じゃないのだから、時にエゴイスティックになることは誰でも当然ある。良いではないですか!

ジュリアード弦楽四重奏団が1968年に録音した弦楽のための小品集がすごく良い。
同じニューヨークでは、ルー・リード率いるヴェルヴェット・アンダーグラウンドが前衛アルバム”White Light/White Heat”をリリースしたばかりで、これら全くジャンルの違う音楽を並べて聴き比べるだけでも、60年代後半アメリカの様々な側面がほんの少し垣間見られるようで興味深い。混沌とした社会背景を有しながら、でもそこからは希望に満ち溢れた夢が飛び出す。ヴェルヴェッツが目指したものもそういうところにあろうし、当時ホロヴィッツがカーネギー・ホールで開催していた復帰リサイタルなどにも輝かしいばかりの希望と夢に満ちているように僕には感じられる。

弦楽のための小品集
・ガーシュウィン:子守歌
・ハイドン:アンダンテとメヌエット~弦楽四重奏曲第83番変ロ長調
・シューベルト:弦楽四重奏曲断章ハ短調D103
・メンデルスゾーン:変奏曲とスケルツォ
・プッチーニ:弦楽四重奏曲「菊」
・ヴォルフ:間奏曲
ジュリアード弦楽四重奏団(1968.1.18&19, 4.8&5.14録音)

先日読んだ村上春樹氏の「小澤征爾さんと、音楽について話しをする」には興味深いエピソードが満載だったが、中にジュリアード・カルテットの第1ヴァイオリン奏者、ロバート・マン氏の松本での矍鑠とした指導ぶりについて語られており、そのことがとても印象的で、それ以来、時折ジュリアードの音盤を取り出して聴いているが、ある意味極めつけは昨年後半におそらく初CD化された「弦楽のための小品集」というもので、大作曲家たちのあまり知られていない地味な作品たちでありながら、繰り返し聴くにつれ何ともチャーミングで、心底から癒されるところが好き。
第1曲目のガーシュウィンの「子守歌」など初めて聴いた音楽だが、作曲家の習作でありながら本当に夢見るような素敵なメロディで快適な眠りに思わず誘われる。それにメンデルスゾーンの「変奏曲とスケルツォ」も初耳楽曲。どうやら作曲家の死の年に書かれた作品らしいが、暗さや厳かな雰囲気は一切なく、妙に前向きで明るいところが逆に涙を誘う。
ちなみに、僕はプッチーニの四重奏曲「菊」が大のお気に入り。後に、歌劇「マノン・レスコー」の最終場面に転用された旋律の、なんとも慈愛に満ちた響き・・・。


2 COMMENTS

雅之

おはようございます。

>やっぱり今の自分を肯定して受け容れるために、過去のことを洗いざらい受け容れることって重要だとあらためて思う。他人のことは想っていても、聖人君子じゃないのだから、時にエゴイスティックになることは誰でも当然ある。良いではないですか!

肯定と否定も二元論ですよね。肯定だけじゃ人間の価値はないと思います。否定だけも同様。
まあ、この歳で悩むことではないです。悩む優先順位の30番目くらいかな(笑)。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
もちろん我々の年代では優先順位の30番目くらいでしょうが、上記のような問題を抱えている輩は多いのです。
雅之さん抜粋部分の言及は僕自身のことではないのです。
ということで、お許しください(笑)

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