ブラームスとフォーレ

ベートーヴェン同様、ブラームスもバッハやヘンデルという古典を研究し、フーガやパッサカリアなどの技法を習得したというのは有名な話だが、バッハはともかくとしてヘンデルについてほとんど無知なのはいけないなと痛感したものだから少しずつ勉強しようと考え始めた。まずは伝記の類を一通り繰ってその生涯を知る必要があるし、オペラやオラトリオはもちろんのこと、有名な合奏協奏曲やクラヴィーア曲などもしっかり聴き込んでみたい。

ところで、ブラームスが、1861年、28歳の時に作曲したヘンデルのテーマによるヴァリエーションは、変奏曲大家としてのブラームスの面目躍如たる作品で、僕は随分若い頃から愛聴している。ただし、このテーマがヘンデルのどの作品であるかについては具体的に追究してこなかったのでよくわからない(どうやら「クラヴィーア組曲第2巻」の第1曲第2楽章「エア」が基になっているよう。このあたりきちんと音盤を揃て聴かねば)。

ちなみに、愛するクララ・シューマンのために書いたということなので、両者のこの作品にまつわる手紙をひもとくと面白い。

「あなたの誕生日のために、あなたがこれまでまだ聴いたことがないような変奏曲を作りました。ご自分の演奏会のためにこれをしばらく練習して覚えてください」(1861年10月ヨハネスからクララへの手紙)

「ヨハネスの『ヘンデルの主題による変奏曲』を演奏した。大いに神経過敏になったが、とにかく立派に演奏し、熱烈な拍手を受けた。ヨハネスの冷淡さは私を傷つける。彼の言うには、変奏曲をとても聴いてはいられない。自分の曲を聴いてじっとしているほど恐ろしいことはないのだそうだ」(1861年12月クララの日記)
※上記はいずれも「作曲家別名曲解説ライブラリー7巻」より引用

なるほど、ブラームスの自信のほどと、その裏側にある臆病さが確認できる内容だ。

そして、この作品を耳にしたワーグナーの言葉を知ると、かの時代に両者が対抗していたというのは作り事にしか思えない(評論家のハンスリックが仕込んだものだろうけど)。
「古い方法でも、それを本当に扱うことのできる人の手によると、さすがにいろいろなことができるものだ」

・ベートーヴェン:「プロメテウスの創造物」の主題による15の変奏曲とフーガ作品35(1970.10.30録音)
・ブラームス:ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ作品24(1958.11.20&28録音)
・メンデルスゾーン:厳格な変奏曲作品54(1958.11.20&28録音)
・フォーレ:主題と変奏作品73(1962.10.17-18録音)
エリック・ハイドシェック(ピアノ)

若きハイドシェックの生気に満ちた名演。
既成の枠に囚われず、感じたままを形にしてゆくハイドシェックの「自由」は見事に天真爛漫。無邪気さと大人びた深刻さが同居する数々の名変奏曲の解釈は、後年のいぶし銀のような安定感には届かないものの、確かなテクニックと飛び切りの音楽性に支えられた究極。
どの音楽も最高の形を示すが、極めつけはブラームスとフォーレ。ロマンティックで内省的な2人の天才の、方や20代の頃の、方や50代の円熟期の頃の「色」を見事に描き分けるところがさすが。
久しぶりにエリックの実演を聴きたくなった・・・。


8 COMMENTS

雅之

こんばんは。

今度はゲルハルト・ボッセが亡くなりました。
ボッセ指揮のバッハやベートーヴェンの心の奥底に静かに感動が染みた実演体験、今思い返すと貴重でした。

愛聴盤
ブラームス:交響曲第2番 ボッセ&新日フィル
http://www.amazon.co.jp/%E3%83%9C%E3%83%83%E3%82%BB-%E6%96%B0%E6%97%A5%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%AB-%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%83%A0%E3%82%B9-Symphony-Philharmonic/dp/B003OBIC3Y/ref=sr_1_5?s=music&ie=UTF8&qid=1328091417&sr=1-5

けれど、本当の宝はこちらのDVD
ベートーヴェン:交響曲全集 ゲルハルト・ボッセ&新日本フィル
http://www.hmv.co.jp/product/detail/1491334
この実演体験は我が生涯最高の出会いのひとつだったかも知れないと本心で信じています。
あまり他人に教えたくはないのですが・・・。

ボッセ晩年の指揮の、地味だけど深い深い味わいは、わかる人だけがわかればよいと思っています。

また岡本さんは、「悲しいけれど・・・、お祝いだ」とか軽いコメントをしといてください。

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。

ボッセ氏も逝っちゃいましたね。寂しい限りです。
新日フィルとの数々の名演は知る人ぞ知る宝物でしょうね。
残念ながらベートーヴェンの全集は実演でもDVDでも聴いておりません。
しかし、雅之さんがそこまでおっしゃるからにはかなりの「深み」があるのだと確信します。

>「悲しいけれど・・・、お祝いだ」とか軽いコメントをしといてください。

いえ、この言葉は決して軽いものではありません。
天寿を全うしてのことならば、むしろお祝いだと僕は言いたいのです。この言葉の裏には巨匠たちの言葉では言い尽くせない名演の数々に対する感謝の念が込められているのです。

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ふみ

大変ご無沙汰してしまい申し訳ございません。
突然のコメント、お許し下さい。

ボッセ亡くなられましたね。本当に残念なニュースでした。

ボッセは一度だけ何が何でも聴きたいと思い、紀尾井ホールでのベト2を聴きに行きました。その演奏があまりに素晴らしく、機会があれば必ずもう一度、と思っていた矢先の死でした。

そして、今追悼の意を込め、雅之さんご紹介のブラ2を聴いています。このCD、実は私も発売当初から愛聴盤で、私のほぼ理想とするブラ2がここにあります。
弦楽器を主体とした、端正で、上品かつ推進力のある演奏でボッセ自身が弦楽奏者だったことがよく伺える名演です。

ベルグルンドやフルネを聴けなかった私としては、もっと聴いておくべきだった後悔より、一度だけでも聴けた幸せの方が多い素晴らしい指揮者でした。
雅之さんご紹介のベト全集も是非聴いてみたいですね。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。

>長所ですよ、軽いって。

あ、やられた!!(笑)
ですよね~。
ついつい二元論で捉えて、しかも勝手な解釈をしてしまいます。

それが人間なんですけどね。

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岡本 浩和

>ふみ君

いやあ、久しぶりです!
元気だった?
やっぱり新人は仕事が忙しくてコメントどころじゃないのかな?

ところで、ボッセのブラームスやベートーヴェンを聴いてるのね。しかも名演奏だったと。
なるほど、これは雅之さんお薦めの音盤何としても聴かなきゃですな。
ありがとう。

またちょくちょくコメントくださいね。

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雅之

こんばんは。

今朝、何故だか、ふみさんのコメントが反映されてなかったです。

ふみさん久々のコメント嬉しいですねぇ、ホント嬉しい!!!

ふみさんのコメントは重いです!!(岡本さんのは超軽いけど)

高齢化が指摘されるクラシック鑑賞という趣味も、そろそろ次世代に受け継いでもらわなければと痛感する今日このごろです。

もう、我々ではなく、ふみさん達の時代です。
そうならなきゃおかしい。

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