読まれ、演じられ、そして踊られる

個性というものはほぼ環境によって決定されるものだろうと僕は思っている。
当然どういうところに生まれ育ったのかということは、その人の性質の大半に影響を与えるものだが、例えば仕事で言うなら業界の状況、あるいは職場の環境などがその人の癖をより決定づける大きな要因になるだろう。何十年も経て、久しぶりに会う旧友もあの当時と随分変わったなという印象(風貌だけでなく言動も)を持つ場合は少なくない。
何か新しいことを習得する場合には、つまりチャレンジするときというのは、既成の枠から出て、これまで経験したことのないような環境に身を置くことでまずはブレイクスルーの第一歩が踏み出せるもの・・・。

昨日はプロコフィエフがロシア革命時に創作したヴァイオリン協奏曲を中心にした音盤を聴いた。僕のイメージではあの頃のプロコフィエフはもっとモダンで、バーバリズム的な作品ばかりを書いているというものだったが、あの作品は何と抒情的で美しく、かつ躍動感に富んだものだろうとあらためて感じさせられ、若い頃に聴いた感覚と、半世紀近くを生きてきた今になっての感覚とが大変に変化していることを実感した。もちろん様々な環境でいろいろな経験をすることで、「音楽の感じ方」が随分変わったということなんだろう(変わったというより幅が広がったんだと思っていたが、でもやっぱり変わったんだと僕は今は思う)。

ところで、ちょうど同じ頃、ロシア革命のあの頃にストラヴィンスキーは時代の寵児としてフランスで持て囃されており、小説家シャルル・フェルディナン・ラミューズの協力の下ある作品を書き下ろした。ロシア革命の最中ロシア国内の資産を没収され、なおかつ彼の作品を一手に担っていた出版社がベルリンにあったことから、収入を得る術を失ったストラヴィンスキーが経済的困窮から逃れるために、この「読まれ、演じられ、そして踊られる」という新しい音楽のジャンルを生み出した。

この音楽についても若い頃は「よくわからなかった」。さほど良いものだとも感じなかった。
しかし、桜がまもなく満開の春本番の、特に今日のような何とも爽やかな暖かな日にこの音楽は心をますます浮き立たせてくれる(フランス語の独特のイントネーションがまた音楽的で、意味はわからなくとも十分楽しめる)。

ストラヴィンスキー:「兵士の物語」
ジャン・コクトー(語り手)
ピーター・ユスティノフ(悪魔)
ジャン=マリー・フェルテ(兵士)
アンヌ・トニエッティ(王女)
イーゴリ・マルケヴィッチ指揮アンサンブル・ド・ソリスト(1962.10.4-8録音)

音楽的に主導権を握っているだろうマルケヴィッチの棒は気品があって、なおかつ愉悦感に富み、「こんな良い音楽だったんだ」とその素晴らしさをあらためて教えてくれる。それとこのアンサンブルにはモーリス・アンドレが名を連ねているが、これがまた上手い!!(皆上手いけど。それとコクトーの影響も大)

それにしてもストラヴィンスキーはロシア的というよりもうフランス的だ。プロレタリアートではなくブルジョアの音楽。カメレオン作曲家といわれた本領発揮か、とにかく「兵士の物語」は無駄に明るい(笑)。
ストラヴィンスキーは後に語る。
「『兵士の物語』は、私がそれまで育まれてきたロシア管弦楽派との、最後の決定的な絶縁を示すものである」
それが彼の「個性」・・・、である。


16 COMMENTS

雅之

こんばんは。

おー、考えてみればこれも私が生まれた年の録音ではないですか!

いま持っているものに、昔持っていたものを足し合わそうとしてはいけない。
今の自分と昔の自分、両方もつ権利はないのだ。
すべて持つことはできない。
禁じられている。
選ぶことを学べ。
一つ幸せなことがあればぜんぶ幸せ。
二つの幸せは無かったのと同じ。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%B5%E5%A3%AB%E3%81%AE%E7%89%A9%E8%AA%9E

じゃあ、昔の自分は捨てるしかないね! ストラヴィンスキーに共感!! 賛成!!!

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
ラストのこの語り手の台詞、意味深いですよね。
過去に縛られず、「今」ですね。
同じく、ストラヴィンスキー万歳!!

返信する
ふみ

この間、タワレコにふっと立ち寄った際にマルケヴィッチのブラ4が流れていたのですが、あまりに鮮烈な演奏でした。
と、ストラヴィンスキーには全く触れてないコメント。。。

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岡本 浩和

>ふみ君
マルケヴィッチは生誕100年だそうね。
いろいろ音盤がリリースされてるけど、ブラ4は聴いたことないわ。
鮮烈でしたか!!よし、聴いてみよう。
情報ありがとう。

返信する
雅之

マルケヴッチのブラ4、いやマルケヴッチもブラ4も、このDVD(日フィル157回定期 1968年3月21日 東京文化会館)
http://www.amazon.co.jp/%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%83%A0%E3%82%B9-%E4%BA%A4%E9%9F%BF%E6%9B%B2%E7%AC%AC4%E7%95%AA-%E3%83%A9%E3%83%B4%E3%82%A7%E3%83%AB-%E3%83%A9%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%AB%E3%82%B9-DVD/dp/B000065BME/ref=sr_1_1?s=dvd&ie=UTF8&qid=1333454736&sr=1-1
を観ないと、なあ〜んにも語れないよ、諸君(高笑い)。

知る人ぞ知る絶品だし(心ある知ってる人はちゃんと知ってる)、この曲の通ほど発見が多いですよ。

嘘だと思うならその人の勝手だし、確かめたきゃ何なら貸してもいいですよ。

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雅之

これらは、みんな2002年ごろ買ったDVDですが、ミュンシュ以外、調べるとまだアマゾンで新品を入手できるんですね。驚きです。

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。
いやはや、マルケヴィッチほかの日本のオケへの客演DVD、ほとんど僕は未聴です。これ以上貸してくれなんていうのは恐縮ですので、少しずつ収集します。
今夜もありがとうございます。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
ありがとうございます。お言葉に甘えてお借りさせていただきたいと思います。
ところで、昨日、嵐という事情でいくつかキャンセルせざるを得なく、午後から部屋に足止めを食らいました。
お蔭でいただいた「ゼロの焦点」を2本観ることができました。
いやぁ、松本清張の作品は本当に素晴らしいですね。
オリジナルの、古びているけれど何ともあの実存感が素晴らしいです。一方、リメイク版のきれいではあるけど、どうしても作り物感を拭えないことが両方を比較してみることで感じられました。
昭和30年代の圧倒的な力を感じた瞬間でもあります。
ありがとうございます。

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雅之

>リメイク版のきれいではあるけど、どうしても作り物感を拭えない

同感です。
寂しいのは、昭和32年の金沢の風景をVFXに頼らず撮ろうとしたのに国内には適当な相応しい場所が中々無く、韓国でロケしていることです。

http://www.ab-road.net/asia/korea/seoul/guide/04310.html

http://www.jpnews.kr/sub_read.html?uid=3563

脚本、演出なども、リメイク版はイマイチ説得力が無いですよね。

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岡本 浩和

>雅之様

>国内には適当な相応しい場所が中々無く、韓国でロケしていることです。

なるほどそういうことなんですね。
どうやってあの街並みを再現したのか不思議だったのです。

>脚本、演出なども、リメイク版はイマイチ説得力が無いですよね。

同感です。

返信する

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