大自然の威容を聴くが良い

「ワーグナーの毒」という言葉があるようにハンス・クナッパーツブッシュの生み出す音楽にも「毒」がある。今となっては常時聴くことのない録音たちだけれど、一たび聴き始めると全身にそれが廻り、容易には抜け出せなくなる。
ある時期、クナッパーツブッシュに惚れ込み、凝った。当時リリースされていた音盤はことごとく追い求め、手にした。とはいえ、ここ数年はまったく・・・(最近どんな新発見録音が発掘されたかなどは知らない)。
しかしながら、正規録音のワーグナーを聴き、実況録音盤をいくつも聴き、彼の芸術に触れれば触れるほどその圧倒的な音作りに畏怖の念を覚える。ベートーヴェンやらリヒャルト・シュトラウスやら、あるいはお得意のブルックナーやら・・・。

クナの真骨頂はやっぱりワーグナーだ。これだけは誰が何と言おうと世界に冠絶する。そして、その流れから、せめて彼が交響詩にせよ歌劇にせよどんな形でも良いのでステレオ録音で残しておいてくれればとついついないものねだりをしてしまうのがシュトラウスの作品群。ベートーヴェンからワーグナーに連なるドイツ音楽の精神を正当に継承している作曲家がリヒャルト・シュトラウスであり(これは僕のまったく個人的意見)、中でもオペラ作品のすべてにドイツ音楽という歴史のあらゆる側面が投影される。「サロメ」や「ばらの騎士」は名作だが、僕の中では例えば最晩年の「カプリッチョ」など。これほどまでに可憐で美しく、最高の音楽があろうか・・・。それと・・・、賛否両論だと思うが、「アルペン・シンフォニー」。

カラヤンの「アルペン」は絶美だ。いまだにこの録音を凌駕する音盤を知らない。
朝比奈隆がシカゴ響に招聘されるきっかけとなった芸術劇場での実演は、僕が実際に触れることのできた最高のものだった。
そして、ここにもうひとつ。知る人ぞ知る途轍もない凄演。

リヒャルト・シュトラウス:
・交響詩「死と変容」作品24(1958.11.9Live)
・アルプス交響曲作品64(1952.4.20Live)
ハンス・クナッパーツブッシュ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

実に大人しい(ように聴こえる)。そして指揮者は何もしていないのでは・・・。いやいや。ウィーン・フィル相手に細かく指示することもない。おそらく眼力ひとつで楽員は金縛りに遭い、クナッパーツブッシュの魔法にかかっている・・・。
マジックのクライマックスは、「危険な瞬間」~「頂上にて」~「幻」のあたり。
作品の上でもクライマックスを迎えるここを耳にするだけでクナッパーツブッシュの偉大さが即座に理解できよう。何たる威容!!
ちなみに、「死と変容」の方は、先日聴いたシューベルトの「ザ・グレート」から2週間後の演奏。1958年秋のウィーンは何て魅力的なのだろうか・・・。


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