空と大地と海と

立春を越えてから不思議に少し暖かくなった。そういうところも自然の神秘であり、古来の東洋の「暦」という智慧の深さが感じられる。
本日、ワークショップZEROの第2日目を終え、人間のもつ大いなる力をあらためて実感し、同時に人の力の及ばない宇宙の営みの神々しさに畏怖の念を覚えた。所詮人間に見えている、あるいは聞こえている部分などというのは微かなもの。謙虚に、流れに身を委ね、一方で地に足を着け、意思を強固に行動することが重要だと確認した。

空と大地と海と・・・。これがわが地球のすべて。昨日はドビュッシーの「海(ラ・メール)」を聴いて涙した。「海(ラ・メール)」とくれば、やっぱり「山(ベルク)」。「山」にまつわる数ある名作の中でとっておきは「アルペン・シンフォニー」。R.シュトラウス一世一代の傑作だと信じて疑わない、自然の大いなる英知を音化した音楽。これほどのものは西洋古典音楽史上珍しいものだと思われる。この作品においてはカラヤンがベルリン・フィルと録音したものが最右翼だと確信するが、もうひとつ僕の音楽遍歴史上においても重要な音盤がある。朝比奈隆がシカゴ交響楽団に客演するきっかけとなった20年前の芸術劇場におけるライブ。実際に会場で耳にした僕は、あの時の強烈な音響効果と、心身までもっていかれそうな感動を忘れることはない。80年代の不調期からまさに復活を遂げた朝比奈先生の「狼煙」のようなコンサートだった。そのことをまざまざとリアルに思い出させてくれるCDがこれ。

R.シュトラウス:アルプス交響曲作品64
朝比奈隆指揮オール・ジャパン・シンフォニー・オーケストラ(1991.10.30&31Live)

壮大な、朝比奈御大の崇高で独自の「音」世界は、ライブゆえの瑕がないとはいえない。
でも、カラヤンのくすみのない完璧な演奏に比して、「大自然」と等価の「ゆらぎ」が感じられる。どっしりとした朝比奈隆らしい重心の低さと相まって、不思議な不安定さがいかにも「山」らしい。人々に時に癒しを与える山、そして時に猛威を振るい、その命までをも奪ってしまう山。そんなすべてが刻印された一大ページェント。下手な映画を観るより、あるいは下等な映画音楽を聴くより、「山」を感じとれるところが素敵。

植物は何も言わないけれど、咲くべき時期と、実をなす季節と、枯れる時とを自ずと知っている。それこそ人間のように気まぐれでも自分勝手でもなく、分をわきまえ共生する。自然には優しさと厳しさが共存する。そう簡単に見習うことなどできないけれど、そこに「生きるヒント」があるように僕には思われる。

3 COMMENTS

雅之

こんばんは。

>所詮人間に見えている、あるいは聞こえている部分などというのは微かなもの。謙虚に、流れに身を委ね、一方で地に足を着け、意思を強固に行動することが重要だと確認した。

同感です。
朝比奈先生のアルプス交響曲は未聴ですが、さぞ素晴らしかったことと想像します。

>下手な映画を観るより、あるいは下等な映画音楽を聴くより、「山」を感じとれるところが素敵。

今夜もフォーク・ボールを落としましょう(笑)。

私は岡本さんが真面目に朝比奈先生のアルプス交響曲の実演で感動されていた年齢のころ、
「私をスキーに連れてって」
http://www.amazon.co.jp/%E7%A7%81%E3%82%92%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%BC%E3%81%AB%E9%80%A3%E3%82%8C%E3%81%A6%E3%81%A3%E3%81%A6-DVD-%E9%A6%AC%E5%A0%B4%E5%BA%B7%E5%A4%AB/dp/B0000DJWIN/ref=sr_1_1?s=dvd&ie=UTF8&qid=1328431552&sr=1-1
に憧れてスキー三昧だった。

下手な映画を観るほうが、あるいは下等な映画音楽を聴くほうが、よっぽど「山」を感じとれるもんね、僕ちゃんは(笑)。
http://www.youtube.com/watch?v=eGUfEx7qOkU&feature=related

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。
朝比奈先生の「アルペン」は腰を抜かしました(笑)。

>「私をスキーに連れてって」
懐かしいーー!

>下手な映画を観るほうが、あるいは下等な映画音楽を聴くほうが、よっぽど「山」を感じとれるもんね、僕ちゃんは

やられたぁ!!(笑)

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