インバル指揮東京都交響楽団第815回定期演奏会Aシリーズ

inbal_tokyo_20160920645夜明け前が最も暗いという。
20世紀は果たして戦争の、それも人類史上最も悲惨な戦いの歴史であった。
その20世紀にすっぽり包まれ、しかも共産主義という魔物の餌食となった作曲家のすべての苦悩を背負った因果の交響曲。
たとえ戦いに勝利しても、人々の心魂に刻み込まれた悲哀はそう簡単に癒されるものではない。交響曲第8番は、辛うじて終楽章コーダに安寧の色合いが感じられるものの、総じて悔恨と辛苦によって占められる。

エリアフ・インバル指揮東京都交響楽団のショスタコーヴィチに触れた。
言葉にならない、いつも通りの見事な演奏。トゥッティにおける、無機的にならない壮絶な爆音。そして、相変わらず奏者個々の力量抜群のソロの美しさ。
第1楽章中間のイングリッシュ・ホルンの寂寥感溢れる長い独奏に心奪われた。その懐かしさ、そして、そこに映される悲しみ。アタッカで奏される第2楽章アレグレットのピッコロ独奏のこれまた超絶的巧さ。何という音楽的な響きなのだろう・・・。さらに、第3楽章アレグロ・ノン・トロッポでは、中間部のトランペット・ソロに恍惚とした。それにしてもこの快速テンポによるスケルツォの奏者一丸となっての激烈さは今夜の演奏の中でも飛びきりの勢いがあった。最高である。頂点を経て、続く第4楽章ラルゴでは、これまたホルンの絶妙な咆哮(第5変奏)が美しかった。
何より、終楽章終盤のヴァイオリン独奏、それに応答するチェロ独奏のあまりの美しさ!
総奏と独奏の入り交じる、ドミトリー・ショスタコーヴィチの最高傑作。

これほど深く、そして拡がりのある音楽はそうそうない。
齢80を迎えたインバルの悠然たる指揮に感動。
それに忠実に応える都響メンバーの演奏力、創造力に感激。
ちなみに、終演後の拍手喝采の中で、インバルは各奏者を順に労った。イングリッシュ・ホルン、コンサート・マスター、首席チェロ、フルート(ピッコロ)、オーボエ、ホルン、トランペット、・・・。何だか涙が出そうになった。

東京都交響楽団第815回定期演奏会Bシリーズ
インバル80歳記念/都響デビュー25周年記念
2016年9月20日(火)19時開演
サントリーホール
オーギュスタン・デュメイ(ヴァイオリン)
山本友重(コンサートマスター)
エリアフ・インバル指揮東京都交響楽団
・モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第3番ト長調K.216
休憩
・ショスタコーヴィチ:交響曲第8番ハ短調作品65

ところで、プログラム前半は、デュメイを独奏に迎えたモーツァルトのト長調協奏曲。
何とも暗澹たる重厚さを前面に押し出したショスタコーヴィチとの対比!!その明朗さ、その快活さ、どこをどう切り取ってもモーツァルトの神髄が感じられる最美の演奏だった。
中でも第2楽章アダージョの美しさ。音は柔らかく、いかにも中性的で調和のとれた中庸の歌。あるいは両端楽章カデンツァでの集中力と余裕は、百戦錬磨のオーギュスタン・デュメイならでは。独奏ヴァイオリンにはモーツァルトの霊魂が乗り移るかのようで、少年らしい無垢な喜びと悲しみがとても上手に表現されていた。これこそ音楽の愉悦。

 

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