ハイモヴィッツのリゲティ「無伴奏チェロ・ソナタ」(1990.9録音)ほかを聴いて思ふ

ligeti_clear_or_cloudy459情報だけに頼ると、中身のまったくない人間に成り下がる。
体験せねば。感じねば。
人間の本質は心であり、魂だ。いや、もっと突き詰めるなら命そのものだ。

情熱の奔流。
てっきり理性の人だと僕は誤解していた。
ジェルジー・リゲティの無伴奏チェロ・ソナタを聴いて、この10分にも満たない2つの楽章に作曲家が込めたそれまでの人生の様々な苦悩や愉悦を思った。ここには直接的な感情が見事に刻印される。もちろんそれには、この作品を再現するマット・ハイモヴィッツの技量も大いにある。第1楽章の主題の深い叙情、慟哭に近い哀感だけで聴く者の心を鷲掴みにする。単に美しいだけでないのだ。第2楽章カプリッチョの激しい音の動きにも卒倒。この音楽は、真に魅力的。

あるいは「木管五重奏のための6つのバガテル」は、その名の通りちょっとしたおふざけ風の音調に支配されるが、そこにはストラヴィンスキーをはじめとして、シベリウスやバルトークなど、20世紀の大作曲家たちのモチーフが木霊し、実に面白い(実際、第5曲アダージョ・メストは「ベラ・バルトークの想い出」という副題を持つ)。

リゲティ:クリア・オア・クラウディ~DGコンプリート・レコーディングズ
・無伴奏チェロのためのソナタ(1948/53)
マット・ハイモヴィッツ(チェロ)
・木管五重奏のための6つのバガテル(1953)
ジャック・ズーン(フルート)
ダグラス・ボイド(オーボエ)
リチャード・ホスフォード(クラリネット)
マシュー・ウィルキー(ファゴット)
ジェイムズ・ソマーヴィル(ホルン)
・弦楽四重奏曲第1番「夜の変容」(1953-54)
ハーゲン四重奏団
・木管五重奏のための10の小品(1968)
ウィーン・ブレザーゾリステン
・弦楽四重奏曲第2番(1968)
ラサール四重奏団

また、四重奏曲「夜の変容」は、明らかにバルトークの影響下だ。急速なシーンの鋼のように鋭い音と、緩やかな場面のあまりに幽玄な音の対比。リゲティのこの作品に通底するバルトークへの一方ならぬ愛情はおそらく他の誰に対してのそれよりも強烈だ。一つの楽章に統合された様々なむき出しの感情が、ハーゲン四重奏団の見事な再現によって僕たちの心に直接に響く。

そうして、1968年の「木管五重奏のための10の小品」に至り、音楽は一層東洋的なものを孕み(雅楽の笙のような音がするかと思えば、時に尺八のような音が再現される)、同時にミニマリズム的な方法が採り入れられ、より複雑化する。ウィーン・ブレザーゾリステンの巧みな技術に感動。
あるいは、同年の四重奏曲第2番にある混沌は、リゲティの当時の世界への警告でなかったか。静けさのうちに垣間見る爆発と暴力性。そのしつこさと粘りに僕はリゲティの内なる「怒り」を思うのだ。ラサール四重奏団はやっぱり冷徹で(その意味ではリゲティの音楽を再現するのに相応しい)巧い。

 

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2 COMMENTS

雅之

>情報だけに頼ると、中身のまったくない人間に成り下がる。
体験せねば。感じねば。
人間の本質は心であり、魂だ。いや、もっと突き詰めるなら命そのものだ。

そもそも「命」とは何なんでしょう?
最先端の科学技術で岡本様のクローンを1000体作ったとしたら、1000体の岡本様各々の「魂」はどこからやってくるのでしょうか?

そんなことを考えはじめているうちに、月並みですが、映画「2001年宇宙の旅」をまた観たくなります。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%9F%E5%91%BD

「生命を定義する必要など無い、生命というのは自然の事実なのだから」

リゲティ:無伴奏チェロ・ソナタは、昔から特に好きでした。

音楽とは、「魂の飛跡」といえるかも・・・。

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岡本 浩和

>雅之様

>そもそも「命」とは何なんでしょう?
>「魂」はどこからやってくるのでしょうか?

これもまた究極のテーマです。
確かに「自然の事実」という言葉がしっくりきます。
ここで書き出すと藪蛇になりますので(笑)、またお会いした時にでも語り合えれば楽しいかなと思います。

>音楽とは、「魂の飛跡」といえるかも・・・。

なるほど!!これは名言です!!
ありがとうございます。

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