プログレッシブ・ロックとショスタコーヴィチの邂逅!!

ショスタコーヴィチの15曲の四重奏曲を演奏するために1992年に結成されたモルゴーア・クァルテット。その存在は知っていたものの実演に触れるのは初めてだった。
何より、結成20周年を記念して「プログレッシブ・ロックとショスタコーヴィチの邂逅!!」と題する1回限りの大特番と聞けば万障繰り合わせて足を運ばざるを得ない。これはもう、ショスタコとプログレを愛する、第1ヴァイオリンの荒井英治さんの独断と偏見による(笑)、ショスタコとプログレを愛する人々のためのお祭だと言って良いくらい。
本当に素晴らしかった。プログラムが進むにつれ、会場に居合わせる、おそらく3分の2ほどのプログレ愛好家のテンションがヒートアップしてゆく。かつての、18世紀のモーツァルトのコンサートや、19世紀のリストのリサイタルがおそらくこんなような雰囲気の中で開催されていたのではなかろうかと想像されるほどの熱狂ぶり(聴衆はもちろんのこと、一番熱狂していたのは荒井さんご本人だろう・・・笑)。

ロック・コンサートかと間違えるほどの演奏者のノリと、ラフなスタイルで終始リラックス・ムードの中、こと演奏に関しては異常な集中力でものすごい音楽が繰り広げられた。

20周年記念モルゴーア・クァルテット・ガラ
プログレッシブ・ロックとショスタコーヴィチの邂逅!!
2012年6月27日(水)19:00開演
浜離宮朝日ホール
・ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲第7番嬰へ短調作品108
・ピンク・フロイド:太陽讃歌
・メタリカ:メタル・マスター
休憩
・ジェネシス:月影の騎士
・イエス:同志~人生の絆、失墜
・エマーソン・レイク&パーマー:悪の経典#9・第1印象・パート1
・キング・クリムゾン:21世紀の精神異常者
・キング・クリムゾン:スターレス
アンコール~
・キング・クリムゾン:クリムゾン・キングの宮殿
※ロック編曲:荒井英治

第1曲目はショスタコーヴィチの1960年の作。ショスタコは時にヘヴィメタなのだと。なるほど、そのことを象徴するかのような第7番四重奏曲。攻撃的で無防備で、ロック音楽と相通ずる唯一のクラシック作曲家はショスタコーヴィチのみと荒井さんは断言するが、こうやって並べて聴いてみると共通項が認識でき、本当にそのように思えるから面白い。

何事もなかったかのように最後の音が消え、拍手喝采。
そして、荒井さんの解説を挟んで(もう演奏よりプログレに対する熱い思いを語り合く手仕方がない模様・・・この辺りはクラヲタの心構えに近い・・・笑)、いよいよ2曲目以降はプログレ三昧。
フロイドの「太陽讃歌」から始めるとは何とも粋な。静けさと爆発の対比。そして、メタリカの「メタル・マスター」。この曲のみ非プログレ曲だが、荒井さん曰く、攻撃性と抒情性というプログレの要素を吸収しているので採用したのだと。そしてそのことはショスタコーヴィチにも通ずるのだと。ヘヴィメタには疎い僕は、メタリカは初めて聴いたが、素晴らしかった(終わった後の聴衆の熱狂的反応が尋常じゃない・・・)。

休憩を挟んで後半。
ガブリエル・ジェネシスの「月影の騎士」!いやあ、編曲が凄い。ジェネシスの抒情性と演劇性が見事に4つの弦楽器によって表現される様!涙が出そうだった。荒井氏はここでも語る。本当は「ウォッチャー・オブ・ザ・スカイ」や「サパーズ・レディ」もやってみたかったのだと(ぜひともやっていただきたい)。ドビュッシーのあのくぐもった音世界に通ずる大英帝国の誇る初期ジェネシスの名曲群を彼らの演奏でもっと聴きたい!!
そしてイエスの「同志」を経て、E,L&Pの「悪の経典#9」!!第1印象のパート1のみだが、圧倒的(荒井さんは何とか全曲やりたいと思っておられるそうだが、なかなか大変みたい、そりゃそうだろう)。
最後は、これをもってプログレがスタートし、そしてこれをもってプログレが終焉を迎えたといわれるキング・クリムゾンの名曲2つ。「スキツォイド・マン」には心が震えた。心が動かされた。そして何より「スターレス」(この楽曲が実は一番難しいそう)。いや、すごい、すごい(としか表現できない自分が情けないけれど)。後半のインプロのパートも完璧に弦楽四重奏で再現され、魂までもってかれてしまった(笑)。
音楽と演奏者と、そして聴衆の三位一体。いわゆるクラシックのコンサートではあまり見られない一体感。音楽をする悦びに溢れ、音楽を聴く愉悦に浸り、そこには熱狂と愛と・・・。音楽って決して畏まったものでもなく、真剣勝負ではあるけれどもっと気楽なものなんだ、あらためてそんなことを感じさせられた。それに、荒井さんの解説をされるときの嬉しそうな口調と、いつまでもしゃべり続けそうな勢いと、そして演奏中の没入度合いと・・・、どれをとっても「事に仕えるってこういうことなんだ!」と教えていただいたようで本当に勉強になった。
さらにアンコールが続く。何と、「宮殿」!!万雷の拍手喝采とともにホール内のエネルギーは絶頂。言うことなし。
終演後ホワイエでサイン会が開催されていたが、明朝も早いということもあり、足早に会場を後にした。日比谷を抜け皇居周辺を自転車で走りながら、とても充実感を覚えた一夜だった。

ところで、今回のプログラムには作曲家の池辺晋一郎氏が寄稿されているが、そこで書かれていらっしゃることに膝を打った。同感!!

そして、今日の後半はプログレッシブ・ロック。音楽史は、20世紀のジャズやロックを外して考えられるべきではない。ショスタコーヴィチを眺める眼で、ピンク・フロイドやキング・クリムゾンをも眺めなければ、正しい史観は得られない。当たり前のことである。そしてここに、荒井英治という編曲家としても稀有な、すごい才能がいた!ザ・ビートルズもグランド・ファンク・レイルロードもミック・ジャガーも忌野清志郎も好きな僕としては、モルゴーアの眼差しが、眩しい。(プログラムから抜粋)


6 COMMENTS

雅之

おはようございます。

東フィルのソロ・コンマス、荒井英治氏というと、鮮烈に記憶しているのが、数年前にご紹介しました東フィルのブログです。

突撃!隣の音楽室♪
http://ameblo.jp/tpo/entry-10209841612.html

微笑ましいこの生活環境こそが、そういう音楽表現を欲するのでしょうね。

再三申しますが、岡本さんもご自分でも一刻も早く何か音楽表現なさるべきですね。すでに音楽は岡本さんにとっては単なる趣味に留まらず、生業の一部になっているのですから・・・。

ほら、岡本さんが敬愛される宇野さんも、昔こうおっしゃってましたよ。

・・・・・・しかし、まったく演奏会場に足を運ばないでレコード音楽だけに溺れてしまうのはよくない。どうしてもマニア的になり、視野が狭くなってしまうからである。スポーツと同じで、音楽は元来自分で行うものである。いちばん手軽に出来るのは合唱だ。日本は現在、世界で最も合唱の盛んな国で、水準も高い。近くを見回せば合唱団はいくらでもあるし、中にはオーケストラ付きで宗教音楽の大曲を練習、発表している団体も少なくない。自分は声が出ないとか音痴だとかいう前に、まず入ってみることだ。丸三年、一生懸命やってみたまえ。死ぬまで合唱から抜け出せなくなっている自分を発見するだろう。少々声が悪くても音程が狂っていても、コーラスという素材はそれを見事に浄化してしまう。オーケストラは好きだが歌ものはどうも、などと首をかしげていた人も、宗教音楽をはじめとして、鑑賞曲のレパートリーがぐんと広がる。それだけ人生が豊かになる。何といっても自分が直接歌うことによって、バッハやモーツァルトと会話の出来ることが何よりすばらしい。

 どうしても声を出すのが苦痛だという人は、リコーダーを習って、三人くらいでトリオを演奏できるようになれば、これまた最高の魂の歓びであり、何か生かじりをした楽器であれば、思い切ってアマチュア・オーケストラに入るのも面白い。引っ込み思案がいちばんいけない。ピアノをバイエルから始めるのもよいだろう。自分自身が音楽に参加したとき、初めて音符のひとつひとつが身につき、CDを聴く裾野もぐんと広がるのである。ぼくは時折熱心なディスク・ファンと話をすることがあるが、いつも感じるのはディスク・ファンというよりはディスク・マニア的で、レコードだけに凝り固まっており、辟易することが少なくない。

 こういう人たちに比べると、ぼくはとてもレコード好きとはいえないなあ、などと妙なところで感心したりするのだが、自分で演奏する人は、その面でも大いに発散できるせいか、変執性も少ないようである。・・・・・・

 『オーケストラのたのしみ―僕の名盤聴きくらべ 』宇野 功芳 (著)  FM選書 共同通信社; 改訂版 (1990/12) 10〜11頁より
http://www.amazon.co.jp/%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%82%B1%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%A9%E3%81%AE%E3%81%9F%E3%81%AE%E3%81%97%E3%81%BF%E2%80%95%E5%83%95%E3%81%AE%E5%90%8D%E7%9B%A4%E8%81%B4%E3%81%8D%E3%81%8F%E3%82%89%E3%81%B9-FM%E9%81%B8%E6%9B%B8-%E5%AE%87%E9%87%8E-%E5%8A%9F%E8%8A%B3/dp/4764102463/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1340714793&sr=1-1

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岡本 浩和

>紗来
おはよう。
最高だったよ。
そういえば、誘ってあげればよかったな。モルゴーア・クァルテットの第1ヴァイオリンの荒井さんは東フィルのコンマスで、大のプログレ・マニアなんだよ。昨日の舞台でも、相当はじけてたからね。好きな音楽を好きに演るっていうのが一番いいね。客も幸せになるから。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
荒井さんの邸宅、以前もご紹介いただいて驚きましたが、実際にお話と演奏を聴いてみて納得しました。
ああいう環境があってこそですね。しかし、昨年の震災の時にあの資料の山はどうなったんでしょうね?(余計なお世話ですが)

あと、音楽表現の件ありがとうございます。
宇野さんもよく言っておられますよね。
実は大学に入学した時にまさに宇野さんの言葉に触発されて一瞬混声合唱団に入ろうとしたのですが、自分のあまりの下地のなさに怖気づいて数日で挫折してしましました(汗)
昨年リコーダーを購入したままそれっきりですし・・・。
大抵のことは一度始めたらやり続けるというのが僕の取り柄なんですが・・・。リコーダーも多分いい先生を見つけるなり教室に通うなりしないとだめですね。

とはいえ、そろそろ機なんでしょうね。
がんばります。

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アレグロ・コン・ブリオ~第5章 » Blog Archive » 神秘

[…] 1ヶ月前のモルゴーア・カルテットのコンサートは実にすごかった。 ショスタコーヴィチが終わるや、フロイドの「太陽讃歌」によってプログレ大会の狼煙が上がった。ラストの「スターレス」を経てアンコールの「宮殿」までホール内は異常に盛り上がった。聞くところによると、終演後のサイン会目当てに会場では180枚近くのCDが売れたのだと。これまた尋常でない。それくらいにモルゴーアの手腕は素晴らしかったということだ。 […]

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