茨城方面で一仕事終え、五反田へ。ほとんど東京横断・・・。長い一日だった。
深夜のオアシス。
昨日のクレーメル&アルゲリッチに触発されて、同じくアルゲリッチがマイスキーと組んで録音したベートーヴェンのソナタ他を聴いている。チェロの深い音色が漆黒の夜に青白く染まり、思わず覚醒をもたらす。ベートーヴェンの20代の頃の初期作品は、中後期のものとはまた違った香気を放ち、無性に明るく、途轍もなく前向きな音楽が鳴り響く。
例えば、モーツァルトの「魔笛」のパパゲーノのアリアを主題にした作品は、「オブリガートのチェロを伴うピアノフォルテのための12の変奏」というタイトル通り、どちらかというとピアノが主たる楽器として扱われるが、ここでのマイスキーはアルゲリッチに負けじ劣らじと対抗し、ほぼ同等の力量、エネルギーで対峙する。嗚呼、何て美しい主題であることよ。ここにはモーツァルトの天才が息づく。そして、そのメロディをテーマにして楽聖が何と縦横無尽に変奏を施してゆくことか。若書きとはいえ、やっぱり天才の作。
そして、もうひとつ「魔笛」から主題を借りての変奏曲。こちらは1801年の作。いよいよベートーヴェンの革新が始まらんとする時期だが、一方で難聴に苦しみ、遺書を書かんとする前夜のもの。
20代後半から30代にかけてのたったの数年でベートーヴェンの内側に何が起こったのだろう?音楽手法的にも精神的内容にしてもそれほどに充実した中身。おそらくフリーメイスン入会が絡むのか・・・(「魔笛」から主題を借りていることと調性が変ホ長調であることと)。
クレーメルとの組み合わせも素敵だが、僕はマイスキーとアルゲリッチの組合せというのが好きで、いくつか残されている録音はどれもが空前絶後のものだと確信する。特に、若い頃、というかちょうど90年頃のものが双方とも絶好調の時で、どの演奏のどの部分を取り出して聴いてみても最高。
そういえば、ちょうどこの頃だった。津田ホールでマイスキーがバッハの無伴奏の連続演奏会をやった。2晩とも聴いたがとても良かった。どの作品だったか忘れたけれど、勢い余って弦が切れ、一旦中断して舞台袖に下がり、再び最初からやり直したっけ。あれはとても素晴らしいリサイタルだった。