音楽というものはやっぱり生きているんだ

例えば少し落ち込んだ時や物事に前向きになれない時にはモーツァルトを聴くと良い。
モーツァルトの音楽だったら基本的に何でも良いと言いたいところだが、そういう時僕だったら何を取り出すか?
意外なことにオットー・クレンペラーの指揮する「後期交響曲集他」(おそらくどのを選んでも良いだろう)などはとても陰影に富み、音楽の中に哀しみも悦びも包含され、最終的には「生きていることの幸せ」に気づかせてくれる興味深い音盤だ。
どうにも偏屈なこの指揮者が、モーツァルトを指揮するときには何も考えなかったのか?そんなことはないと思うのだが、ともかくここに収められている演奏はいずれも余計な思考を排し、何も足さない、何も引かないモーツァルトがただただ流れる。そして、そこに安心と満足が感じられる。

今日のランチでも話題になった。人間というもの、やっぱりバイオリズムがあり、悪い時は何をやっても最悪の状況に陥るのに、ひとたび好転し出すと物事が嘘のように上手く回っていくものだと。そして、そんなことを繰り返しながら人生は進むものなのだと。
後になると、ああ、あれはあれで良かったんだと思えるのだが、確かに「その最中」は本当に辛いんだよね・・・。わかる、わかる。でも、誰にとっても無駄な経験はひとつもないんだよ。

モーツァルト:
・交響曲第35番ニ長調K.385「ハフナー」(1960.10録音)
・交響曲第36番ハ長調K.425「リンツ」(1956.7録音)
・交響曲第38番ニ長調K.504「プラハ」(1962.3録音)
・歌劇「魔笛」K.620~序曲(1964.3&4録音)
オットー・クレンペラー指揮フィルハーモニア管弦楽団

気のせいかもしれないけれど、1950年代に録音された「リンツ」交響曲だけ少々異質な音楽作りがなされているように感じられるのはどういうことか。つまり、「ハフナー」も「プラハ」もどちらかというとクレンペラーらしくない軽快さに溢れているのに、「リンツ」だけはいつものクレンペラーらしい重厚で長大な音楽が繰り広げられるような予感を冒頭の和音から既に感じさせてくれるのである(実際に最後までそのテンションは変わらない。それに、「魔笛」序曲以外はすべてウォルター・レッグがプロデューサーだから基本的な音作りのディレクションに差異はないと思う)。

僕はクレンペラーの人となりについてはそれほど詳しくない。まぁそれでもかなりの躁鬱気質だったということだから、気分の良い時に録音したものとそうでない時に録音したものが混在しているのかも。じっくりと詳細に耳を傾けるとそういうところまで読み取れるようで面白い。音楽というものはやっぱり生きているんだ。

※年譜を参考にすると、1958年に大やけどを負い、1960年頃から下半身不随になっているので、普通なら逆パターンのはずなんだけど・・・。やっぱり気のせいかな(笑)。
ちなみに、「魔笛」はちょうど僕が生まれた頃の録音。


10 COMMENTS

雅之

こんばんは。

>誰にとっても無駄な経験はひとつもないんだよ。

出た!
「バランス」「ぶれない自分軸」などとともに、岡本さんお得意の決めゼリフですねぇ。
自己満足や自己暗示のたぐいでしょうがねぇ(笑)。

信ずる者は救われる、これほんと。
しかし、生きていく上では、時に思い込みも必要ですね。

岡本さんに言わせりゃ、通り魔に刺されたって、大津波で家が流されたって、原発事故で被爆したって、みんな無駄な経験ではないと絶対に真顔で言い張るでしょうからね・・・。

どうでもいいけど、そのうち、ぶん殴られると思いますよ(笑)。

>「リンツ」交響曲だけ少々異質な音楽作りがなされているように感じられるのはどういうことか。

すぐに女に手を出していたクレンペラー先生のことだから、大やけどや下半身不随になる前の録音だし、きっとまた、不倫相手の旦那にぶん殴られた後だったんではないでしょうか(そっちの火遊びで大やけどとか・・・笑)。

ところで、1960年ごろのモーツァルト演奏といえば、ハイドシェック、ヴァンデルノート&パリ音楽院管のモーツァルト:ピアノ協奏曲第20・23・25・27番(1960〜61年録音)が久しぶりに国内盤で999円/枚×2で出たでしょ。安いし2012年最新リマスターっていうから買って聴いてみました。
http://www.amazon.co.jp/%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%83%84%E3%82%A1%E3%83%AB%E3%83%88-%E3%83%94%E3%82%A2%E3%83%8E%E5%8D%94%E5%A5%8F%E6%9B%B2%E7%AC%AC20%E7%95%AA-%E7%AC%AC23%E7%95%AA-%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%83%89%E3%82%B7%E3%82%A7%E3%83%83%E3%82%AF-%E3%82%A8%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%AF/dp/B007TB47QQ/ref=sr_1_2?s=music&ie=UTF8&qid=1343134650&sr=1-2

http://www.amazon.co.jp/%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%83%84%E3%82%A1%E3%83%AB%E3%83%88-%E3%83%94%E3%82%A2%E3%83%8E%E5%8D%94%E5%A5%8F%E6%9B%B2%E7%AC%AC25%E7%95%AA-%E7%AC%AC27%E7%95%AA-%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%83%89%E3%82%B7%E3%82%A7%E3%83%83%E3%82%AF-%E3%82%A8%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%AF/dp/B007TB48Q0/ref=sr_1_3?s=music&ie=UTF8&qid=1343134650&sr=1-3

まさに絶品ですねぇ。ハイドシェックの自由と美しさが両立した素晴らしさは言うまでもなく、このころのパリ音楽院管好きにとっても堪りませんねぇ。見事にピアニストに花を添えています。リマスター効果で音質も向上してると感じました。

ハイドシェックは、近年の録音よりも若い頃の録音のほうが断然好きだと言ったら、コアなファンの方にぶん殴られるでしょうか?(笑)

返信する
雅之

※一応、クレンペラーで、岡本さんと過去話題にした有名なエピソード。

ハンブルクの指揮者時代に、クレンペラーはある女性オペラ歌手と不倫関係となった。その歌手と共演し帰宅した際、待ち伏せしていた不倫に怒った相手の夫(指揮者)から棍棒で打たれた。次のステージに頭に包帯を巻いてピットに現れたところ、客席からはブーイングとヤジが飛び出した。クレンペラーは客席に向かって怒鳴った。「俺の音楽が聴きたくないやつは出ていけ! 」

アメリカ時代、ソプラノ歌手の自宅に無理矢理押し入ろうとして、もめごとになった。その後、友人たちの尽力でサナトリウムに入ることになったが、すぐさまそこを出てしまい、この一件は「ニューヨーク・タイムズ」の一面記事となった(タイトルは「クレンペラー、サナトリウムから失踪」であり、保護する時の注意事項として、性的に興奮した時のみ危険と記事中に書かれた)。これら一連のスキャンダルにより、アメリカにおけるクレンペラーの評判は完全に失墜した。

ある朝、クレンペラーの娘ロッテがホテルの父の部屋をノックした。部屋は散らかり服は散乱し、ベッドには若い女性がいた。クレンペラーはその女性に歩み寄り言った。「紹介しよう、私の娘ロッテだ。ところで君の名前をもう一度教えてくれないか? 」

ある劇場でモーツァルトのオペラ『魔笛』を上演したときのこと。クレンペラーは3人の侍女・3人の少年を歌う女性歌手達といちゃつきたいと思った。そしてそのうちの1人に対し行き過ぎた行為に出た。歌手からの苦情を受けた劇場支配人は、クレンペラーに対し「このオペラハウスは売春宿ではございません」と注意しようとしたが、間違えて「この売春宿はオペラハウスではございません」と言ってしまった。それを聞いたクレンペラーは、納得してその場を立ち去った。

ウィキペディアより
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%9A%E3%83%A9%E3%83%BC

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。

>お得意の決めゼリフですねぇ。

これは何と言われようとぶれないですね。自己満足でも自己暗示でもないですよ。
ただし、

>通り魔に刺されたって、大津波で家が流されたって、原発事故で被爆したって、みんな無駄な経験ではないと絶対に真顔で言い張る

これは違いますね。あくまで自身が下した選択による結果に無駄なものはないという意味ですから。

>きっとまた、不倫相手の旦那にぶん殴られた後だったんではないでしょうか(そっちの火遊びで大やけどとか

これは信憑性高いですね。

ちなみに、ハイドシェックの新しくリリースされたものは買ってませんが、この演奏は良いですよね。

>ハイドシェックの自由と美しさが両立した素晴らしさは言うまでもなく、このころのパリ音楽院管好きにとっても堪りません

同感です。

>ハイドシェックは、近年の録音よりも若い頃の録音のほうが断然好き

ああ、でもそれは確かな感想だと思います。

返信する
雅之

>これは違いますね。あくまで自身が下した選択による結果に無駄なものはないという意味ですから

それはどうでしょうね。過去の岡本さんの何年にもわたるブログ本文を愛読するなら、そうは言い切れないと実感していますよ。それは、ご自分では自覚されていない思考癖というか無意識の領域ですが、かえって他人にはよくわかるのです。自分の癖は、中々自分ではわかりませんから。

そして、その種の残酷さは、人間なら誰しも持っているのです。
要は、それに無自覚か、自覚するかの違いです。

試しに、天災は省いて、思考を反転してみましょう。

あくまで自身が下した選択による結果に無駄なものはないという意味なら、
通り魔をしたり、いじめをしたり、道にゴミやタバコの吸殻を捨てたり、汚職をしたり、みんなあくまで自身が下した選択による結果なのですから、無駄ではないということになりますよね。

絶対に岡本さんは賛成ですよね。

返信する
岡本 浩和

>雅之様

こんばんは。
なるほど、確かに雅之さんには4年半にわたって継続的に読んでいただいているので、僕自身が見えない面も見えるのでしょうね。いや、というよりとても大袈裟に俯瞰すると、雅之さんの言葉はあながち100%間違っているとは言えないような気がしてきました・・・。気をつけます(笑)

そのあとの反転思考についてはいろいろと考えはありますが、ここには書きません(笑)

返信する
雅之

全然気をつけなくてもいいです。

どんな立派な学者でも、子供に10回くらい「何で?」と繰り返されたら、答えに窮するものです。

皮肉なものでね。岡本さんが「ぶれない自分軸」とか「バランスが大事」とか「誰にとっても無駄な経験はひとつもない」とか力説されれば力説されるほど、

「キリシャ末期にビュロンという人がいたんだよ。懐疑論の開祖なんだけど、彼は、世の中には美しいものも美しくないものも、正しいものも不正なものもないと言うんだよね。その根拠がないじゃないかと。その根拠に哲学の学説があっても、それをどんどん突き詰めていくとあいまいになっちゃうんじゃないかと。彼はそのころの代表的な学者達と議論して、彼等の学説を全部壊しちゃった」
http://classic.opus-3.net/blog/?p=10668

という佐藤眞氏の言葉みたいな考え方のほうに、真実味を覚えるんですよね。

返信する
岡本 浩和

>雅之様

ギリシャ末期のビュロンの言葉気に入りました。
どんなものでも両面あるということですね。それがまた曖昧の元・・・。
まさに「魔笛」のテーマでもあるように思います。

返信する
ざんば

こんばんは。久しぶりにコメントします。

その、「無駄なことはなかった」的な発言は、僕も大いに気になります。
今必要とされている能力って、「過去を過ちと素直に認める」ということじゃないでしょうか。
いじめも、不倫も、原発も、当事者が「やっぱりあれは間違いだった」と認めないと、何にも始まらないと思うんですがねぇ。
その「認めなさ」が今の日本は蔓延してますよ。

あと、岡本さんは、セミナーみたいのを行っていて、その聴衆もこのブログを除いてるでしょうから、
どうも、いい子ちゃん発言というか、そのセミナーに矛盾ないように
話を進めようとする前庭があるから、どうも音楽の感想がせせこましくなってしまうように思います。

匿名でしたら、もっとスリリングな論が展開されるのに。
音楽聴いて、自分で足かせをかけて、それをさらして、なんかとてもかわいそうに思うときがあります。
たぶん、気付かれてるでしょうが。

僕は、その足かせ具合が楽しくて読んでます。雅之さんはそこを突っ込みますが、
私はお二人のやりとりを俯瞰して楽しんでいます。がんばってください。

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岡本 浩和

>ザンパ様
こんにちは。
久しぶりのコメントをありがとうございます。

>その「認めなさ」が今の日本は蔓延してますよ。

確かにいろんな意味で認めない人が今は多いですからね。何でも隠そうとする。それは日本に限ったことじゃないかもしれません。

>どうも音楽の感想がせせこましくなってしまう
>匿名でしたら、もっとスリリングな論が展開されるのに

確かにそういう側面はあるのかもですね。
とはいえ、それほど日常いろんなことを意識して書いてるわけじゃないんですがね。
そもそも僕自身がファジーで矛盾だらけの人間なのです。
漫才じゃないですが、それゆえに雅之さんの突込みが成り立つわけで、その意味では何だか意図的にそういうブログにしてしまっているでしょうね。
わかってても時々カチンと来て(笑)反論するも、もともと論理思考がなっていないわけですから、あっという間に雅之さんに論破されて・・・(苦笑)。
そういうことをまた自分自身愉しんでいるんだとも言えます。こういうブログはなかなか他にはないかもなぁって考えながら・・・。

>私はお二人のやりとりを俯瞰して楽しんでいます

ありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします。

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