アバドのワーグナー・ガラ

気がつくとまた王道に戻っている。
やっぱり好きなんだろうな、この路線が。
久しぶりにワーグナーを聴いた。朝から繰り返し。帰宅後、夜にも何度も。
とても良い。特に、外出前の午前中に一気に駆け抜けるように耳にする「楽劇の聴きどころ」は絶品。「マイスタージンガー」前奏曲なんかはやっぱり「やる気」を鼓舞するし、ああ、「ワルキューレの騎行」なんかもそう。
「タンホイザー」序曲は目覚めの音楽。「ローエングリーン」前奏曲は眠りの導入音楽かな。

ベートーヴェンの正当な継承者はワーグナーじゃなかろうか。
それは音楽的にだけでなく、精神的な意味においてもそうだと思う。
最晩年のワーグナーが至った境地、「パルジファル」の思想には、同じく後期にベートーヴェンがのめり込んだインド哲学との共通性が見える。楽聖が第9交響曲の「歓喜の歌」で謳った「思い」は当然ワーグナーの楽劇の中にも見ることができる。
4時間以上を要するこの一大絵巻をそうやすやすと聴いていられる時間は今の僕にはないけれど、前奏曲や聖金曜日の音楽を聴くだけでその崇高なる神的境地が味わえる。

しかし、ワーグナーの音楽をそんな風に演奏するのはおそらく大変に難しいのだろう。
これまでいくつもの巨匠の録音に触れ、実演でも何度も聴き、そういうことを繰り返してきたが、そういう神がかった演奏に出逢えることは非常に少ない。それは時代背景もあろう。
現代にはどちらかというと深遠で重い演奏よりより明るく淡白な演奏が似合うのでは。アバドがジルヴェスターで振ったワーグナー・ガラはどれもがちょうどそういう印象。これはこれでとても素敵だ。

ワーグナー:
歌劇「タンホイザー」
・序曲
・第2幕第1場から「貴き殿堂よ、喜んで私は」
・第3幕第2場から「死の予感の如く夕闇が地を覆い」~「ああ、わがやさしの夕星よ」
歌劇「ローエングリーン」
・第2幕第2場から「遠い森のさびしさの中で」、「一体何を私に訴えようというのですか?」
楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」
・第1幕への前奏曲
・第2幕第3場から「リラの花が何と柔らかく、また強く」
楽劇「ワルキューレ」
・第1幕第3場から「族の男たちがすべて」、「冬の嵐は去り」、「寒い冬の日々に私が憧れていた」、「君こそは春」
・第3幕から「ワルキューレの騎行」
チェリル・ステューダー(ソプラノ)
ヴァルトラウト・マイヤー(メゾ・ソプラノ)
ジークフリート・イェルザレム(テノール)
ブリン・ターフェル(バリトン)
クラウディオ・アバド指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1993.12.31Live)

何より粒揃いの歌手陣!
20年前当時のワーグナー歌手が勢揃いという奇跡的な大晦日の一夜!!
アバドのプロデューサーとしての能力に僕はいつも畏れ入る。そう考えると、アバド時代のベルリン・フィルも良かった。

マキシム・ヴェンゲーロフが昨日無事来日し、今日は京都でリハーサルだったらしい。
音が太くてびっくり、そしてアンコールには特別な楽曲が採り上げられるのだと。明後日がますます楽しみだ。


コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

アレグロ・コン・ブリオをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む