ダニエル・ハーディングを聴いて・・・

toscanini_opera_overtures.jpg四川省大地震クリスマスチャリティコンサート
ダニエル・ハーディング指揮新日本フィルハーモニー管弦楽団
東京芸術劇場大ホール
・ドヴォルザーク:序曲「謝肉祭」作品92
・エルガー:愛の挨拶作品12
・ヴェルディ:歌劇「運命の力」序曲
・ドヴォルザーク:スラヴ舞曲集第2集より第7番ハ長調作品72
・ドヴォルザーク:交響曲第9番ホ短調作品95「新世界より」

ダニエル・ハーディングの実演を初めて聴いた。予想に違わず、濃淡のはっきりとした推進力のある快演であった。昨年から今年にかけ、オーケストラものといえば「宇宿允人&フロイデ・フィル」ばかり聴いていたものだから、さすがにオケの上手さが際立っていた(ように感じる)(笑)。

前半は、単なるチャリティコンサートではありませんといわんばかりに玄人筋にも受けるような意外に地味な選曲。さすがの僕もドヴォルザークに関しては集中して聴き込んだ時期がないので、「謝肉祭」序曲などははじめて触れた音楽。それゆえ大それたコメントはしかねるが、しっかりと音量の差がつけられ、弦がよく歌い、金管がうねり、ティンパニが炸裂する生きた演奏だった(しかし、ハーディング自身は少々疲れ気味だったような気がする・・・)。
後半の「新世界」交響曲は聴きもの。開始から理想的なテンポで、フォルテの部分はフォルテで、ピアニッシモの部分は蚊の鳴くような極小の音量でコントロールされ、久しぶりにこの有名すぎる音楽を堪能できた。ただし、いただけないのが「提示部の反復」。昨今は楽譜どおりをモットーとする指揮者が多くなったように思うが、それにしても「提示部の反復」はなくもがな、である。とにかく煩わしい。何だか「後ろ」、つまり「過去」を振り返ってイジイジくよくよしているようで、その瞬間に心地よい「酔い」が一気に醒めてしまう。あれがなければもっと引き締まった印象を受ける素晴らしい演奏だったのに・・・。

harding_20081227.jpgところで、四川省の大地震の状況はその後どうなっているのだろうか?僕自身も例に漏れずだが、わずか半年ほど前の災害のことをほとんどの人が忘れ去ってし
まっているように思う。神戸の震災や他の諸々の事件でも、忘れようにも忘れられないのは当事者のみで、メディアを通して疑似体験する第三者にとってはあくまで「他人事」。何だか切ないが、それでも今日のコンサートでは多くの方々がチャリティ募金に協力していたようだから、そういう状況に身を置けば咄嗟に思い出すのかもしれない(ただし、こういう募金は本当に有効活用されるのかどうか怪しいが)。

夜、新宿界隈を歩きながら、考えたこと。こういう不況のご時勢、世の中には職を失くして路頭に迷いかねない人がたくさんいるようだが、我が身に降りかかることは、結局は自己責任。水くさい言い方に思えるかもしれないが、自分のことを律することができるのは自分のみなのだから、「他」を恨まないことだ。今日は初ハーディング体験に敬意を表し、僕の好きな「運命の力」序曲の音盤をじっくり聴いて寝ることにしよう。

ヴェルディ:歌劇「運命の力」序曲
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

「オペラ序曲集」と題されたトスカニーニの名盤。これほどまでにエネルギッシュで爽快な演奏があるのか。ドイツものに関していうなら、トスカニーニ以外に採るべき演奏はいくつもある。しかし、ヴェルディはじめイタリアものを振らせればトスカニーニの右に出る者はいないのではなかろうか。それほどに激情的で「うねり」があり、「歌うべきところ」は歌うというバランス良い演奏。


5 COMMENTS

雅之

こんばんは。少し古い記事にコメントします。
ハーディング&新日フィルの「新世界」、聴いてみたかったです、羨ましいです。東京での単身赴任時代、新日フィルの演奏を聴きに、すみだトリフォニーホールに通えたことは、本当によい思い出になりました。ハーディングといえば、東フィルとのマーラーの交響曲第6番を、昨年2月にサントリーホールで聴いています。その数か月前に聴いた、インバル&都響に勝るとも劣らない表現力溢れるマーラー指揮者ぶりを発揮した、若いのに見事な指揮でした。東フィルも熱演でした。
新日フィルとは、ハーディングが音楽監督のアルミンクの友人だったことに加え、一昨年の年末の「第九」で、指揮する予定だった金 聖響が「ぎっくり腰」で急病降板し、急遽代役で指揮したことが縁の始まりでした(その「第九」、偶然にも聴いています。こういうハプニングがあると、演奏者は燃えるものですよね、素晴らしい演奏でした)。
ハーディングといえば代表的な録音に、前にもご紹介しましたが、ウイーンフィルとのマーラーの交響曲第10番の補筆完成版のCDがあります。
http://www.hmv.co.jp/product/detail/2704630
これは、クック版第3稿第2版による、この曲のファンには貴重なものです。もうすこし録音が冴えていれば言うことなかったのですが・・・。
次に「新世界」交響曲についてですが、「提示部の反復」については同感です。それとこの曲は、チューバは第2楽章で、たった9小節を吹くだけなのですが、この理由については諸説あるのですが、あまりにもったいないので、実演では、他の楽章でスコアにない低音部補強で吹いたりすることも多く、ハーディングの対処方法も知りたかったです。ちなみに、「提示部の反復」をせず、チューバを第2楽章の9小節だけではなく、第1楽章や第4楽章でも効果的に吹かせた最近の名演・名録音CDとして、小林研一郎&チェコフィル(EXTON)があります。
最後に、トスカニーニのヴェルディ他「オペラ序曲集」、この熱い演奏は絶品中の絶品ですね!ところで岡本さん、トスカニーニ&NBC響のステレオ録音のワーグナーの管弦楽曲集やチャイコの「悲愴」のCDが出ていたこと、ご存じでしたか?あるいはお持ちですか?私はHMVのサイトを見て、先ほど知りました(笑)。
http://www.hmv.co.jp/product/detail/1219166
無茶苦茶「欲しい欲しい病」が疼きだして苦しいので、思い切り否定していただき、なんとか買うのを思い止まらせていただきたいのですが・・・(爆)。

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。
ダニエル・ハーディング、とても良かったです。雅之さんは例の金聖響の代役での第9を聴かれているんですね。羨ましい限りです。それに僕は未聴ですが、マーラーの10番も評判高いですよね。ただ、僕はこの曲に関してはまだまだ知り尽くしていないのでこれからいろいろと勉強させていただくつもりです。ご教示よろしくお願いします。
なるほどコバケンの「新世界」!これは良さそうですね。聴いてみたいです。
そして、トスカニーニのステレオ録音!存在は知っています。ただし未聴です。否定どころか間違いなくこれは「買い」じゃないですか!(笑)前々から聴いてみたいと思いつつ、すっかり忘れていました。僕も「欲しい欲しい病」がうずき出しました。

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雅之

おはようございます。
トスカニーニ&NBC響のチャイコフスキー『悲愴』とワーグナー『管弦楽曲集』のステレオ録音の2枚組、もう聴かれましたか?
http://www.hmv.co.jp/product/detail/1219166
少し元テープに損傷もありますが鑑賞には問題のないレベルで、私は昨夜初めてこの組合せをステレオで聴いて最高に感動しました。トスカニーニの最晩年は、若い頃に比べ少し角が取れ、アンサンブルの乱れもありますが、音楽の深い味わいが増している部分もあると思います。それに、いろいろな発見ができました。岡本さん所有の高級オーディオ装置で聴いたら、さぞかし素晴らしいことでしょう。
トスカニーニ指揮のNBC響がヴァイオリンの両翼配置であることは映像でも知っていましたが、まさかステレオで本当に実感できるとは思いませんでした。『悲愴』の終楽章冒頭はスコアでは、ヴァイオリンの旋律線をふたつ(第1ヴァイオリン→ひらがな)、(第2ヴァイオリン→カタカナ)に分散させています。「ファー・み・レ・どー・シ・どー」と・・・(チャイコフスキーがそう書いた理由は、感情の揺らぎを表現したという説や、逆に感情過多の演奏を防ぐための仕掛けだったなど、諸説あります)。その旋律が両翼配置で「右→左→右→左→右→左」と左右に揺れ動くさまが、初期のステレオ録音でよくわかります。
また第一楽章展開部直前はチャイコフスキーのスコア通り、バス・クラリネットで代奏させず、ファゴットで吹かせています(トスカニーニが認めかわいがった若き日のカンテルリの指揮したフィルハーモニアとの録音も、最近確認したところファゴットでした。二人とも信念があったのだと思います)。この部分、非常に確認しやすい録音です。
解釈はすっきりして硬派ですが、筋が通っていてとても説得力があり、私の最も好きな『悲愴』のCDのひとつになりそうです(何だか昨年末から『悲愴』とファゴットのことばかりコメントしている感じ・・・苦笑)。
ワーグナーのほうは、トスカニーニが指揮する最後となったコンサートのいわく付きのライヴ録音です。『タンホイザー』序曲バッカナールでは、バッカナーレの最中にトスカニーニが「曲を忘れてしまう」という悲劇が起き、指揮が次第に自信がなくなって、ついに256小節でオーケストラも止まってしまい、放送局はあわててトスカニーニ指揮のブラームスの交響曲第1番の録音を流しましたが、すぐにまた記憶を取り戻した実演に切り替え270小節からバッカナーレが放送されたそうです。このCDでは、放送の通りではなく中断された256~270小節を補って完全な形で収録されています(ワーグナー演奏の件、宇野功芳先生の過去発売の別CDの解説より)。
そういうエピソードを知らなくとも、これは極めて美しく感動的なワーグナーの名演奏です。私は聴いていて涙が出そうになりました。

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。
実はまだ聴いていないのです。でも、雅之さんのコメントを読んで、これは絶対に聴かねばと思った次第です。雅之さんの最も好きな「悲愴」のひとつ、そして涙が出そうなほど感動的なワーグナー。これは聴かずもがな、です。

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アレグロ・コン・ブリオ~第4章 » Blog Archive » トスカニーニが・・・、踊る

[…] かつて若い頃はその芸風をどうにも受け付けなかった。おそらくそれは録音の性質に依るのだと思う。あまりに残響の少ない乾いた音のレコーディングが大半で、オーケストラの各楽器の細部までは明確に見渡せるものの、滴り落ちるような情感性に乏しく、色気のない音楽に思えて、少しかじってはほとんど棚の奥にしまわれたままほぼ陽の目をみないという状況が続いた。それでも、レスピーギの「ローマ3部作」やオペラ序曲集などには舌を巻いた。しかし、一般的に人気のあるベートーヴェンの「英雄」(1953の方)や第7番(1951の方)についてはアナログ時代からひとつも良いとは思えなかった。そんな中で、一聴これは凄いと思えた音盤がこれ。 […]

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