スティングとギル・エヴァンス

米同時多発テロの半年前、僕はニューヨークにいた。その時は猛吹雪で、せっかく来たのだからと酷寒の市内をとにかく動いた。そして、どうしてもヴィレッジ・ヴァンガードには行かねばと、拙い英会話力でもって何とか予約を済ませ、開演までしばらく時間があったのでホテルでしばし時間を潰して待った。そして、ようやくその時間のちょっと前に現場を訪れたところ大変な行列ができていた。外気はおそらく零下だったと思う。そんな中をセカンド・ステージを心待ちにする数十人の人々がファースト・ステージが始まる直前に待ちきれずに既に列をなしていたのである。幸いなことにファースト・セッションの予約が完了していた僕らは、震えながらその舞台を待つ人たちを横目に地下への階段を駆け下り、案内された、思ったより随分狭い部屋の片隅の席に陣取るやアルコールを注文し、「その時」を待った。
今夜のパフォーマーが誰なのか、実はその時まで知らなかったのだが、何とブランフォード・マルサリス率いるクインテットだった。「道理で・・・」、あの長い行列の意味が即座に理解できた。
一体どれくらいの時間が経過したのだろう、ともかくあっという間の時間だった。最高の、エキサイティングなプレイが繰り広げられた。懐かしい思い出である。

ギル・エヴァンス生誕100年の記念年。ギルといえば、自ずとマイルスとの数々のコラボが思い浮かぶが、マイルスとジミ・ヘンドリクスの共演を企画したのも彼だということを忘れてはいけない(実にジミヘンの急逝によりなくなったけれど)。そして、何より晩年にスティングとの共演を果たし、しかもその中でジミ・ヘンドリクスのナンバー(”Little Wing”)を演っているのである。ギルがもう少し長生きしていたらスティングとアルバムを制作する予定だったというから残念でならない。

Sting:…Nothing Like The Sun

Personnel
Manu Katché (drums)
Kenny Kirkland (keyboards)
Mino Cinelu (percussion, vocoder)
Branford Marsalis (saxophone)
Andy Newmark (additional drums)
Gil Evans and his orchestra
Hiram Bullock (guitar)
Andy Summers (guitar)
Mark Knopfler (guitar)
Eric Clapton (guitar)
Sting (vocals, basses, guitar)
etc.

スティングの2枚目にして最高傑作ではなかろうか・・・。
こんなにソフィスティケートされ、かつ一切の緩みなく聴かせるロック・アルバムはなかなかない。それに、ここにはブランフォード・マルサリスもいる。

スティングはギル・エヴァンスとの邂逅について次のように述べる。
「・・・僕が15歳の時から、彼は、僕にとってのヒーローだった。・・・ショーの後、僕はバック・ステージに行って自己紹介したが、驚いたことに、またうれしいことに、彼は僕の曲を聴いたことがあると言った。そして、”Walking On the Moon”のベースラインが好きだと言ってくれたものだから、僕は、その日、随分浮かれて家に帰った・・・」
何だか初々しい、そして愛らしい。そんな「想い」が詰まったアルバムなのだから素晴らしいのは当然か。

ニューヨーク市のハリケーン被害が甚大のよう。一刻も早い復旧をお祈りしつつ・・・。

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