スペイン素描

きつね火と
愛はよく似ている。
きつね火のように
逃げると追っかけてくる
そしてこちらから呼ぶと逃げて行く。
本当によく似ている。

タワーレコード渋谷店のクラシック・フロアがリニューアルされたというので久々に行ってみた。驚くほどきれいに整理され様々なタイトルが見やすくなった。
昔なら何時間も入り浸っていただろうが、数枚のディスクを選び、ほんの数分で出た。
僕が音楽を聴き始めた30数年前とは音楽業界やディスク業界、そういう環境が随分変わった。CDは軒並み売れなくなり、専らダウンロードで済ますという音楽ファンが増えているみたい。どの街にもあったCDショップは姿を消し、多少の活気があるのは東京でも渋谷と新宿のタワーレコードくらいか。クラシック音楽ディスクとなると余計に・・・。

受験で初めて東京に来たとき、どうしても行きたかった秋葉原の石丸電気に行った。当時の秋葉原はもちろん今の秋葉原とは違う。どちらかというと専門的なイメージの一大電器街。その中にある石丸電気のレコード売り場というのが、高校生の僕が一度は訪れてみたいと夢見ていた(笑)「聖地」だった。
初めて石丸のレコード売り場を目の当たりにした時には卒倒しそうだった(笑)。今でも忘れない、フルトヴェングラーやワルターやメンゲルベルクや、当時どっぷりだった古の指揮者の歴史的録音の何枚かを買い求め、帰りの新幹線の中で嬉しくて思わず封を開け、ライナーを読んだり、中身を空想したり・・・。何だかとても懐かしくも遠い過去。隔世の感がある。

今や音盤は本当に安価になった。そして当時とは比べ物にならないくらいの膨大なタイトル数。お蔭で、1枚1枚の聴き方も随分いい加減になってしまった・・・。

シャルル・デュトワが棒を振ったファリャの二大バレエを収めた音盤が手元にある。それは確か石丸電気で1990年頃に購入したものと記憶する(どの音盤をどこで買い求めたのかは意外にきちんと覚えているものだ。面白い)。バブルのあの頃もまだまだディスク業界は熱かった。「恋は魔術師」には懐かしいメロディ、スペイン音楽らしい哀愁感漂う音楽が飛び交う・・・。久しぶりに聴いて、これがとても良かった。

MILES Sketches of Spain
Arranged and conducted by Gil Evans(1959.11-1960.3録音)

そして、思い出した。マイルス・デイヴィスの「スケッチ・オブ・スペイン」。
もちろん「アランフェス協奏曲」がメインの音盤だが、僕にとっては「恋は魔術師」の中の「きつね火の歌」(この音楽と同じようなメロディをどこかで何度も耳にするのだが、それが何だか思い出せない・・・。うーん、もどかしい)をモチーフにした2曲目”Will O’ The Wisp”や4曲目の”Saeta”の方がより魅力的だった。ギル・エヴァンスの才能が見事に爆発した、そんな印象。
“Saeta”におけるマイルスのトランペット・ソロの途轍もない緊張感。まるで神々との交信かのよう。そして、ギルのオーケストラ伴奏の愉悦に満ちたリズムの饗宴。これを聴くだけでも大いに価値ある1枚。


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