シューマン:交響曲第4番ニ短調作品120

何と柔らかい音!空中からいきなり音塊を取り出すかのようにポワーンと鳴り響く最初の和音からして神業。録音レベルが甘いのか、どうにも音圧が低いのが難点だけれど、この第4交響曲は隠れた名演奏であると断言できる。主部に入るとテンポ・アップする様がまた見事。
ここ数日のシューマン漬けの中で、確かギュンター・ヴァントが演奏した音盤があったと探し出し、繰り返し聴いた。

1841年12月6日にライプツィヒで初演された時、あまり評判が良くなかったらしい。ようやく10年後に改訂され、以後交響曲第4番として一般に知られることになるのだけれど、実にコンパクトで良い曲(とはいえ、初版を未聴なので最初にどんな響きがしたのかどうにか知りたいところ。主に金管の部分に手が入れられているそうだから尚更興味深い)。

自筆譜に「交響的幻想曲」と付記されていることからわかるように全曲が連続で演奏され、主題も統一感があり、ことによるとシューマンのシンフォニーの中では最高傑作なんじゃなかろうかと僕など思うほど。それに、基本的にどんな演奏で聴いても聴き応えは十分だし。

1840年8月12日、長い裁判に勝訴し、ロベルトとクララはついに結婚式を挙げる。それからしばらくは幸せな日々が続く。翌1841年5月31日のクララの日記。

ロベルトは今一番脂がのっています。昨日からもう一つの交響曲を書き始めました。それは、アダージョとフィナーレを含んだ1つの楽章から成っているものだそうです。私はそれについてよく知りませんが、ロベルトの仕事ぶりと、時折彼の部屋から荒々しく響いてくるニ短調の音色から新しい作品が形作られていることがわかるのです。

そして、同年8月にはトマス・ムーアの「楽園とペリ」をオペラ化しようと台本の推敲を始めるや、9月1日には長女マリーが誕生(命名者はメンデルスゾーン!)。何という充実!まさに幸せの絶頂の頃の傑作群のひとつがニ短調交響曲なのである。そのことを知った上でこの作品をあらためて聴いてみると、この音楽が決して暗鬱なものではなく、むしろ内燃する情熱を秘めた希望と勇気に溢れる音楽なんだと気づかされる。ヴァントの解釈がそのことを一層際立たせる。

シューマン:交響曲第4番ニ短調作品120(1991.9.30-10.2Live)
シューベルト:交響曲第8番ロ短調D.759「未完成」(1991.4.21-23Live)
ギュンター・ヴァント指揮北ドイツ放送交響楽団

そうか、やっぱり「ファンタジー」なんだ・・・。あるのは空想の世界。
ここには病的なロベルトはいない。
自信に漲る姿とクララへの愛とが交錯し、調和する。2人は一つ。


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