2つのフルート・ソナタ

プロコフィエフのヴァイオリン・ソナタ第2番は原曲がフルート・ソナタで、その旋律に魅せられたダヴィッド・オイストラフの忠言によりヴァイオリン・ソナタとして改作されたものであり、今や原曲以上にヴァイオリン版で演奏されることの多い作品だが、僕はどうにもこうにもフルートの何とも虚ろで浮遊感のある音色を好むものだから、フルート・ソナタの方を取り出して聴くことの方が圧倒的に多い。
何より聴いていてとても戦時中の緊迫した中で創作されたとは思えない流麗で可憐なメロディが特長で、とてもホッとする。全楽章を通じてテンポの緩急はもちろんあるものの、総じて不思議な安心感のある音楽。僕の手元にはジェイムズ・ゴールウェイがアルゲリッチの伴奏で録音したものしかないが、まるでゴールウェイのために書かれたものなのではないかと思わせるほどこれがまた素敵。どんなに細かい音列も、あるいはどんなに息の長いフレーズもゴールウェイにかかるとまるで魔法の横笛のよう。静かに黙ってその音に集中して聴いていると心の琴線に触れて、昔を思い出して涙がこぼれそうになるのだからフルートの響きというのは特別なように僕には思える。

プロコフィエフ:フルート・ソナタニ長調作品94
フランク:フルート・ソナタイ長調
ジェイムズ・ゴールウェイ(フルート)
マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)(1975.5.20&21録音)

それともうひとつこの音盤の特長。フランクの例のソナタが見事にフルート・ソナタとして生まれ変わっていること。ピアノとヴァイオリン(この音盤の場合はフルート)がほぼ対等に(いや、どちらかというとヴァイオリンのオブリガート付のピアノ・ソナタといってもいいくらいピアノ伴奏が難しいそうで)扱われるフランク一世一代の傑作は、フルートという楽器を得て一層柔らかく、心地良く、聴く者を別世界に誘う。
僕の勝手な印象だが、この曲をヴァイオリンやチェロとやる時のアルゲリッチはもっと荒馬のように思えるのだが、ゴールウェイの演奏自体が女性的な響きを醸し出すからなのだろうか、とても中性的で大人しい(といっても駄演というわけではない)。それこそ颯爽とした足取りで駆け抜ける駿馬のような(といってわかってもらえるかな・・・笑)。

本当に長い間聴いていなかったかつての愛聴盤を久しぶりに取り出して聴いてみるという行為というのは懐かしさだけでなく、かつて音楽を聴くときに持っていたであろう「真面目さ」、「真剣さ」を思い出させてくれる。ありがとう。

ところで、グスタフ・レオンハルト氏が亡くなったよう。享年83。またひとり20世紀の巨星が堕ちた。氏の弾くゴルトベルク変奏曲でも聴きつつ冥福をお祈りするとしよう。


2 COMMENTS

雅之

こんばんは。

数少ない所有のCDを聴いて、レオンハルトを追悼したいです。

フランスと南オランダのオルガン
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オルガン奏者やチェンバロ奏者のレオンハルトには、ピリオド奏法の問題には触れずに済みます。

これから天国でフランク大先生とも、音楽論議やオルガンの名機談義なんかをされるのかもしれません。

ゴールウェイ&アルゲリッチのフランクについては同感ですが、現在の私は、パユ& ル・サージュが愛聴盤です。
http://www.amazon.co.jp/%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%AF-%E3%83%95%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%BD%E3%83%8A%E3%82%BF-%E3%83%91%E3%83%A6-%E3%82%A8%E3%83%9E%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%82%A8%E3%83%AB/dp/B0002VL84E/ref=sr_1_2?s=music&ie=UTF8&qid=1326890572&sr=1-2
まあ、どっちでもいいですが(笑)、ただ、こっちもカップリング曲がまた名演奏なんです。

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。
しかしまた珍しい音盤をお持ちですね!
ご紹介のレオンハルトのCD、これは聴いてみたいですねぇ。廃盤のようですが・・・。

あと、パユのフランクも未聴なので興味深いです。それに何とシュトラウスのヴァイオリン・ソナタをやってるんですか!!これは聴いてみたい!

>これから天国でフランク大先生とも、音楽論議やオルガンの名機談義なんかをされるのかもしれません。

そういうことですね。

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