コンスタンティン・シルヴェストリ15枚組ボックスより

コンスタンティン・シルヴェストリの15枚組ボックス・セットが届いた。1969年にわずか55歳で亡くなったこの指揮者についてはほんの最近まで無関心だった。ほとんど無視していたと言っても言い過ぎではない。ところが、チャイコフスキーの第5交響曲を聴いてみろとふみ君から手渡され、いきなりジャブを浴びせられた。その後すぐに仙波知司さんから今度はショスタコーヴィチの第5交響曲を贈っていただきノックアウト。心底驚いた。
言葉で言い表せない怪演がそこにはあった。「怪演」とはすなわち超名演奏になる可能性もあり、超駄演に陥る可能性も秘める演奏。とはいえ、シルヴェストリの場合、どんな演奏になろうと実に面白い。まさに一期一会。1枚ずつ丁寧にじっくりと聴いていくことにしようか。

さて、時折コメントをいただく山崎さんにお薦めいただいたドヴォルザークの「新世界」交響曲。当然ここからと思い、収められた2種、すなわち1957年のモノラル録音と1959年のステレオ録音を比較試聴した。わずか2年後に録れ直すほどだから、作品解釈に相当自信があるのだろうということと旧い方の録音は気に入らなかったのだと想像する。しかしながら、少なくとも僕の耳には旧録音の「凄まじさ」の方が響いた。ティンパニの轟音、荒れ狂う旋律とアクセルいっぱいに踏み込んで前進するテンポ。まさに「怪演」なり!
ということは、演奏そのものに納得できなかったのではなく単にステレオで再録するという意図だったのかもしれない。もちろんステレオ盤も超のつく名演奏だと思うのでこの音楽を愛する人は2種とも必携(このボックスを買ってしまえばその目的は容易に達せられる)。

「新世界」についてはまた今度書こう。ということであえて音盤を入れ替えて、ボックスの1枚目を。ちょうどドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」を再読しているところで、どうにもロシア音楽を欲していたから。こちらも驚くべき名演。そして解釈に少しの旧さも感じない。

グリンカ:
・歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲(1959.4.1録音)
ボロディン:
・歌劇「イーゴリ公」序曲(1959.4.1録音)
・歌劇「イーゴリ公」~「だったん人の踊り」(1961.1.30-31録音)
・交響詩「中央アジアの平原にて」(1968.1.5-7録音)
チャイコフスキー:
・歌劇「エフゲニー・オネーギン」作品24 ~「ポロネーズ」(1968.1.5-7録音)
・イタリア奇想曲作品45(1968.1.5-7録音)
・祝典序曲「1812年」作品49(1966.7.15録音)
コンスタンティン・シルヴェストリ指揮フィルハーモニア管弦楽団、パリ音楽院管弦楽団、ボーンマス交響楽団、英国王立海軍楽団

「ルスランとリュドミラ」序曲はムラヴィンスキーの超絶演奏が最右翼だけれど、それに負けず劣らじの「前のめり」感(タイミング的にはムラヴィンスキーが4分50秒、シルヴェストリが5分19秒だから30秒もの違いがあるのだが印象はそう)。
そしてまた、僕が実に気に入ったのが土俗的雰囲気満載のボロディンの諸曲。リズムの迫力が真に迫っており、時折放たれる金管の咆哮により金縛りにでもあうが如く。「だったん人」や「中央アジア」でこんなに感動させられるとは正直思ってもみなかった。
さらに、チャイコフスキーの「1812年」。こんなに思い入れたっぷりの激しい演奏は初めてかも。

そういえば「ルスランとリュドミラ」も「エフゲニー・オネーギン」もロシアの天才文学者プーシキンを原作としている。そして、ドストエフスキーも最晩年に「プーシキン論」を展開し、プーシキンをして「全世界に共鳴し得る能力」を持った作家だと指摘したそうだ。そもそもロシア人自体がそういう能力を持っているという彼の内側にあるナショナリズムが前提の言説なのだけれど、国境を取っ払ってしまって全人類という観点で読み解いていくと今を生きる上でいろいろとヒントになるかも。興味深い。シルヴェストリのロシア音楽を聴きながら考えたこと。


4 COMMENTS

ヤマザキ

シルヴェストリの「新世界より」ステレオ盤は、高校時代たまたま古本屋で名曲の「書籍+レコード」で入手しました。かれこれ40年近く聴いていることになりますが、モノラル盤は今まで手に入らず、今回のセットで一番期待していました。さすがに音はステレオ盤の方が広がりがありますが、旧盤もなかなか良い音でより直線的で迫力のある名演でした。1964年来日時の同曲のN響ライブ盤が音が悪く演奏も今一つのだったので今回は大満足です。あとイタリア奇想曲もトランペットのソロがきれいで全体的にゆったりとした雄大な演奏ですが、最後はものすごい快速で終わる快演です。

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岡本 浩和

>ヤマザキ様
ありがとうございます。
シルヴェストリは本当に面白いです。「新世界」は新旧両盤必携だと思いますが、旧盤は捨て難い魅力に溢れます。
「イタリア奇想曲」も最高ですね。

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neoros2019

このフランス国立放送との新世界ですが、物凄い演奏ですよね
ノイマンほかクーベリックとかケルテスとかの正当?と思われるものと比較して、ほとんどひっくりかえるような解釈なんですがグングン引き込まれた当時が懐かしいです

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岡本 浩和

>neoros2019様
ものすごいですね!
ひょっとしてこちらもオンタイムということですね。
neoros2019さんのその感度の方がすごいと思います。

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