エレーヌ・グリモーのブラームス(DENON録音)

もう何度も書いているが、エレーヌ・グリモーのピアノは本当に素晴らしい。
しかしながら、リリースされている彼女の音盤のすべてを聴いたわけではないし、残念ながら実演を僕はまだ聴いていない。そんな人間がそもそも彼女の演奏を云々すること自体がそもそもナンセンスなのだけれど、いくつかの録音を耳にするだけでも尋常でない「オーラ」が感じられるのだからたいしたもの。狼の言葉がわかり、狼と暮らすという人間離れした(?)生き様から生じるものなのかどうか、それはわからない・・・。

橋口正さんから薦められて、グリモーの初期のDENONで録音したものがまとめられたボックス・セットを先日手に入れた。そしてそこから徐に1枚を取り出して時折聴いてみる。15歳から21歳の時の録音集成。これがまた実に老練の極み(こういう表現をして良いのかわからないけれど、あるいは言葉の遣い方が間違っているかもしれないけれどとにかくそう思わせる演奏たち)で、名前を伏せて聴かせたら皆驚いてしまうのではなかろうかというほどの演奏が揃う。

特に僕が感動したのが、21歳の時の録音であるブラームスの作品118。第1曲イ短調の「間奏曲」からもちろん惹き込まれるのだけれど、あの有名な、例の晩年のブラームスの心情吐露ともいうべき第2曲イ長調の、とても20歳やそこらの若造が演奏しているとは思えない、人生の酸いも甘いも知ったような、深い音楽に釘付けになってしまう。孤独を楽しむように、そしてそういう「時」が徐々に移ろう、諦念とその裏に隠されたかすかな希望というものが見事に表現される。こんなブラームスは初めて聴いたかも。

ブラームス:
・ピアノ・ソナタ第3番ヘ短調作品5
・6つのピアノ小品作品118
エレーヌ・グリモー(ピアノ)(1991.12.12-14録音)

主題の安らかな微笑と中間部の抑制気味の激情との対比。ヨハネス・ブラームスの2つの側面がこの1曲に凝縮される。やっぱりこれは愛するクララ・シューマンへの「感謝の手紙」に違いない。

グリモーの音楽はすでに10代からある意味「完成」していることがわかる。驚異的。
僕のアンテナが鈍かったのか、少なくとも2000年代にグラモフォンに移籍してからの彼女については一目置いていたが、若き日の彼女については無視していた。もちろん後年になるにつれ、音楽はこなれ、より一層の「濃厚さ」と「深み」を獲得していくのだけれど、DENONの一連の演奏についてもまったく侮れない。
第5曲「ロマンツェ」ヘ長調のしみじみと語られる音楽を聴いても、老年の、しかも男性の心情が彼女にはわかるんだとしか思えない(狼の気持ちがわかるんだからそれは当然のことか・・・笑)。

ところで、作品5のピアノ・ソナタ。今となっては滅多に聴くことのない音楽だけれど、若きブラームスの枯れたロマンティシズムは聴く者に「静寂」を与え、心地良い「哀愁」を体験させてくれる。実に良い曲だと再確認。特に、第2楽章アンダンテ・エスプレッシーヴォ。ここにはグリモーのただならぬ思いがこもる・・・。


5 COMMENTS

ふみ

おー、グリモーのブラームスは素晴らしいですよね。作品118も数ある録音の中で個人的には最高の部類に入ります。
なんだかんだ、たまには実演で聴けるピアニストなんで次の機会には行ってみてはいかがですか?和音の捉え方、響き方からしてぞくっときます、きっと。

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Judy

おおお、今さっきYoutubeにてGrimaudのBrahms Piano Concerto #1を二度ほど聴いて、な〜ンて深くて素晴らしいと感動した後のこの記事、嬉しいです。Concerto#2を早く録音してくれないかな〜と願っております。彼女は普通人を超えています。音楽から色彩を感じているし、オオカミと通じる感性はやはり男女の別なく人を愛せる人、、、というよりどちらかと言うと、Heleneは基本的にはとても男性的なフィーリングの持ち主のような気がします。舞台上ピアノに近づく歩き方なんぞは、はにかんでいる青年のようではありませんか?それにしても最近のBach演奏をYoutubeでみたら、なんだか急に老けたようで、彼女が精神的肉体的な危機を乗り越えようとしている気がしてなりません。どなかた理由がおわかりなら教えて下さい。

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岡本 浩和

>Judy様

>Heleneは基本的にはとても男性的なフィーリングの持ち主

おっしゃるとおりですね。僕もそう思います。

>急に老けたようで、彼女が精神的肉体的な危機を乗り越えようとしている気がしてなりません。

なるほど。そういう見方もありますか・・・。理由はわかりませんが・・・、探ってみましょう(笑)

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