バルビローリ&ハレ管のヴォーン・ウィリアムズほか

イギリス音楽というのは重厚でありながら内側に悲哀にも似た感情を湛える。それは、王室の権威をこれ見よがしにアピールせんとするパッションと、その陰に隠れて大英帝国の栄華を支えた庶民の見果てぬ夢のせめぎ合い。いかにも矛盾に満ちた事実がこの国をずっと支配してきたのだろう。遠い極東の僕たちには決してわかり得ない秘密がたくさんありそうだ。

バルビローリの演奏を聴いていて、音楽の儚さと、それがゆえの美しさを想った。
芸術というのは天才を媒介に天から降って湧いた宇宙そのものなのかも。特に、時間と空間を超え、瞬間に消えゆく音楽というのは老子の言う「道」というものをあらわす目に見えない言葉のように思える。
然るに音楽は教会に端を発し、時代が上がるにつれ、仲介する人間(作曲家)の性質が刷り込まれ、純粋無垢、静謐なものから感情や思考にまみれた大管弦楽作品、あるいは20世紀の現代音楽なるものに変貌する。良い悪いの問題でなく、人が自然や宇宙を支配しようというエネルギーがある時期、すなわち産業革命期から巨大になっていったということだ。

大航海時代、ヨーロッパを支配したのがスペイン。そこに、エリザベス1世の登場。彼女は生涯を独身で通し、冒険者(侵略者?)に大金を与えて世界の海を走らせ、最後はスペインの無敵艦隊までをも撃ち破るという歴史的大事業(?)を成し遂げる。そしてここに世界の覇権が大英帝国に移譲される。

当時、イギリス国内で活躍した作曲家は数多。ウィリアム・バード(1543-1623)をはじめとし、ジャイルズ・ファーナビー(1560-1628)、ジョン・ブル(1562-1628)ら。彼らの音楽はとてもスノッブで、それでいて情緒的。まさに天からインスピレーションをいただきながら、エリザベス朝当時の空気感までをも如実に刻印する。
バルビローリ卿がおそらく編纂したであろう「エリザベス組曲」なる音楽でステージの幕が上がる。何と壮大雄渾でありながら、何て静かで寂しい音楽たちなのだろう。

名演奏揃いの“Great Conductors”ボックスから1枚。バルビローリ&ハレ管がルガーノで披露したイギリスとスペインとをテーマにした音楽の饗宴。いかにも重厚で身なり正しいイギリス音楽に対して、ロシア人とフランス人が見たスペインの印象というのはいかにも軽妙で明朗、愉悦に富む。

・エリザベス組曲
-バード:ソールズベリー伯爵のパヴァーヌ
-作曲者不詳:アイリッシュ・ホー・ホーン
-ファーナビー:トイ
-ファーナビー:ジャイルズ・ファーナビーの夢
-ブル:王の狩
・ヴォーン・ウィリアムズ:交響曲第8番ニ短調
・リムスキー=コルサコフ:スペイン奇想曲作品34
・シャブリエ:スペイン狂詩曲
サー・ジョン・バルビローリ指揮ハレ管弦楽団(1961.4.11Live)

ヴォーン・ウィリアムズの第8交響曲は英国人指揮者らしい正統派名演奏。第1楽章ファンタジーの、その名の通りの幻想的描写。第2楽章スケルツォは愉快でおどけたブラス。そして第3楽章カヴァティーナは夢見るストリングス。フィナーレ、トッカータの冒頭はビッグベンの鐘の音とファンファーレか・・・。英国人は何てプライドが高いのだろう・・・(笑)。

そういえば、この国からビートルズが生れ、キング・クリムゾンやイエスも生まれたんだ。
なるほど、彼らの音楽にも同じような重厚さと悲哀が錯綜する。英国人気質というのは内側に随分「矛盾」を孕んでるんだろうな・・・。ショスタコーヴィチの二枚舌とはまた異種の「矛盾」。


11 COMMENTS

ふみ

バルビローリ/ハレ管と言えば、バルビローリ死去の2週間前?のエル1が思い出されます…素晴らしい演奏です。
それにこの間発売されたケルン放送響とのシベ2もちらっと聴きましたが濃厚な演奏でした。
ロンドンのロイヤル・フェスティバルホールにも彼の銅像がありますが、やはり世界的名声に比較して、イギリスにおいてはバルビローリの評価は途轍もなく高いんでしょうね。

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岡本 浩和

>ふみ君
死の2週間前のエルガーとは!それはどこからリリースされてるの?
調べてみたもののわからないんだけど・・・。

>イギリスにおいてはバルビローリの評価は途轍もなく高いんでしょうね。

なんせサー・ジョンだからね・・・。

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ふみ

BBCから出ています、ライヴ盤で。確か死の数週間前の録音です。以前にお貸ししたデイヴィスの方が個人的には好きですが、こちらも迸る情熱と儚さが交わった名演です。確か、バルビローリはエル1は3種類録音してるはずです。
これで見れますかねぇ。

http://app.m-cocolog.jp/t/typecast/171394/151893/71402714/image?src=http://wanderer.way-nifty.com/photos/uncategorized/2012/01/26/elgar_sym1_barbirolli_bbc.jpg

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ふみ

探した挙句、ありました!
おぉ、このCDってそんなプレミアが付くようなものなんですか…普通にユニオンとかで売ってる気がするんですけどねぇ。
今度、お持ちします。

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みどり

ふみ様、凄いプレミアが付いておりますよ!(笑)
ユニオンでは見つからなかったですね。

因みに、各地のアマゾンでの新品での最低価格比較は下記の通り
・アメリカ 113.71ドル
・イギリス 59.95ポンド
・フランス 20.61ユーロ
・スペイン 10.97ユーロ
・イタリア 取扱なし

フランスとスペインではアマゾンで直に取扱があるため法外な価格
にはなっていないようです(笑)
…と、今再度確認したら「注文はできるが一時的に在庫切れ」だそう。

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岡本 浩和

>みどり様
さすがです!!
みどりさんの発掘&調査能力には毎々脱帽です。
しかしまぁ、とんでもない値段がついてますね・・・。

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