インゴ・メッツマッハー就任披露公演の「ワルキューレ」第1幕

njpo_20130906急遽予定が飛んだので、インゴ・メッツマッハーの就任披露公演に駆け付けた。予想に違わない圧倒的素晴らしさ!今夜はサントリーホールで日本フィルがピエタリ・インキネンの棒でオール・ワーグナー・プログラムを振っており、しかも「ワルキューレ」第1幕は同一演目ということでどちらにするか一瞬迷ったが、オーケストラの力量だけ考えても絶対的に新日フィルなので、即座に錦糸町行き決定。おそらく決断に狂いはなかったと思う。

それにしても「ワルキューレ」第1幕というのはよくできた舞台だ。今回のように演奏会形式でやってもまったく遜色がない。何より登場人物が3人で、その掛け合いにより物語が進行してゆくのだが、ストーリーが進むにつれ音楽が熱を帯び、聴いているこちら側の心までが思わず熱くなる。「恋」のはじまりが直接的に伝わり、ワーグナー音楽のエロス(大岡昇平氏は性交音楽と揶揄したけれど、そんな露骨でないどちらかというとプラトニックに近い)が手に取るようにわかるところが実に面白い。

今日に限っては「かぶりつき」だと決心し(笑)、当日券売り場で1階前列を希望したら2列目真正面が残っていた。願ったり叶ったり。

インゴ・メッツマッハー就任披露公演
第514回定期演奏会〈トリフォニー・シリーズ〉
2013年9月6日(金)19:15開演
すみだトリフォニーホール
・R.シュトラウス:交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」作品30
休憩
・ワーグナー:楽劇「ワルキューレ」第1幕〈演奏会形式〉
ミヒャエラ・カウネ(ジークリンデ)
ヴィル・ハルトマン(ジークムント)
リアン・リ(フンディング)
インゴ・メッツマッハー指揮新日本フィルハーモニー交響楽団

「ツァラトゥストラ」から素晴らしかった。リヒャルト・シュトラウスの音楽はやっぱり実演でなければだめだと再確認。そもそも録音では最弱音の低音がほとんど聴こえないが、地鳴りのようなバスの音の意味深さをあらためて聴いて、彼の音楽が確かなグラウンディングの下に、しかも徹底的に計算され出来上がっていることに最敬礼したくなった(笑)。
各々の楽器に登場させる独奏部分の色気はワーグナー以上だし、何より弦楽器の女性的な響きが(あるいは陰的共鳴とでも表現しようか)たまらなく官能的なのである。それに対する金管の男性的な勇猛な響きと、木管の自然を思わせる響きが一体になる時の恍惚感。
例えば、「病より癒えゆく者」のゲネラル・パウゼの後の木管群と弦楽器群の掛け合いによる宇宙的響きと、その後に続く「舞踏の歌」での崔文洙氏のソロが際立って妖艶だったことに武者震いを覚えた。沈みゆく最後の音まできちんと耳にすることができたし、何より聴衆がお行儀よろしい。真に良かった。
20分の休憩後、いよいよワーグナー。本当にあっという間の1時間強。メッツマッハーの音楽作りは極めて明快で、前奏曲から虜になるほどエネルギーが深い。弦の歌わせ方も抜群だし、最適なテンポで音楽が進みゆく様がとにかく素晴らしかった。とはいえ、今日の出来の立役者は3人のソリストだろう。彼らの活躍が真に大きかった。リアン・リのフンディングの意味深い恐ろしさ。そして、場が進むにつれ、惹かれ合う様が見事に表現されるミヒャエラ・カウネのジークリンデとヴィル・ハルトマンのジークムントの息もぴったりの掛け合いの妙。
白眉は間違いなくジークムントとジークリンデが恋に落ちた第3場だ。演奏会形式とはいえ、決して機械的でない、極めて感情移入の伴った舞台が繰り広げられ、2人の心がひとつになって行く様が完璧に表現されていた。

ちなみに、オーケストラは下手側にコントラバス、上手側に6台のハープが配置され、内声部を真ん中に置いた両翼配置。
インキネン&日フィルの方はどうだったのだろう?気になる・・・。

 


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2 COMMENTS

くまがい

>インキネン&日フィルの方はどうだったのだろう?気になる・・・
岡本さん くまがいです。お久しぶり。
土曜日にインキネン&日フィル、行ってきました。多分オケは新日が上かも
しれませんが 歌手が充実していて とてもよかったです。
佐野さんと会って、彼は岡本さんの行った前日の新日と日フィルと
両方聞いて、”両方良かった、新日はオケがよかったし 日フィルのほうは
歌手が良かった”とのこと。特にイタリア人のソプラノが前半トリスタンの愛と死も
歌ったのですが 迫力あってよかったです。今週末の神奈川フィルのオペラを見たくなりました。
なお土曜は私は昼に川崎で ピアノ連弾のベートーベンの交響曲7番を聞いたあと
サントリーに行ったのですが この7番のピアノ連弾が またよかったです。
7番のいろいろな旋律はピアノの指がよく回る、近い音でできているなー、と
思いました。ベートーベンのベースはやはりピアノですねー、きっと。
では また。(クラオタ会にもぜひどうぞ)

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岡本 浩和

>くまがい様
ご無沙汰してます。
ということは佐野さんは同じ会場にいらしたんですね。墨田区の講座の受講生の方も2名いらしたそうなのですが、残念ながらどなたともお会いできませんでした。
そうですか!インキネンも良かったですか!
せっかくだから両方聴きたいと思ったのですが、土曜日は仕事で無理だったのです。歌手が良かったとなると「トリスタン」も聴きたかったです。

>ベートーベンのベースはやはりピアノですねー、きっと。

そうでしょうね。しかし7番の連弾版というのは興味深いです。また面白いコンサートを見つけられたものですね(笑)。
またクラヲタ会にも参加させていただきます。

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