風邪をひいた模様・・・

本格的に風邪をひいた模様。
咳が出て、声もおかしくなり、何より食事の味がいまひとつわからない。いやはや、明日もまる一日忙しいというのに・・・、困った。
講座の準備の続きでワーグナーの映像をいろいろと漁った。「ローエングリーン」の第3幕あたりが入門者には無難かなとも思ったが、昔購入したアバド&ウィーン国立歌劇場による演奏のLDしか手元にない。然らばやっぱりこの際「指環」から攻めてみるかと考えたが、神話の世界であらすじや登場人物の説明をするだけで疲れそうなので(聴講する方は頭がおかしくなりそうなので・・・笑)、「トリスタン」にすることにした。

久し振りに何となく全曲を「ながら」で視聴きしたが、「トリスタン」ほど動きのない、そういう意味では退屈なオペラはないかも、なんて感じた。ただし、これも演出のせいだろうな、とも。登場人物が少なく、しかも舞台も動きがほとんどなく、どちらかというとトリスタンとイゾルデの内面心理を描く劇ゆえ、創る側も相当難しかろう。風邪をひいて多少微熱もありそうだったから途中ついつい眠りこけてしまった。ふと目が覚めたら第2幕が終わったところ・・・(笑)。

第3幕からあらためて真面目に観るが、音楽は圧倒的。4時間弱に及ぶこの楽劇のどの瞬間をとってみても、聴く者を恍惚とさせる旋律とエナジーに溢れる。ワーグナーが自身の内面に起こったマティルデ・ヴェーゼンドンクとの恋沙汰の葛藤を下地にしただけあり、悶えるような楽音が孤独な者たちの心を捕えて離さない。ちなみに僕は、まだ恋も愛も何も知らない高校生の時ですらこの音楽には参った。溺れた。

ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」(Blu-ray Disc)
ロバート・ギャンビル(トリスタン)
ニーナ・ステンメ(イゾルデ)
カタリーナ・カーネウス(ブランゲーネ)
ボー・スコウフス(クルヴェナール)
ルネ・パーペ(マルケ王)ほか
グラインドボーン音楽祭合唱団
イルジー・ビエロフラーヴェク指揮ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
演出:ニコラウス・レーンホフ(2007.7.29,8.1&6Liveイギリス、グラインドボーン歌劇場)

このディスクを聴いて、おそらく1950年代のヴィーラントによる前衛的(といわれた)演出というのも観る側からすると極めて単調で、最初は受け入れ難かったものなのかも、と思った。どうも僕は、「指環」の場合もそうだが、ワーグナーが初演当時に指定した(現代からみると)保守的な演出が肌に合うようで、例えばレヴァインがメトロポリタン・オペラで演ったオットー・シェンク演出のステージのような「具体的な」のが好きみたい。

こんな風に書くと、「オペラ音声だけ」主義者というなら舞台の具体、抽象は関係ないだろうと思われそうだが、さにあらず。演出が抽象的でも観客側にイマジネーションを喚起するものならそれはそれで結構。しかし、何とも無機質で機械的で、温かみを感じられない抽象的な舞台だとそれだけで興醒めなのである(記憶に相当薄いのだが、確か30年近く前のバレンボイムによるバイロイトの映像は良かった。残念ながら手元にないのでどんな雰囲気だったか確認できないけど)。そう、人間味を感じるかどうか。そして歌手のイメージが登場人物とマッチするかどうか・・・。とにかくオペラの場合問題は多い。そんなこというならお前がやってみろと怒られそうなのでこれくらいにしておくが、「音声だけ」主義者になった理由はそういうところにもある(自分で勝手に台本のト書きだけで空想できるし)。

ところで、2007年のグラインドボーン音楽祭の舞台を収録したこのディスク。出演者の風貌もイメージに合わないし、舞台もロボット的だから趣味ではないのだけれど、演奏はすごく良い(それにしてもBlu-rayの画質の良さは驚異的だ。いろいろとまた蒐集したくなる・・・苦笑)。


5 COMMENTS

雅之

こんばんは。

>そう、人間味を感じるかどうか。そして歌手のイメージが登場人物とマッチするかどうか・・・。とにかくオペラの場合問題は多い。

だからこそ面白いんじゃないですか(笑)。

「オペラは音だけ派」は、オーディオ全盛時代の申し子ですね、良くも悪くも。

しかし、生の舞台を存分に観た経験豊かな人が言うのなら話は別です。

「ドナルド・キーンの音盤風刺花伝」
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「音楽の出会いとよろこび―続音盤風刺花伝」
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という往年の名著は、当然読まれたことありますよね?

返信する
岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。

>だからこそ面白いんじゃないですか(笑)。

おっしゃるとおり!書いた後に僕もそう思いました(笑)。

あと、ドナルド・キーンさんの著作残念ながら読んでおりません。
あーだこーだのたまう資格なしですね、失礼しました(涙)。
絶版のようなので古本屋など漁ってみます・・・。

それにしても、震災以後の雅之さんの境地はもはや「悟り」ですね!

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雅之

>震災以後の雅之さんの境地

ベートーヴェンも50歳の時は案外こんな境地だったかもと、勝手に自惚れています(爆)。

返信する
雅之

それにしてもベートーヴェンの50歳(1820年ごろ)は、ほんと大した曲を作曲していないよなあ。
仕事してなかったのかなあ(笑)。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%99%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%B4%E3%82%A7%E3%83%B3%E3%81%AE%E6%A5%BD%E6%9B%B2%E4%B8%80%E8%A6%A7

たぶん体制への義憤にも疲れて、音楽から遠ざかっていたんじゃないですかね。
どうでもいいやってね(笑)。
その気持ち、わかる、わかる、痛いほどわかる。
http://www.amazon.co.jp/100-000%E5%B9%B4%E5%BE%8C%E3%81%AE%E5%AE%89%E5%85%A8-DVD-%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%82%B1%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%83%89%E3%82%BB%E3%83%B3/dp/B005Y375CY/ref=sr_1_1?s=dvd&ie=UTF8&qid=1325925046&sr=1-1

だが、そういう時期があるからこそ、その後深まるんだ!!

返信する
岡本 浩和

>雅之様
こんにちは。
同感です。
理由はどうであれ、仕事をしない時間って大事かもですね(笑)。
おそらく世俗にまみれながら出家したような状態だったのかもしれません。
ベートーヴェンもその数年のお陰で深遠な後期の扉を叩くことができたんだと僕も思います。

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