満月の日に「瞑想するグレン・グールド」を聴いて思ふ

gould_and_serenity編集ものは邪道だと随分長い間決めつけていたことは確か以前も書いた。
でも、それも「思い込み」という悪い癖に過ぎないとあらためて思った。

先日、「スケルツォ倶楽部」さんが紹介されていたGLENN GOULD …And Serenityと題するアルバムを聴き、そのあまりの美しさに度肝を抜かれた。邦題は「瞑想するグレン・グールド」という。まさにそのタイトル通り、グールドの数多の録音から選ばれた祈りに満ちた音楽たちの何というエネルギー・・・。今宵の幻想的な満月に相応しい、何と陰の力に満たされ、魂を磨き、周囲のすべてを浄化する力に漲ることか。

僕は一体なぜこの音盤を手に入れたのか?それは日本盤のボーナス・トラックにブラームスの作品118-2の別ヴァージョンが収録されていたから、それだけの理由。しかし、それ以上に、今夜のお月様を愛でながら、そして感じながら独り静かに耳にすることに意味があったかのかと思わせられるほどに、グレン・グールドという稀代のピアニストの妖艶で崇高な(何という矛盾!)側面を感じることができたことが何よりの収穫。

アンド・セレニティ―瞑想するグレン・グールド
・J.S.バッハ:協奏曲ニ短調BWV974~第2楽章アダージョ
・シベリウス:ソナチネ第2番ホ長調作品67-2~第2楽章アンダンティーノ
・R.シュトラウス:ピアノ・ソナタロ短調作品5~第2楽章アダージョ・カンタービレ
・ブラームス:間奏曲イ長調作品118-2
・メンデルスゾーン:無言歌ホ長調作品30-3
・メンデルスゾーン:無言歌ホ長調作品19-1
・C.P.E.バッハ:ヴュルテンベルク・ソナタ第1番イ短調Wq.49-1~第2楽章アンダンテ
・J.S.バッハ:イギリス組曲第4番ヘ長調BWV809~第4曲サラバンド
・グリーグ:ピアノ・ソナタホ短調作品7~第2楽章アンダンテ・モルト
・スクリャービン:2つの小品作品57~第1曲「欲望」
・スクリャービン:2つの小品作品57~第2曲「舞い踊る愛撫」
・R.シュトラウス:5つの小品作品3~第1曲アンダンテ
・ブラームス:間奏曲変ロ長調作品117-2
・ブラームス:バラード第1番ニ短調作品10-1
・ブラームス:間奏曲変ホ長調作品117-1
・ブラームス:間奏曲イ長調作品118-2(別ヴァージョン)
グレン・グールド(ピアノ)

グールドはバッハに限る、などと断定はしていなかったものの、ロマン派から近現代に至る作品解釈におけるグールドの功績を見誤っていたのかも。何というチョイス!!そして何というプログラミング!!(半分は編集プロデューサーのルイス・デ・ラ・フエンテ氏の力量!)

有名なのは、グールドが芸術の存在意義を内なる燃焼であるとし、個人的な内面の深い経験は、浅薄な見せびらかしよりはるかに価値があるという表明である。彼はこう主張する―「芸術の目的は、アドレナリンの瞬間的な放出ではなく、驚きと穏やかな心の状態を、生涯かけて築いてゆくことにある。」
ディヴィッド・トゥープ(小倉眞理訳)~ライナーノーツより

ここのところ僕は思う。
不安を原動力にしていわゆる成功を勝ち得ている人々に限り、どうにも表層しか見ておらず(逆に言うと表面を捉える力に長けていると資本主義社会においては相応の成功を収めることができるということか??)、確かに的を射た正しいアドバイスをいただけるのだけれど、芯から納得させられない何かがあるということを。グールドは芸術に限って言及しているが、あらゆる社会活動において「アドレナリンの瞬間的な放出ではなく、驚きと穏やかな心の状態を、生涯かけて築いてゆくことにある」という言葉は当てはまるのでは。

 


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2 COMMENTS

畑山千恵子

今、20年前に「音楽の世界」と言う雑誌に連載した「なぜ、グレン・グールドか」を大胆に書き直したものを出してみようかと考えています。読み返してみると、グールドに飲まれたかもしれません。そんな重いです。

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