音楽の贈りもの第9回 前田朋子ヴァイオリン・リサイタル

mayeda_tomoko_20140712妙な言い方だが、やっぱりこの人はきちんとしている人なんだろうと思った。いや、「きちんと」というより「社交的」と言った方が正しいのかも。表現される音楽は何より演奏者の態を表す。
ただし、単に形の整った「優等生的」解釈だというわけではない。それは、特に後半の、ご本人曰く「踊りをテーマにした」作品たちを耳にして一層明らかだった。例えば、ブラームスのハンガリー舞曲に見るジプシー的妖艶な響きと、この音楽がいかにもロマの民俗音楽を端緒にしていることがよく理解できる「崩し方」に感動を覚えたし、あるいはバルトークのルーマニアの片田舎の農民たちのほのぼのとした愛らしい雰囲気を巧く表現していることに心が動いた。そう、音楽というのはそもそも人に感動を与え、踊り出したくなるようなものなんだ。

音楽の贈りもの第9回
前田朋子ヴァイオリン・リサイタル
2014年7月12日(土)19:00開演
横浜みなとみらいホール小ホール
前田朋子(ヴァイオリン)
金子薫(ピアノ)
・シューベルト:ソナチネ第1番ニ長調D384
・ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第6番イ長調作品30-1
休憩
・ヴィエニアフスキ:華麗なるポロネーズ第2番イ長調作品21
・ブラームス:ハンガリー舞曲第2番&第5番
・パラディース:シチリアーノ(ドゥシュキン編曲)
・バルトーク:ルーマニア民族舞曲集
~アンコール
・マスネ:タイースの瞑想曲
・ゲルトナー:ウィーンから(クライスラー編曲)

端整なシューベルトに痺れた。美しかった。特に、明るく伸びやかで、しかもしなやかな旋律に溢れる第2楽章に、会場が癒しに包まれた。父の抑圧から解放されんとばかりに音楽家として成功するのだという強い意志を持っていたであろう19歳のシューベルトはその時何を想っていたのか・・・。
そして、「ハイリゲンシュタットの遺書」直前の苦悩の最中にあるベートーヴェンが生み出した、信じられないほどの「慈しみと優しさ」に満ちる作品30-1に、前田朋子の真面目さと妖艶さの不思議な同居を僕は発見した。何という矛盾・・・(笑)。おそらく当時のベートーヴェンはそれどころじゃなかったはず。なのに、表現される音楽の「自由と解放」の深みと言ったらば・・・。第2楽章アダージョ・モルト・エスプレッシーヴォのめらめらと内燃する愛の歌に感激した。第3楽章の変化に富む各変奏曲の表現解釈にひれ伏し、特に第5変奏アダージョの優しさに痺れた。
休憩後のヴィエニアフスキでは躍動感たっぷりに、超絶技巧も何のそのとばかりに妙技が披露された。そして、ブラームスのエキゾチック・ポピュラー音楽にも圧倒された。前田朋子の本領発揮・・・。さらには、パラディースなるウィーンの女流作曲家の静謐な音楽に心洗われた。

何よりアンコールに奏された「タイースの瞑想曲」の美しさ・・・。
正味1時間半という凝縮された時間の内に、ヨーロッパ音楽の真髄を、あくまで正統的民族音楽的見地から聴かせていただいた。
感謝感激、である。

 

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