田中晶子ヴァイオリン・リサイタル@王子ホール

akiko_tanaka_20141110華奢な身体から思わぬ芯のある堂々たる音が出てきたときには正直驚いた。
それでいて単に馬鹿でかい音でなく、撫でるような優しい音色をも兼ね備え、フランクもメンデルスゾーンも素晴らしい演奏だった。
デュパンの「椿姫」変奏曲の、悲劇とは思えない終始愉悦に溢れる音楽の洪水。静謐な前奏曲に続く第1幕冒頭の急進的な楽想がうなりを上げ、その後の「乾杯の歌」の旋律では、聴く者をその名の通り音楽で酔わせる妙味。ヴィオレッタが歌い、アルフレードが奏で、そして時に叫び、泣くのである。わずか十数分に込められたヴェルディの喜怒哀楽が田中晶子の繊細かつ重厚なヴァイオリンによってまるで「椿姫」の舞台を観るかの如く見事に表現された。

MAGICO CONCERT “del Maestro” Vol.8
田中晶子ヴァイオリン・リサイタル
2014年11月10日(月)19:00開演
銀座王子ホール
・デュパン:歌劇「椿姫」の主題による変奏曲
・フランク:ヴァイオリン・ソナタイ長調
休憩
・メンデルスゾーン:ピアノ三重奏曲第1番ニ短調作品49
~アンコール
・ラフマニノフ:ヴォカリーズ作品34-13
・ピアソラ:リベルタンゴ
田中晶子(ヴァイオリン)
田村響(ピアノ)
北口大輔(チェロ)

セザール・フランクの名作イ長調ヴァイオリン・ソナタは、実に妖艶で深い佇まいを示す。第1楽章冒頭のピアノの伴奏から深淵を覗き見るかの如く重く暗い。しかし、ヴァイオリンの主題が現れるやすぐさま音楽は様相を変える。まるで一条の光に照らし出されるように音楽はゆっくりと自然の美に満ちる明るみの世界への歩みを始めるのである。このあたりのニュアンスから田中と田村の息の合い具合はぴったり。続く第2楽章も巨匠然とした堂々たる風格に心動かされ、最後のあまりに前のめりのエネルギーに舌を巻く。
少し間をおいての最後の2つの楽章が今宵のクライマックスを形成する。終楽章の出のピアノに若干のとちりはあったものの、夜明けのように音楽は勢いを増し、煌めく陽光に満たされる。暗から明へというモチーフと、循環形式による楽想の連関によりすべてがひとつであることを表現するフランクの名曲が、今ここに生まれたかのように響いた。

休憩を挟んでの後半は、いよいよ北口大輔を加えてのメンデルスゾーン。
僕は思った。フランクの時もそうだったが、とにかく田中晶子は自己中心的に主張しない。あくまで他の楽器との調和が彼女の本懐なのだ。おそらく相手の表情をよく見、相手の音をよく聴き、埋もれることなく、そして出過ぎることもなく絶妙なバランスの中に身を置きながら自身の音を虚心に再現する。当然その意思に導かれるように生まれる音楽の神々しさと言ったらば言葉にしようがないほど。素晴らしかった。
第1楽章冒頭のチェロによる主題提示から呼吸は深く、旋律は滑らか。そして、主題がヴァイオリンに引き継がれ、一層熱を帯びゆく様に、メンデルスゾーンの内なる情熱を垣間見る。第2楽章の夢見る旋律にひとときの安寧を覚え、第3楽章で愉悦の舞踏が花開き、続き迎える終楽章において、3人のソリストが見事にひとつに溶け合うのである。
なんと素晴らしい三重奏であったことか・・・。

アンコールでは田中晶子によるラフマニノフのヴォカリーズが披露され、そしてトリオによるピアソラのリベルタンゴが奏された。ヴォカリーズの憂愁に涙し、リベルタンゴの狂騒に、僕は音楽の悲哀と愉悦の両方を見た。
夢見るような銀座の夜・・・、素敵な夜のひととき・・・。

 

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