前田朋子 バッハ:無伴奏ヴァイオリン全曲演奏会(前半)

bach_mayedatomoko_20131020雨しぶきの音とバッハの音楽がシンクロする。慈みの雨・・・。
禅宗の寺院である建長寺の法堂で開催された「前田朋子バッハ演奏会(前半)」を訪れた。第8回鎌倉芸術祭2013の一環。開演に先立つご住職のお話から、あえてコンサート会場とは異なる「異次元」空間でのバッハの意味を考えさせられた。木でできた楽器と木でできた法堂とのコラボ、すなわち「木と木が一緒になって音楽を奏でるのだ」と。音をしっかり聴き届けること、僕たち聴衆がその音を受け止めようとする想いが大切なのだと。うまいことをおっしゃる。
しかも、法堂には大きな観音像。まさに「音を観る」仏様の前での演奏を聴くことになる。荘厳でないはずがない。

正直言うと、当初、会場のあまりにデッドな響き(そもそも演奏会場でないので仕方ないところ。その分演奏の細かいところまでよく見えた)と、戸外の音がもれるのに閉口したが、音楽が進むにつれまったく気にならなくなった。実に大自然の中でバッハを聴いているような錯覚。風の音、雨粒が激しく地面を叩きつける音、人の声・・・。なるほど、音楽はできるだけ静寂の中で襟を正して聴くべきなんだというこれまでの概念が吹き飛んだ。「西洋古典音楽」を聴く行為は何も特別なものではないということ。

そして、前半2つ目のソナタ第2番BWV1003のフーガ楽章あたりから、興味深いことに音楽しか耳に入らなくなっていた。聴衆の楽曲途中での(フーガ終了後)拍手は少々興醒めだったけれど、しかしそれも自然の営み、人間の営みのひとつだと思い至った時に納得。どんな喧騒の中でも瞑想が可能なように、自然音に包まれてこそ音楽が活きるというもの。音楽以外のすべての音、人工音も自然音もバッハの音楽を彩る音なんだ。音楽の在り方そのものが僕の中でコペルニクス的に転回した。

第8回鎌倉芸術祭2013
前田朋子 バッハ 無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ全曲演奏会(前半)
2013年10月20日(日)午後2時開演
建長寺法堂
・パルティータ第3番ホ長調BWV1006
・ソナタ第2番イ短調BWV1003
休憩
・パルティータ第2番ニ短調BWV1004
アンコール~
・アンダンテ~ソナタ第2番イ短調BWV1003

休憩時、一瞬雨が上がった。そのわずか20分間の澄んだ空気がとても気持ち良かった。
後半、第2パルティータの冒頭は随分抑制された音で始まった。もちろん前半同様、外の音とシンクロしながらもいつの間にか音楽だけに集中している僕がいた。アルマンド、クーラント、サラバンド、ジーグと進み、いよいよ最後の楽章に入る。まるで意図されたかのように音楽の進行と同時に雨脚が強くなる。シャコンヌではついに激しい雨。僕は想像した。確かバッハの前妻であるマリア・バルバラへの追悼の意を込めてこの音楽が作曲されたという説もあったではないか!果たしてこの雨は涙なのか?それともすべてを浄める清水なのか?

ライブゆえの瑕はあったけれど、とにかく演奏中様々なイマジネーションに満たされたリサイタルだった(あくまで僕的に)。少なくとも今日の会場にはバッハの魂があり、神や仏も降り、大いなる祝福の下での演奏であったと信じたい。
ちなみに、会場は当然暖房なく室温が随分低いようだったが、まったく寒さを感じなかった。集中していたから・・・、かな。
慈悲の雨とバッハ。不思議に似合う。後半は26日(土)、今度は円覚寺にて。楽しみ。

 


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