田中晶子ヴァイオリン・リサイタルVol.4/ゲスト:マキシム・ヴェンゲーロフ

akiko_tanaka_20150529217田中晶子に捧げられたヴィルフリート・ヒラーの「ひとりの美しい乙女の死」を聴いて、死という情景が決して悲しいものでなく、人生を颯爽と通り過ぎた人間のむしろ悦ばしい讃歌のように感じられたのは気のせいだろうか?
前半、一挺のヴァイオリンで奏される音楽には死そのものの美しさが存在した。たとえその死がどんな形であろうと、そこには間違いなくエロス(愛)があった。そして、後半、ピアノ伴奏が徐に入る瞬間の、魂の変容と浄化。存在(ピアノ)と死(ヴァイオリン)の狭間で苦悩する乙女は、すべてに祝福され無理なく昇天できたのか。
ここには「死と変容」のドラマがあった。

また、明朗で開放的で、しかもいかにも雄渾、パッショネートなセザール・フランクのソナタを聴いて、リヒテルの言葉を思った。

最も宗教的なのは、セザール・フランクさ!自分の内面に宿る神だ。すべてが主観的であり、かつ他者から隠されている。自分自身がイコン(聖像)なのだ。
ユーリー・ボリソフ著/宮澤淳一訳「リヒテルは語る」(ちくま学芸文庫)P90

第1楽章アレグレット・ベン・モデラートの仄暗い情熱に痺れる。
昨秋、同じホールでの田村響とのものとはまた印象の異なる、堂々たる音楽が待ち受けるような開始と、中川賢一のピアノとの丁々発止の喧嘩殺法(!?)。続く鬼気迫る第2楽章アレグロには、一条の光どころか燦燦たる太陽が降り注ぐ。一転、漆黒の夜のしじまの如くの第3楽章レチタティーヴォ―ファンタジアの深々とした哀感と静かな慟哭に感動。さらに、終楽章アレグレット・ポコ・モッソの愉悦と、コーダに向かって突き進む音楽の高揚に舌を巻く。
おそらくこの作品を十八番にする田中とそれをうまくサポートする中川の演奏は、テンポの緩やかで静かな箇所では遠心力が働き、逆に急速かつ動的なフレーズにおいては見事な求心力が働く。それが意図されたものなのかどうなのか、それはわからないけれど、とてもバランスが素晴らしかった。

田中晶子ヴァイオリン・リサイタルVol.4
ゲスト:マキシム・ヴェンゲーロフ
2015年5月29日(金)19時開演
王子ホール
田中晶子(ヴァイオリン)
マキシム・ヴェンゲーロフ(ヴァイオリン)
中川賢一(ピアノ)
・ヒラー:ひとりの美しい乙女の死(2000、田中晶子に献呈)
・フランク:ヴァイオリンとピアノのためのソナタイ長調
休憩
・タレガ:アルハンブラの思い出(ルッジェーロ・リッチ編曲)
・サン=サーンス:「あなたの声に私の心は開く」~歌劇「サムソンとデリラ」第2幕第3場
・ショパン:ノクターン第20番嬰ハ短調遺作(ナタン・ミルシテイン編曲)
・パガニーニ:カンタービレニ長調作品17(ルッジェーロ・リッチ編曲)
・パガニーニ:ロッシーニの「モーゼ」の主題による幻想曲MS23
・プロコフィエフ:2つのヴァイオリンのためのソナタハ長調作品56
~アンコール
・サラサーテ:ナヴァラ作品33(2つのヴァイオリンとピアノのための編曲版)

後半最初のリッチ編曲による「アルハンブラの思い出」には驚いた。あの独特のトレモロをヴァイオリンでどう表現するのか興味深かったが、驚くべき技巧的なアレンジで思わず唸った。そして、「サムソンとデリラ」の有名な二重唱のヴァイオリン版の可憐な美しさ、ミルシテイン編曲のショパンの哀しみパガニーニの喜びに惹き込まれた。
なるほど、スペイン、フランス、ポーランド、イタリアと、生地を異にする作曲家の民族色(国際色)豊かな小さな作品たちを、見事に表現し分ける田中晶子のヴァイオリンの粋ということ。素敵だった。

とはいえ、やはり今宵のクライマックスはヴェンゲーロフとの二重奏によるソナタ。何よりプロコフィエフの音楽の素晴らしさ!!第1楽章アンダンテ・カンタービレの哀愁に僕はバッハの第5組曲のサラバンドを空想した。2挺のヴァイオリンが絡む音楽の厚みと、同時に異質な音色が調和してゆく様の崇高さ。第2楽章アレグロの圧倒的迫力に度肝を抜かれ、第3楽章コモドでは、繊細かつ高らかな音色で歌われるマキシムのヴァイオリンに天の声を思い、一方の重厚で野太い田中晶子のヴァイオリンに肥沃の大地を想像した。そして、終楽章アレグロ・コン・ブリオの何という見事なコンビネーション!男と女がひとつになりゆく様子が紡がれる。最後のところでマキシムの楽譜が譜面台から落ちそうになり、音楽が空白になりそうな瞬間もあったが、そこは生の舞台ならではのアクシデント(終演時点のヴェンゲーロフの苦笑いが可愛かった)。
アンコールの「ナヴァラ」も最高。

 

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