アンヌ・ケフェレックのハイドン:ピアノ・ソナタ集(2001.9&10録音)を聴いて思ふ

haydn_sonatas_queffelec265ヨーゼフ・ハイドンのクラヴィーア・ソナタを聴いて思った。
ベートーヴェンの原型はハイドンにあり、ハイドンこそが古典形式の礎を築いた天才だったのだと。
おそらく何某かのフリーメイスン的絡みもあるのだと思うが、モーツァルトが、ハイドンに6曲の弦楽四重奏曲を捧げた際の献辞が素晴らしい。ハイドンには時代の寵児が尊敬するだけの力量が確かにあった。何曲書いたのかは今となってはわからないソナタも、残された作品を聴く限りにおいていずれも傑作であり、何よりその旋律の美しさと堅牢な構成にため息が出るほど。

わが親しき友ハイドンに。広い世の中に、自分の息子たちを送り出そうと決心した父親は、彼らを、幸運によって最良の友となった今日の最も名高いお人の庇護と指導にゆだねるべきものと考えました。高名なお人にして、わが最愛の友よ、ここに彼の6人の息子がおります。彼らは、まことに、長く、苦しい労苦の結実でありますが、しかし、いく人かの友人たちが与えてくれました、少なくとも一部は労苦も報われるだろうという希望が私を元気づけ、またこれらのものがいつかは私にとってなんらかのなぐさめになるだろうと私に期待させてくれるのです。・・・(後略)
1785年9月1日
(海老沢敏訳)
「作曲家別名曲解説ライブラリー14モーツァルトⅡ」(音楽之友社)P79

アンヌ・ケフェレックを聴いた。あくまで正統に、そしてニュアンス豊かにウィーン古典派の音楽を再生する力量に、フランス人でありながらゲルマン的精神の飛翔を垣間見た。
様々な感情の発露。いみじくもモーツァルトが語ったハイドンへの賛美(そのことはモーツァルト自身にも通じること)を、ケフェレックが見事に音にする。

There is no one who can do it all, to joke and to terrify, to evoke laughter and profound sentiment, and all equally well: except Joseph Haydn.

ハイドン:
・ピアノ・ソナタ第62番変ホ長調Hob.XVI:52
・変奏曲ヘ短調Hob.XVII:6
・ピアノ・ソナタ第53番ホ短調Hob.XVI:34
・ピアノ・ソナタ第54番ト長調Hob.XVI:40
アンヌ・ケフェレック(ピアノ)(2001.9.30&10.1録音)

雄渾な主題で始まる変ホ長調ソナタ第1楽章アレグロは、まるで青春のベートーヴェンのような、はち切れんばかりの若々しさに満ちる。
そして、第2楽章アダージョの虚ろな表情に、現実から離れ、夢中に漂流する如くのハイドンの優れたイマジネーションを想う。ここはまさにハイドンの「トロイメライ」だ。さらに、終楽章プレストでは、ベートーヴェンが第8交響曲で挑戦したように愉悦が軽快に踊る。
このソナタには、老年を迎えた作曲者のすべてが刻まれる。

ホ短調ソナタ第1楽章プレストの、まるでドメニコ・スカルラッティのような跳躍の内に在る哀感が胸を締め付ける。第2楽章アダージョの、モーツァルトのような可憐な装飾に感涙。そして、第3楽章ヴィヴァーチェ・モルトの不思議な重み。ケフェレックのピアノが歌い、沈思黙考する。

あるいは、ヘ短調変奏曲の、どこか後年のリストの練習曲を髣髴とさせる長大な主題の美しさが際立つ(決して難曲ではないと思うが)。各変奏も大変に素晴らしいが、特に最後の変奏に見る前進性と柔和な表情の対比に心動く。やはりハイドンは夢見る人だ。

 

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