バルビローリ指揮ハレ管のシベリウス交響曲第5番&第7番ほかを聴いて思ふ

sibelius_2_3_barbirolli_halle088自らの内側に投影された自然と宇宙を具に描くのがジャン・シベリウスの術であると思うのだが、その再現には様々な方法がある。あくまで客観的に外の世界をとらえた演奏と、作曲者の主観を軸として、そこに演奏者の心情を加味し、人間の内なる世界を描き出した演奏と。

熱を帯びたあまりに人間臭いシベリウス。
サー・ジョン・バルビローリの交響曲第7番ハ長調を聴いて思った。
この人の方法はどちらかというと後者だ。
ともかくティンパニの最後の一撃がこれほど意味深く、かつ有機的に響いた演奏をかつて聴いたことがない。この衝撃を最後に体験するために20分と少しの時間を僕たちは必要とするのかも。このあまりに強烈な音が、夢の最中にあった僕たちの意識を一気に目覚めさせる。
人々の覚醒を喚起する驚くべき「調和の音楽」。これは、人類が生み出した音楽芸術の最高の結晶の一つであると僕は断言する。

《第7交響曲》は、例外的にたったひとつの楽章しか持っていない。作曲者自身、はじめの頃は、自分の書いたものが何なのか、よく分からなかった。伝統的な4楽章制の交響曲ではないけれど、かといって交響詩のように特別な何かの標題に基づくものでもない。
マッティ・フットゥネン著/菅野浩和訳「シベリウス 写真でたどる生涯」(音楽之友社)P74

無意識下での創造。もはや神の意志としか思えない奇蹟。

シベリウス:
・交響曲第5番変ホ長調作品82(1966.7.26-27録音)
・劇音楽「ペレアスとメリザンド」組曲作品46(1967.7.13-14録音)
・交響曲第7番ハ長調作品105(1966.7.26-27録音)
サー・ジョン・バルビローリ指揮ハレ管弦楽団

揺れ動く感情の様を見事に表出した人間臭いシベリウス。
サー・ジョン・バルビローリの交響曲第5番変ホ長調を聴いて思った。
終楽章アレグロ・モルト最終の、トランペットの光り輝く主題に魂震え、その後の木管群の繊細な歌に心が揺れる。そしてコーダの、弦楽器の伴奏に乗って奏されるトランペットの感動的なモティーフの解放はバルビローリの真骨頂。ここでもティンパニの激烈な響きに卒倒。

《第5交響曲》は、戦争の後に音楽が目指すべき方向性の、シベリウスによる回答である。彼は新しい、モダンな音楽のすべての傾向をはねのけ、伝統的な作曲への道へ回帰した。しかしそれは、確信に満ちた、それでいてノスタルジックではない道なのであった。
~同上書P68

交響曲第5番はあくまで自然と調和を描く作品だ。にもかかわらずバルビローリは人間の感情というものを刻み込む。
また、「ペレアスとメリザンド」組曲は哀しく、そして劇的だ。

 

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2 COMMENTS

雅之

>自らの内側に投影された自然と宇宙を具に描くのがジャン・シベリウスの術であると思うのだが、その再現には様々な方法がある。

同感です。
であれば、前々回岡本さんが引用された、

宇宙の涯から涯へまで響きゆく一つの巨大な単音の幅を検証すること、それは確かに一つのヴィジョンに他なるまい。けれども、もしこの光栄ある用語があまりに暗過ぎる私の領域に似合わしからぬとすれば、私は私自身の用語をもって、それを一つの架空凝視と名づけても好いのである。私の魂は、広大な真空の一点にはたと立ち止まる。私は、架空を凝視する。そして、そこに行われる一種の精神の体操、私はここに設定された小さな実験室がもつ意味をそれ以上に予定していない。巨大なサイクロトロンやダイナモが旋回する現代、ものものしいランビキやフラスコをごたごたと並べたてて効果零の古ぼけた錬金術にとりかかった以上、その他につけ加えるべき意味などあり得ないのである。
「自序」
~埴谷雄高作「死霊Ⅰ」(講談社文芸文庫)P10

から私が連想するのは、ベルグルンド&ヘルシンキ・フィルよりもカラヤン&ベルリンPOのほうであり、やはりそうなると宮沢賢治が想い描いた架空凝視の顛末なんですよね。

そしてジヨバンニはすぐうしろの天氣輪の柱がいつかぼんやりした三角標の形になつて、しばらく螢のやうに、ぺかぺか消えたりともつたりしてゐるのを見ました。
~宮沢賢治「銀河鉄道の夜」より

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岡本 浩和

>雅之様
なるほど!確かにカラヤン&BPOから「銀河鉄道」という流れが相応しいかもしれません。
いや、「流れも」とあえて言っておきましょう!(笑)

となると、そのつなぎには吉松隆さんが自ずと入りますよね?

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