自然の音に耳を傾けながら・・・

beethoven_mustonen.jpgヴァイオリン協奏曲ニ長調作品61。聴覚に問題を来し始めたベートーヴェンが「内なる愛」を表明した音楽。高校生の時、アンネ=ゾフィー・ムターがカラヤン&ベルリン・フィルをバックに録音したレコードで擦り切れるほど聴いたことが懐かしく思い出される。この音盤、今となっては一般にはさほど顧みられることがないように思うが、僕の場合脳みそにあまりに深く刷り込まれているためどの音盤をもってしても最後はこのムター盤に行き着いてしまう。反復された習慣とは恐るべし。

1989年、サントリーホールでチョン・キョン=ファの実演を聴いた。途轍もない名演奏。この協奏曲でこれほど心が震えた経験は後にも先にもない。その後、テンシュテットの指揮でキョンファが録音した音盤がリリースされ手に入れた。素晴らしい。しかし、残念ながらあの生演奏には明らかに及ばない。そんな記憶を辿りながら、久しぶりに珍しい音盤を取り出す。

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲ニ長調
オリ・ムストネン(ピアノ)
ユッカ・ペッカ・サラステ指揮ドイツ室内フィルハーモニー

ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品61を作曲当時、クレメンティの奨めで作曲者自身がピアノ版に編曲したもの。ヴァイオリンの音に慣れてしまっていると、ピアノによるポツポツと途切れるメロディラインには多少の違和感を覚えてしまうのは事実。資料的価値は十分にあるものの、この楽曲を聴くならやっぱり本筋のヴァイオリン版。ただし、解説書にも書かれている通り、ヴァイオリン版にはカデンツァを残さなかった楽聖がこのピアノ版には長大で秀逸なそれを残しているところが聴きもの。

ところで、昨晩は研修施設の下見を兼ね、友人の会社が所有するタイムシェア別荘「フェザント山中湖」を訪れた。渋谷から中央道を車で2時間。冬の山中湖とはいえ思ったほど寒くはない。天気もよく、美味しい空気と水、そして食事をいただきながら、しばし「静寂」という音楽を聴く。自然と戯れるのは何て気持ちがいいのだろう。山奥の育ちゆえ本来的には都会の喧騒から離れ大自然と対峙しながら生きてゆくという生き方が向いているのかもしれない。樹々や小鳥、動物たちと対話しながら謙虚に生きてゆくのも素晴らしかろう。

「私が目を覚ましたときには、問いへの答えはなされていたのだ。それが「自然」と日の光だった。・・・「自然」はどんな問いもつきつけはしないし、われわれ人間が発するどんな問いかけにも答えはしない。彼女はとうのむかしに、そう決心したのだ。「ああ、王よ。われらが眼はこの宇宙の驚異と変化に満ちた光景を讃嘆の念をもってうち眺め、魂に伝えます。夜はまぎれもなくこの栄光ある被造物の一部を帳でおおいますが、昼がきて、地上より天空のかなたにまでひろがる、この偉大なる作品をわれわれの前に顕示するのです。」
~「ウォールデン 森の生活」(H.D.ソロー著)

夜更けに自然の音に耳を傾けながら、読書をするのもいいものだ。


2 COMMENTS

雅之

こんばんは。
山中湖他、富士五湖はいいですね。ここ数年行ってないので羨ましいです。あの辺に行くと、昔の首相みたいに「美しい国、ニッポン」と思わず叫びたくなります(最近なのに古いなあ 笑)。
1980年代初頭、ベートヴェンのヴァイオリン協奏曲のムター/カラヤン/ベルリンフィルのLP国内盤初出の同時期に、チョン・キョン=ファ/コンドラシン/ウィーンフィルの同曲の国内盤LPも初めて発売され、チョン・キョン=ファ盤の圧勝に決まっていると思って買って聴き比べたら、初期のデジタル録音の固い音で、演奏もピンとこなくて、アナログ録音のムター盤の方が、演奏も録音も、ずっと良かったことに、びっくりした記憶があります。チョン・キョン=ファは録音で評価することは危険だなと思った最初でした。以来失望するのが怖いので、ご紹介の新盤も聴いておりません。
私がこの曲の実演で最高に感動した経験は、十数年前に聴いた、F・P・ツィンマーマンのソロ他による演奏でした(F・P・ツィンマーマンは、現在最も好きなヴァイオリニストのひとりです)。CDではシェリングの新旧盤が好きです。オイストラフもいいですね。
ムストネンは、ショスタコなどの録音は最高に好きですが、ご紹介のCDは、いかにも私好みの企画ではあるんですが(笑)、好奇心を満たしたにとどまっています。やっぱりピアノの曲ではないですね、この曲は。

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おかちゃん

>雅之様
こんばんは。
富士五湖いいですよね。ほんとに身も心も洗濯できた気分です。
>チョン・キョン=ファ盤の圧勝に決まっていると思って買って聴き比べたら、初期のデジタル録音の固い音で、演奏もピンとこなくて、アナログ録音のムター盤の方が、演奏も録音も、ずっと良かったことに、びっくりした記憶があります。
そうでした、そうでした。キョンファ&コンドラシン盤も同じ時期に出ましたよね。僕もムターの方に軍配を挙げました。
>チョン・キョン=ファは録音で評価することは危険だなと思った最初でした。以来失望するのが怖いので、ご紹介の新盤も聴いておりません。
あー、確かにチョン・キョン=ファは実演を聴くべきですね。しかし、少なくともテンシュテット盤はコンドラシンとのものより一層良いと思いますが・・・。
ツィンマーマンは聴いたことないですね。そうですか、おすすめですか。雅之さんがそうおっしゃるなら間違いないですね。聴いてみます。あと、シェリングにオイストラフ。これらは不朽の名盤だと僕も思います。
今日採り上げたムストネンはいかにも雅之さん好みのはずですが(笑)。でも確かに必要ないですね、これは。

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