月の光

faure_souzay.jpg10年来の友人たちと集い、池袋でしこたま呑んだ。人は経験の数に比例して成長する。学習することにより皆「大人」になってゆく。それでも、誰も何も変らない。一人一人あるがまま不変で、未来永劫変るものでない。その人はその人にしかなりえないし、その人のままで良いのである・・・。本日は満月。宇宙の神秘に浸りつつ、「月」の音楽に身を寄せる。

午後、大久保のルーテル教会にてNPO法人東京自由大学主催のレクチャー「アートシーン21パート6」。『夢みる宇宙と音楽と』-宇宙に学ぶ人生の歩き方-と題する、佐治晴夫先生のお話を聴いてきた。先生が独学で学んだというパイプ・オルガンの演奏を交えながら、宇宙が「一つ」であり、誰もがつながっているのだということを物理学、数学などの知識をフル活用して教えてくださる。その約3時間に及ぶ講演の後半に佐治先生が見せてくださった1枚の写真。1977年に打ち上げられた惑星探査機ボイジャーがはるか65億 km離れた位置から1990年2月15日に撮影した「太陽、金星、そして地球の姿」である。姿といっても、映っている地球はいわば針の穴のような「点」にしか見えない。無限の宇宙の中のこの小さな点の中に間違いなく我々人類が存在しているのだという証。
そして、先生がNASAに勤務されている頃、同僚だったカール・セーガン博士が癌で亡くなる前にこの地球の写真を皆に見せて、語ってくれたという最後の言葉。

「諸君、これをよく見てください。あの針の先ほどの小さな点の中にあなたはいるんですよ。あなたの家族もこの小さな点の中にいるんです。ひょっとしたらあなたを殺そうとする相手もこの小さい点の中にいるかもしれない。これから地球はどうなるかわからないけれど、もしこの点の中に何か異変が起こったときよく見てほしい。助けに来る救援隊がいそうな気配はどこにも全くないでしょう。あの小さい点の中に全てが入っている。何かが起こったときにどこからも助けに来てくれる気配はありません。そのことをこの写真は物語っているということをよく胸に秘めておいてほしい。」

孤独な存在。そしてそのたった一つの存在の中に「全て」が包括されているという奇跡。

フォーレ:月の光作品46-2
ジェラール・スゼー(バリトン)
ダルトン・ボールドウィン(ピアノ)

42歳のガブリエル・フォーレが初めてポール・ヴェルレーヌの詩に曲をつけた名曲。わずか3分に満たない歌曲だが、真冬の寒空に光る幻想的な月を想像させる。

そなたの心はけざやかな景色のようだ、そこに
見なれぬ仮面して仮装舞踏のかえるさを、歌いさざめいて人々行くが
彼らの心とてさして陽気ではないらしい。

誇らしい恋の歌、思いのままの世のなかを、
鼻歌にうたってはいるが、
どうやら彼らとて自分たちを幸福と思ってはいないらしい
おりしも彼らの歌声は月の光に溶け、消える、

枝の小鳥を夢へといざない、
大理石の水盤に姿よく立ちあがる
噴水の滴の露を歓びの極みに悶え泣きさせる
かなしくも身にしみる月の光に溶け、消える。
(堀口大學訳)


3 COMMENTS

雅之

こんばんは。
佐治晴夫先生のお話が聴けるとは、何とも羨ましい限りです。
そういえば、今年は名古屋大学にゆかりのあるノーベル賞受賞者が何人も出ました。
その名古屋大学で物理を研究している友人と話していると、私の文系の常識なんて、とても狭いものに過ぎないことをいつも痛感します。私はそういう浮世離れしたことの研究を生業とする彼のことが心の底から羨ましく、尊敬し、かつ影響を受けています。
たとえば、前にもお話しましたが、現在の「宇宙論」の根幹を支える「量子力学」について、まるで門外漢の私なのですが、興味が尽きません。「量子力学」を研究すればするほど、宇宙は誕生以来、無数に枝分かれしているという「多世界(パラレル・ワールド)」の考え方が、真実味を帯びると、その友人は、いつも言っています。もうすぐ実用化されるであろう量子コンピュータは、パラレル・ワールドを利用して、無数のあちらの世界を利用し同時に演算することで、超高速処理を可能にするとも言われています。これは、私に出会ったおかちゃんも出会わなかったおかちゃんも、セミナーに参加した私も、しなかった私も、パラレル・ワールドには、ちょっとずつ違った、あらゆるおかちゃんや私が、何億人もそれ以上も数限りなく存在するってことを意味しますからね・・・まったく摩訶不思議な話で、SFの世界みたいです。でも、南部さんも益川さんも小林さんも、「量子力学」を突き詰めれば、そういう結論になることに気が付いてはいるんですが、自身の研究ではそのことを考えても時間の無駄だから、あえて深入りしないのだそうです。
その友人は口癖のようにいいます。「科学なんて、まだ自然を何も解明できてはいない、科学妄信は宗教妄信と同じくらいバカげている。」と・・・。
ちなみにその友人は、筑波の高エネルギー研究所に在籍したこともあるのですが、そこの粒子加速装置には、「トリスタン」という名称が付いているそうです。Transposable Ring Intersecting Storange Accelerators in Nippon (当初はThree Ring Intersecting Storage Accerelator in Nippon)の略だったそうですが、研究者の間でクラシック音楽好き、ワーグナー好きが多かったことから、この名前になったそうです。考えてみれば、音楽も物質も光も、全ては「波」の性質を持っています。
スゼーのフォーレなどのフランス歌曲の録音、大好きです。ドイツものでも、コルトーとのシューマン「詩人の恋」なんかもいいですよ。

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おかちゃん

>雅之様
こんばんは。
佐治先生の講演はなかなか素晴らしいものでした。
ただ、教会での講座だったので、若干キリスト教絡みのクリスチャン向けのお話が多かったように思います。
しかし、量子力学という範疇の話に及ぶと僕はお手上げですね(笑)。とても興味深いですが。
>その友人は口癖のようにいいます。「科学なんて、まだ自然を何も解明できてはいない、科学妄信は宗教妄信と同じくらいバカげている。」と・・・。
確かにそうですね。いずれにせよバランスよく、です。
>そこの粒子加速装置には、「トリスタン」という名称が付いているそうです。
へぇ、必死で語呂を考えたんでしょうね(笑)
>ドイツものでも、コルトーとのシューマン「詩人の恋」なんかもいいですよ。
これは知りませんでした。ぜひ聴いてみたいですね。

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