夢をかなえるゾウ

bruckner_6_wand.jpg品川ステラボールで開催されている「夢をかなえるゾウ」の舞台を観た。原作は、今年最も注目を集めた小説で170万部のベストセラーということらしいが、どういうわけかこういう直球の「啓発本」には興味がなく、つい先日までその存在すら知らなかった。おそらく小説はそれなりの面白さがあるのだろうが、今日の舞台は可もなく不可もなく・・・。正規料金8,000円を払ってまで観る価値があるとは思えない作品で、招待していただいたので良しとし、ほっと胸を撫で下ろす。
一番の問題は、出演者の誰一人として特別に惹きつける魅力をもった人がいなかったこと。僕は舞台には疎いので下手な批評はできないが、こういうものは誰か主役級の俳優が他の出演者や観客を縦横に巻き込み、その彼(あるいは彼女)を中心とした世界が表出されてこそ最高のものになるのではないかと思うのである。そういう意味では皆さん演技をそこそこ上手にこなしていただけで、飛び抜けて説得力のある魅力的な役者がいなかったことが弱点。
第二に、無用なミュージカル仕立ての演出。ああいうダンスやアクロバティックな動きは見せ場といえば見せ場なのかもしれないが、舞台の進行上過剰な印象を受け、流れが分断され、全体が散漫になってしまっていたところがいただけない。
おそらく原作はもう少し含蓄に富んだ「啓発的な言葉」が頻出しているのではないかと推測するのだが、いずれにせよ読んでもいない本のことは語ることはできないので辛口批評はこれくらいに留めておこう。いずれ機会があったら原作を読んでみたいものだ。

普段あまり耳にすることがない音楽を時に無性に聴きたくなる。今日はクリスマスイブの前日、そして天皇誕生日という祝日。今週中にひとつ企画書を仕上げなければならないので、午後はそのことにずっと頭を捻っていた。熱くなった脳みそを冷やす意味でもってこいの音楽がブルックナー(余計熱くなるか・・・!?)、それもブルックナー党の僕であってもほとんど聴く機会をもたない名曲、交響曲第6番を聴く。残念ながら僕はこれまでの人生で第6交響曲の実演に触れたことがない。ブルックナーの大家である朝比奈先生ですら晩年は採り上げることがなかったのでプロの目からしてもさして面白いとは思えないような楽曲なのだろうか・・・。

ブルックナー:交響曲第6番イ長調(原典版)
ギュンター・ヴァント指揮北ドイツ放送交響楽団(1995.5.15Live)

しかし、このヴァントの演奏をじっくり聴いてみると、さすがに第5交響曲の後に生み出されただけあり、不思議な魅力をもった音楽であると僕には感じられる。まるで、ロベルト・シューマンが「二人の北欧神話の巨人の間にはさまれたギリシャの乙女」とたとえたベートーヴェンの第4交響曲のように・・・。特に、豊かな自然と人間の発する祈りの心が一つになったような第2楽章の美しさは絶美。

2 COMMENTS

雅之

こんばんは。
ブルックナーの交響曲第6番を馬鹿にしてはいけませんねぇ(またかよ!)。旋律も親しみやすく美しいですし、時間的にも長過ぎませんし、金管の聞かせどころも充分ありますし、素晴らしい曲です(確かに後半の2楽章は少し落ちますが、あまり交響曲という形式を意識しない方がよいとは思います)。外来オケも国内のオケも、東京など音楽通の多い、少しでも集客が見込める都市部では積極的にやって欲しいですね。シベリウスの4番以降の交響曲との組み合わせなんて、最高に趣味がよいと思うのですが・・・。
それにしてもヴァントのブルックナーはいいですよね。私は学生のころ、ケルン放送響との輸入盤LPの交響曲全集を入手し聴いて以来、ブルックナーの世界に嵌ってしまいました。このLPは針音は増えましたが、今でも大切にしています。私は異端の演奏も好きですが、ヴァントのような正統的な本物の演奏あってこそ、異端の演奏の存在意義があるのだと思っています。
そういえば、ヴァント&北ドイツ放送響の第6交響曲といえば、チャイコの「悲愴」のCDも持ってたなあ。ヴァントの硬派のチャイコ、大好きです(当然、ヴァントの硬派のブラームスも!)。

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おかちゃん

>雅之様
こんばんは。
いやぁ、2日続きで失礼しました(笑)。
>シベリウスの4番以降の交響曲との組み合わせなんて、最高に趣味がよいと思うのですが・・・。
あぁ、確かにそうですね。それはお洒落です。
>ケルン放送響との輸入盤LPの交響曲全集を入手し聴いて以来、ブルックナーの世界に嵌ってしまいました。
そのLP僕も分売で何枚か持ってました。懐かしいですね。
>ヴァントのような正統的な本物の演奏あってこそ、異端の演奏の存在意義があるのだと思っています。
おっしゃるとおりです。僕もヴァントのブルックナーは大好きです。ブラームスも最高ですね。残念ながら、「悲愴」は未聴です。

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