ヴァイル指揮ターフェル・ムジークのハイドン交響曲第82番「熊」ほか(1994.2録音)を聴いて思ふ

haydn_82-84_weil_tafelmusik570岡田暁生氏の著書「西洋音楽史」における的を射た言及。

思うに古典派の交響曲―とりわけハイドンとモーツァルト―の最大の魅力とは、この「公的な晴れがましさ」と「私的な親しさ」との均衡のことだと思う。交響曲だけではない。ハイドンの弦楽四重奏曲やミサ曲やオラトリオ、モーツァルトの協奏曲や管楽合奏曲やオペラなど、古典派音楽すべてのジャンルが、この「シンフォニックな響き」に貫かれているのだ。
岡田暁生著「西洋音楽史―『クラシック』の黄昏」(中公新書)P112

なるほど「公私の均衡」とは言い得て妙。
抑圧されし雇われ人は、あるいは束縛されし神の子は解放によってその均衡を獲得できたのだろうか。
解放こそが天才の創造力を刺激する。

長年勤めあげたエステルハージ家の楽長の職を辞し、自由になったハイドンの心と魂。
直後に次々と生み出された、いわゆる「パリ交響曲」はいずれもがそれ以前の作品と比して一層の高みにある傑作。まさにモーツァルトは、「パリ交響曲」に触発され、最後の3つの交響曲を一気呵成に書き上げたのではないのか?

「熊」と称されるハイドンの第82番はハ長調、また「牝鳥」といわれる第83番はト短調、そして第84番は変ホ長調という調性を持つ。作曲の順番は異なれど、この調性はモーツァルトの第39番から第41番「ジュピター」に至る道に等しい。
モーツァルトは「パリ交響曲」の素晴らしさに惹かれ、同種の風趣の交響曲を自らの作品においても踏襲しようとしたのか?あるいは彼がもう少し長生きしていたら、残り3つの交響曲を、変ロ長調、ニ長調、イ長調という調性で創作つもりだったのかもしれないなどとあらぬ空想・・・。
父レオポルトの死により、長年の束縛の解けたモーツァルトの創造力は、当時の聴衆が理解できないような崇高なレベルにまで達してしまった。

晴れ渡り澄み切った楽想と内燃する情熱。
古楽器によるハイドン交響曲の金字塔。
ブルーノ・ヴァイル指揮ターフェル・ムジーク、彼らのハイドンは相変わらず鮮烈!
第82番ハ長調第1楽章ヴィヴァーチェ・アッサイの雄渾な響きは、まるで「ジュピター」のそれに近い。第2楽章アレグレットにあるどこか悲しげな安らぎも「ジュピター」のそれを髣髴とさせる。そして、第3楽章メヌエットを経て、終楽章ヴィヴァーチェはさすがに「ジュピター」終楽章フーガの後塵を拝するも、その軽快な音調とティンパニの圧倒的音響に当時のハイドンの自信を垣間見る。

ハイドン:パリ交響曲Ⅰ
・交響曲第82番ハ長調Hob.I:82「熊」
・交響曲第83番ト短調Hob.I:83「牝鳥」
・交響曲第84番変ホ長調Hob.I:84
ジャンヌ・ラモン(コンサートマスター)
ブルーノ・ヴァイル指揮ターフェル・ムジーク(1994.2.15-19録音)

第83番ト短調第1楽章アレグロ・スピリトーソにある翳り。また、第2楽章アンダンテの静かな憂愁。何より終楽章ヴィヴァーチェのスピード感と、テンポが緩やかになった際の移ろいの神業。

とはいえ一層素晴らしいのが第1楽章にラルゴの序奏部を持つ第84番変ホ長調!!
物憂げで哲学的な響きに導かれ、主部ヴィヴァーチェへのあまりに自然な移行。巧い・・・。
第2楽章アンダンテは主題と4つの変奏からなり、その柔らかで虚ろな弦の響きは時にデモーニッシュな音調に支配され、聴く者を虜にする。第3楽章メヌエットも実に神々しい。

何と心地良い均衡!!

 

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2 COMMENTS

雅之

「現代流の」の古楽器奏法、特に弦楽器のそれには、今でも懐疑的です。

「現代流の」古楽器奏法でのハイドンやモーツァルト、ベートーヴェンなどの弦楽四重奏曲には相変わらず食指が動かないです。

はい、わかっています。これはもう明らかに刷り込みですね(笑)。でも、「現代流の」古楽器奏法ファンの人も一緒。

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岡本 浩和

>雅之様

思い入れが強ければ強いほどどっちかに転びますよね。
以前は僕も「現代流」の古楽器奏法はNGでしたが、ちょくちょく聴いているうちに何だか洗脳されてきたように感じます。(笑)
おそらく僕は楽器弾きでないから洗脳されやすいのかもです。

とはいえ、モダン奏法のハイドンと比較してどっちをとるかと言われれば間違いなくモダンです。

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