ストラヴィンスキーの自作自演「妖精の口づけ」(1965.8録音)を聴いて思ふ

works_of_igor_stravinsky355アレクサンドル・スクリャービンの言葉に膝を打つ。

自分が世界を創造し、世界を持ちたい形に作り始めていることに少しの理解で十分気づくでしょう。人の個性が精神を反映すればするほど、個性はより独立して創造する力を有し、創造される世界はそれだけ人間に必要なものに近づき、残りの人たちの世界とは異なったものになる。これは驚嘆に値する世界で、完璧きわまりない自由と独立性を有します。
レオニード・サバネーエフ著/森松皓子訳「スクリャービン―晩年に明かされた創作秘話」(音楽之友社)P132

オリジナリティは精神にひもづけられたものだとスクリャービンは言う。そして、その結びつきが強ければ強いほど自由闊達唯一の存在になり得るのだと。

また、「ストラヴィンスキーが彼の《初期様式》に背を向け、ファリャが死んで以来、この二つの特権をもつ作曲家は少ないですね、自分自身であり、しかも自分よりほかの人たちに話しかけるという・・・」という問いに対するアルチュール・オネゲルの発言にも納得。

ある人たちは陳腐に堕するのを心配しているのです。彼は簡単であることを恐れ、新作を出すごとに、世界中に革命をおこさないといけないと思ってる。永久革命なんて、じつに奇怪な偏執です。不断の革新はたちまち音楽的材料の枯渇にみちびく。わたしはいつも大フォーレのことばを思い出すんですよ、彼は《一小節ごとに天才的であろうなどと考えてはいけない》といっています。しかも、彼はそうやれる天才をもっていたんです!
アルチュール・オネゲル著/吉田秀和訳「わたしは作曲家である」(音楽之友社)P123

どれほど革新的であろうと他人から受け容れらないものでは無意味だと。その点、イーゴリ・ストラヴィンスキーは真の天才だ。《初期様式》に背を向けて以降、すなわち《新古典主義》の時代も《前衛》の時代も、彼は決して他人を置いてけぼりにはしない。

ペルゴレージらの引用によってバレエ音楽「プルチネルラ」を生み出し、チャイコフスキーの旋律からバレエ音楽「妖精の口づけ」を創造、しかもそれが単なる編曲、あるいは管弦楽曲化でなく、見事にストラヴィンスキーの作品として昇華されている点が素晴らしい。古の作曲家の創造物を借用し、天才へのオマージュでありながら、それこそ「自分自身であり、しかも自分よりほかの人たちに話しかける」のである。

ストラヴィンスキーの自作自演集から1枚。

ストラヴィンスキー:
・「バレエの情景」(1963.3.28録音)
イーゴリ・ストラヴィンスキー指揮CBC交響楽団
・「青い鳥のパ・ド・ドゥ」~チャイコフスキーのバレエ音楽「眠りの森の美女」より編曲(1964.12.17録音)
・バレエ音楽「妖精の口づけ」(1965.8.19-20録音)
イーゴリ・ストラヴィンスキー指揮コロンビア交響楽団

イダ・ルビンシテインの委嘱により生まれたバレエ音楽「妖精の口づけ」は、敬愛するチャイコフスキーのピアノ作品から旋律を引用しているが、音楽そのものはいかにもストラヴィンスキーならではの味付けが施され、それこそ「新古典主義」の作曲家のメロディメイカーとしての力量が見事に示される。
例えば、第4場エピローグは、若者の前に再び妖精が現れ、今一度口づけを与えて現世を忘れさせ、そして永遠に雪の王国に連れ去るシーンだが、その音楽の美しさと神々しさに時間を忘れるほど。それはどこかブラームスの影響が感じられるものだが、指揮者としてのストラヴィンスキーのニュアンス豊かな才能が発揮された録音で、どの瞬間も真に素晴らしい。

ある時代の様式と称されているものが、その時代に優勢な影響を及ぼした作家たちの手法の君臨する個別的な初様式の結合から生じていることは言うまでもありません。モーツァルトとハイドンの例を再度採り上げることにより、次のことが確認できます。つまり彼らは同じ文化を享受し、同じ資料に当たり、また相互に自分たちの発見を借用しあったということです。彼らのおのおのは、けれども、自分に固有な奇跡とでも言うべきものをもっています。
イーゴリ・ストラヴィンスキー著/笠羽映子訳「音楽の詩学」(未來社)P66

19世紀末に、ちょうど10年という間隔で相次いで生まれたスクリャービン、ストラヴィンスキー、そしてオネゲルの言葉を知って思った。
天才とはまさに自律的であり、互いに共生できる存在のことをいうのだ。

 

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