サマーフェスティバル2016テーマ作曲家〈カイヤ・サーリアホ〉(室内楽)

summerfestival_20166258月も下旬になると図ったかのように秋の虫が鳴き出すのだから自然は偉大だ。
「考えるな、感じろ!」という声が聞こえた。
未知の作品に対峙するときの恍惚は何ものにも代え難い。何が起こるかわからない、想像を超えた瞬間が頻発するところ。今夜のカルットゥネンによるアンコールもそうだった。わずか10数秒の独奏曲の圧倒的宇宙!驚いた。

細川俊夫氏との対談から聞いた。
フィンランドの音楽的強さはロシアからの独立闘争に始まる民族的歴史的背景とその教育にあるのだとカイヤ・サーリアホは言った。それゆえに、来年独立から100年を迎えるフィンランドという国にはどんな小さな村にも音楽を学べるシステムが整っているのだと。
そしてまた彼女は、まずは意志があって、そして方法があるのだと言う。曰く、ハーモニーと香り。音そのものが持っている力をいかに取り出すか。それこそが音楽の本懐であると説くのだ。

僕は思った。
サーリアホの音楽に内在するものは、日本でいうところの「八百万の神」だと。だからこそ彼女の自然に寄せる思いが音楽に横溢していた。何より奥ゆかしさの中に垣間見る情熱。まるで日本の精神そのもののようだ。

サントリーホール国際作曲委嘱シリーズNo.39(監修:細川俊夫)
テーマ作曲家〈カイヤ・サーリアホ〉
室内楽
2016年8月24日(水)19時開演
ブルーローズ
18:30~プレコンサート・トーク(カイヤ・サーリアホ&細川俊夫)
カイヤ・サーリアホ:
・無伴奏チェロのための「7匹の蝶」(2000)
・ヴァイオリンとピアノのための「トカール」(2010)
・フルート独奏、パーカッション、ハープ、ヴァイオリンとチェロのための「テレストル(地上の)」(2002)
―踊る鳥
―鳥、微小な衛星
休憩
ヴァイオリン独奏のための「ノクチュルヌ」(1994)
・チェロと室内アンサンブルのための「光についてのノート」(2010)(日本初演)
―Ⅰ.半透明の、秘密
―Ⅱ.燃えるように
―Ⅲ.目覚め
―Ⅳ.光の消滅
―Ⅴ.光の中心
アンコール~
・サーリアホ:チェロ独奏曲
アンッシ・カルットゥネン(チェロ)
石川星太郎(指揮・ピアノ)
竹内弦(ヴァイオリン)
アリーサ・ネージュ・バリエール(ヴァイオリン)
アンサンブルシュテルン

サーリアホの音楽はいずれも尊い。
音楽はイメージを喚起する。
「7匹の蝶」に聴く独奏チェロの、海童道宗祖の法竹の如くの破裂音に痺れた。サーリアホのオペラ近作は能にインスパイアされたものだというが、この曲にも至るところに日本的要素が感じられ、見事に惹き込まれた。
また、「トカール」のいわば真っ暗闇の美しさに心動いた。ピアノとヴァイオリンの素晴らしい合一。性格の異なる楽器が交わる瞬間のエクスタシーとでも表現しようか。
そして、「テレストル(地上の)での、これまた様々な奏法を駆使してのフルート独奏の妙。サーリアホの常套である(フルーティスト梶原一紘による)奏しながらの発声は、それこそ詩人と鳥の一人二役の表現手段なのだろう。
休憩を挟んでのヴァイオリン独奏曲「ノクチュルヌ」はタイトル通り静けさに満ち、美しかった。

とはいえ、今夜の白眉はやはり日本初演である「光についてのノート」だろう。
若手のアンサンブルの健闘が光っていたことと、何よりカルットゥネンの縦横無尽のチェロ独奏に感服。この人の演奏にはとにかく作曲者への畏敬の念と愛情がこもっていて、本当に素晴らしかった。
来週開催される「管弦楽作品」がますます楽しみだ。
そういえば、会場にはタン・ドゥン氏やエルネスト・マルティネス=イスキエルド氏もいらした。熱かった。

 

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